新しい切り口のディストピア小説

 ディストピア。社会が歪んだ価値観に支配され、人間が人間らしく生きられず、鬱屈とした状態を享受せねばならない社会。

 この作品で描かれるのは、生成AIによってもたらされる息苦しさです。
 創作活動は全てがAIに持って行かれ、小説などを書いている人間は気持ち悪いと揶揄されるまでになっている。

 主人公の綾香はしょっちゅう電子機器を壊してしまう体質の持ち主で、そうしたものからは自然と距離を置くような状態になっています。その上でこっそりと小説をノートに書きしたためる生活を送っていた。
 しかし、そんな彼女の身にある日事件が起こり……

 ディストピア作品というと、基本的に社会全体を描くようなものが多いのが特徴です。
 その一方で本作は『学校』という範囲にのみ焦点を絞り、そこで生きている大多数の『歪み』を描きつつ、主人公の少女が抱える息苦しさ、そんな中で見つけられる『居場所』による救いが描かれて行きます。

 日常スケールでディストピア作品が描かれるということは切り口として新しく、新鮮な気持ちまで最後まで一気に読めました。
 ラストのオチの付け方も、一種のシニカルさと共に、「人間にとっての幸せとは何か」というのがテーマとして掲げられるようで、とても完成度の高い作品となっていました。
 
 これから本当に到来する可能性のある未来を描いているものでもあり、多くの人にオススメしたい一作です。

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