第2話 美少女の俺

…どうも。



前嶋拓斗です。生前は社畜道をまっしぐらに

進み

過労で散った男でした。



…天界の約束事を破り、

人間界との転移ゲートへ勢いに任せて

飛び込んだ俺だが。


消滅は免れたらしいものの


俺は現在、何故なのか

……少なくとも生前には見たことが

ないような美少女になってしまった。


(...何でだよォ!?)


確かにそもそも、生前の俺の姿そのままで

転送されるなんて約束もなければ

飛び込めばどうなるか分からない危険の方が

ずっと大きかったのが真実であったのだ


彼自身はもうすでに死んでいる身である

わけだが


でもだからってなんでこの姿?


観鈴ちゃんの事をずっと考えていたからか?



お、俺はいくら生前縁がなかったからって

己の姿を女の子に変えてしまうほどに懸想して

しまったということか?



……うう、いかん。ヤバい


なんだか変態になった気分が

してきた。



幸いにもこの場所には拓斗以外には

誰の姿もないが、誰かがいたとすれば

そこにはスカート姿である事をすっかり忘れて

水たまりを四つん這いで覗き込んだまま

自問自答のループを繰り返す怪しい痴女が

佇んでいたわけで。


このままでは下手をすれば職質まっしぐらである。



拓斗は、はたと気づいた。


『そもそも。ここはどこだ?』


見慣れた桜が咲いていると言うだけで、ここを

現代日本だと勝手に思い込んで安心していたが

まさか


下手すると100年後だとか

...1000年も前だとか言わないだろうか。


だてに異世界転生物が流行っている現代の

ライトノベルを積読してきたわけではない。

下手をするとここは、現代日本どころか


幕 末


だったりするのかもしれない!


ゲッ、ありえねえ事じゃねえ!

今にも坂本龍馬とか新撰組が向こうからやって

きそうな想像に怖気たち

拓斗は急いで立ち上がろうとしてー


クラッ...


不意に目の前を襲った強い立ちくらみ


腹から体の力が抜ける感覚が走って



『あ』


あっ


という間に



ドシャッ!!!


拓斗は、そのままー一直線に大地と濃厚な

口付けをかわしたまま倒れ伏した。


後には、桜の花びらが風に揺れる

微かなさざめきと


ー似つかわしくない、獣が唸りを決めるかの

ような

低い轟が響いていた



腹が


猛烈に


「減っ………て、る...」



生前にあった懐かしい感覚に

拓斗は、生還した事をちょっぴり実感し


そのまま意識が遠くなった。

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