5
何で、あんな優しい子が?
あの子が、死ぬだと?
「何でだ!?」
俺はー
俺は。
俺には怒る資格なんかないだろう。
殆ど見知らぬ、他人の少女が
陰惨な結末を迎えることに
俺が何を言えるっていうんだ?
『ありがとうございました』
笑顔、優しさ。
あの時の礼を、言えてねえ。
俺は
ー手をこまねいてんのか?
あの子に
笑顔に
俺は、あの時救われたはずだ。
その日
ー俺は、ようやく、見つけ出したそこに立った。
それは、この世界の森の奥に隠れるように存在する
人間界と、この世界を繋ぐひずみ。
『転移ゲート』
と呼ばれる深い穴だった。
穴の中は、いつか生きていた頃に見た
プラネタリウムの銀河系のように、
暗い闇の中に淀む星を思わせる輝きが無数に煌めいていた。
本物の宇宙と違う点は
その煌めきは絶えず揺れて歪み、ぐんにゃりと
捻れて、渦を巻いており
油膜の張られた水のように、見るものを躊躇わせる
まがまがしい揺らぎだった。
その不安定な磁場を生み出している淵に、
俺は足を掛けた。
無事にたどり着ける保証はない。
けど馬鹿だと笑われようと、構わない。
無力で構わない。
例え消滅してもいい
ー俺は、俺に生きる灯りをくれた
彼女を。
助けるんだ……!!
息を止めて。
ー俺は、淵の中に飛び込んだのだった。
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