第11話 そろそろ本題……

 店内は人で込み合うテーブルと、そこから響く笑い声で溢れかえっている。

 夜、私たち四人は隠れ家から少し離れた位置にある街のとある酒場に立ち寄っていた。


 ジノスが椅子に深く腰掛け、メニュー表を眺める。


「よし、今日は俺の奢りだ。景気づけにジャンジャン飲んでくれ」


「飲んだら打ち合わせに支障が出ちゃうでしょ。店員さん、リンゴジュース四つください」


 ここに来た目的……それは復讐のターゲットとなる人物の情報を集めるため。

 ニーナ曰く、テンセイシャは有事に備えて各地の情報屋と繋がりを持っており、この街では酒場が仲介役を担っているそう。


 私たちは会話を盗み聞きされないよう、店内の隅にある席に陣取った。


「では早速だが、ターゲットの情報について教えてもらえるか?」


「分かりました! 少し待ってくださいね!」


 ニーナは小走りでカウンターへ向かった。

 彼女はしばらく店員と話した後、数枚の紙きれを持って戻ってくる。


「屋敷の暴動を率いたとされる人物の情報が得られました! ターゲットの容姿はこちらを参考にしてください!」


「ふむ、これはまた悪そうな面構えだな」


 紙きれに描かれていたのは、これといって特徴のない男性の姿。

 ここまで無個性だと、情報としては意味を為さない気がする。


「聞き込みを元に情報屋さんが描いたそうですが、だいたいこんな感じらしいです!」


「なるほど。男性、中肉中背、頭髪あり、髭はなし……か。まあ、参考にさせてもらう」


「はい、よろしくお願いします!」


 ……なんだか、ジノスが気を遣っている。

 そんな中、マリーカが頬杖をついて尋ねる。


「まあ、容姿はいいわ。で、個人情報とかは調べてあるの?」


「個人情報ですね? 少し待っててください!」


 ニーナは紙切れの束を漁り、その中から一枚を抜き取った。


「ターゲットの個人情報についてはこちらにまとめてあります!」


「えーと。年齢は若め、配偶者らしき人物は確認できず、職場は街の外のどこか……なるほど理解したわ」


「ぜひ、参考にしてください!」


「え、ええ……参考にさせてもらうわね」


 ……マリーカまでもが気を遣っている。

 参考になるような情報、一切書かれてなかったよね。


「ちなみに情報屋さんはこの情報を集めるために半日、頑張ったそうです!」


「そう、半日……」


「はい!」


「まあ、手がかりが全くないよりかマシよね。よく調べられてると思うわ」


 そんなこと絶対に思ってないよね。

 面倒になったから考えるのを止めただけだよね。

 私は小さく咳払いする。


「じゃあ、そろそろ本題……ターゲットが起こした犯行内容を具体的に教えてもらえる?」


「分かりました! 少し待ってください!」


 ニーナが再び紙切れの束を漁り、その中から一枚を抜き取った。


「犯行内容に関してはこちらを参考に――」


「雑じゃない!?」


 私は目を見開き、両手で机を叩きつけた。


「はい?」


「さっきからペラ一枚のメモ用紙みたいなのばっかり出してくるけどさ、これ本当にちゃんと調べてもらってるの?」


「もちろんです!」


「正直、全然参考になんないよ。容姿と個人情報の下りも、全体的にフワッとした感じだったし」


 こんなもの、情報屋がお金を取っていいレベルに達していない。

 むしろ、こっちがお金を貰って引き取ってやりたいくらいだ。

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