第12話 証拠が不十分だよ
「けど、情報屋さんも一食ご飯を抜いて張り込んだそうでして……」
「ダイエットじゃないんだから。苦労を訴えたいなら、せめて丸一日くらい抜こうよ」
私は頭を抱えながら、ニーナの取り出したメモに目を通す。
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犯行内容――テンセイシャに対する虚偽の悪評を広め周辺地域の住人を扇動。群衆を率いてテンセイシャの襲撃を実行。
情報提供者――ターゲット宅の近隣に住む少年A。
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「何、この詳細!?」
「え?」
「この際、情報密度に関しては不問とするよ! けど、情報提供者の欄にある『ターゲット宅の近隣に住む少年A』って何!?」
私はメモをクシャクシャに丸めて、机に叩きつける。
「証拠が不十分だよ。今から人殺しに行くってのに、根拠が近所に住む子供の噂ってどうなの?」
「けど、近隣の子供たちに聞いて回った結果、この少年の話が一番信憑性が高かったらしく!」
「なんで子供たちに限定して聞き込みしてるの。大人から話を聞きなよ」
ニーナにこんなこと言ったって仕方ないのは分かっている。
しかし、このクオリティはあまりにも酷い……酷すぎる。
「大人たちはみんな警戒してますから、話一つ聞き出すだけでも難しいそうですよ? その点、子どもたちはお菓子を一つ差し出せば協力的になってくれるんだとか……」
「うーん、そういう理由があるなら……」
「まあ、しばらく経った辺りでお菓子を配り歩く不審者として地域から出禁を食らったそうですが!」
「バカでしょ」
全体的に詰めが甘すぎる。激甘だ。
――その時、一つの紙飛行機がこちらに向かって飛んできた。
その物体は人混みの間を器用に避けて、私たちの席にふわりと着陸する。
「あっ、これは情報屋さんから直接の手紙ですね!」
「紙飛行機でやってきた理由については触れない方がいいの?」
ていうか、近くにいるならそんな回りくどい真似せず姿を見せて欲しい。
仕事への取り組み方について言いたいことが山ほどあるから。
「ふむふむ……分かりました!」
ニーナは紙飛行機を手際よく解体しサッと目を通した後、しわくちゃになったそれを私の目の前に広げた。
紙には先程の男性の似顔絵に、シワやほくろなど細かい部分を書き加えられたものが描かれている。
相変わらずどこにでもいるような顔つきだけど、先ほどよりは特徴が捉えられているように思う。
「こちらがより正確な似顔絵だそうです!」
「それ、私たちの会話がガッツリ盗み聞きされちゃってるってことだけどね」
酒場の喧騒で誤魔化せる程度の声量に抑えていたつもりだけど、もっと声を抑えた方がいいのかな。
それとも、いっそ本人の耳に届くよう大声で悪口を言ってやるべきか。
すると、ジノスが私の脇から紙を覗き込みニーナに告げる。
「俺、こいつ見たことあるぞ」
「本当ですか!?」
「ああ、確か街はずれで農家をしてた奴だ。以前、ここで一緒に飲んだことがある。そうか、まさかあいつが……」
「この顔だったんですね!? 間違いありませんね!?」
「ああ、記憶が正しければ確かこんなだったはずだ」
「よし、だったら……!」
ニーナは似顔絵の裏面に短く文章を紙に書くと、それを紙飛行機に折って人混みに放つ。
「情報提供ありがとうございました……っと!」
紙飛行機はフラフラと酒場の中を漂い、人混みの中へ消えていく。
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