第4話 なんか、心の闇が深い人みたいだね

 私は表情を崩すことなく、そっとニーナから距離を取る。


「だいたいさ、どうしてそこまで復讐にこだわるの?」


「それは、その……」


「何か事情があるんだったら、この際だし聞かせてよ」


 いくらニーナでも、ここまで急激な変貌の仕方は不自然だ。

 もしかしたら、裏に巨大な組織がいて脅されているのかも。

 ニーナはそっぽを向いて呟く。


「実はわたし、復讐者なんです……」


「どういう意味?」


「お嬢様の役割が悪役令嬢であるように、わたしの役割は復讐者なんです!」


「役割が復讐者って何? そんなフワフワした役割与えられることある?」


 あと、どさくさに紛れて私を悪役令嬢で押し通そうとしないで。


「神様には『常に復讐心を持って行動しなさい』と言って送り出されました!」


「それ、たぶん邪神だよ。あなただけ邪神の計らいで転生してるよ」


「そんな風に言わないでください! わたしは言いつけを守り、常に復讐心を意識して過ごしてきたんです!」


「なんか、心の闇が深い人みたいだね」


 よくもまあ、そこまで歪んだ使命を背負って日常を送ってこられたものだ。

 尊敬するよ……まったくもって、羨ましくないけど。

 私は苦笑いを浮かべながら、首を傾げる。


「あの……ちなみに復讐心を意識して生活って具体的にどんな感じなの?」


「例えば買い物終わり、店主に会釈したように見せかけて『ここの商品、いちいち高いんですよ! ネギ一本に銅貨一枚とか舐めてるんですか、この野郎!』と睨みを利かせてました!」


「それが復讐心として数えられるなら、この世界には最低でも主婦の数だけ復讐者がいることにならない?」


 というか、一部の金持ちを除いてほぼ全ての人が復讐者にカウントされるような……。

 ニーナは勢いよく立ち上がって叫ぶ。


「じゃあ、復讐者って一体なんなんですか!? わたしだって復讐者になるつもりなんてなかったですよ! けど、神様にお茶と豆菓子まで出してもらったのに仕方ないじゃないですか! そんな状況で『復讐者しか残ってないんですけど……駄目ですか?』なんて尋ねられて、お嬢様は断れるっていうんですか!?」


「断れるでしょ」


 なんだか、頭が痛くなってきた。

 つい先ほどまで尊敬していたニーナの印象が、ガラガラと音を立てて崩れ去っていく。

 今のニーナは、お人好しを超えて「ただ怖い人」だ。


「ねえ、大丈夫? 詐欺とか引っ掛かってないよね?」


「わたしの次に並んでた人は国王に転生してました……」


「神様にカモられてる!」


 今後、どんな物事もニーナに任せきりにするのはやめよう。

 雑に言いくるめられて、怪しい壺をダース買いしたとしてもおかしくない。


「分かったよ。なんか不憫になってきたから復讐、手伝ってあげる」


「本当ですか! ありがとうございます!」


「けど、私は力も弱いし派手なことは出来ないからね」


「はい、もちろん無茶はさせません!」


「できたとしても、せいぜい補助くらいだよ。グロテスクなの苦手だし、物騒なのはそっちでやってね」


 私は肩をだらりと下げて、空を見上げた。

 また少し、太陽が移動している……。


「ところで、隠れ家とやらはまだ見えないの?」


「そうですね、魔法で隠してありますから近くに行くまで見えないかと!」


「へえ、未知の技術を使いこなしてるんだね」


「はい、隠れ家の存在を広めるわけにはいきませんので!」


「そっか」


 この調子だと、まだしばらくは到着しそうにないな。

 座っているだけの身分で言うのもなんだけど、ニーナから妙な話ばかり聞かされて心身共にくたくただ。


 私は腕を枕代わりにして、コロンと横に――


「あっ、お嬢様すみません! 単純に通り過ぎていただけでした!」


「私たち、本当にたどり着けるんだよね?」

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