第15話 情熱に満ちた見事な踊りだな

「だいたいさ、吹き矢で人って殺せるの? 私、フィクション以外で吹き矢殺人なんか聞いたことないよ」


「いやいや、そんなことないわよ。あたし、魔王になってから魔法で殺した数より吹き矢で殺した数の方が多いくらいだし」


「あなた本当に魔王なの? 吹き矢名人じゃなくて?」


 ていうか、私の夢を壊さないためにも吹き矢名人であってほしい。

 屈強な魔物を従えている魔王が、後方で口を尖らせて筒を咥えているだけなんて受け入れたくない事実だ。


 私とマリーカが問答を繰り返す中、ジノスが腕組みする。


「お前ら、いつまでくだらない話を続けるつもりだ。ほら、人通りも少なくなってきたしそろそろ仕掛けるとするぞ」


「だったら、ニーナに指示を出さなきゃいけないわね。さて、何をやってもらおうかしら?」


「指示ねえ……ここから見ても分かるくらいソワソワしてるけど、本当に大丈夫なの?」


 ニーナは先ほどから執拗に頭を左右に振ったり、手を擦り合わせたり……明らかに落ち着かない様子。

 マリーカが前方を見つめながら「はあ……」とため息を吐く。


「とりあえず踊ってもらいましょうか」


「そんなことで足を止めてくれるとは思えないけどね。『変なのが湧いてくる季節になったな』って生暖かい目で見られて終わりじゃない?」


 すでに挙動不審が極まっているのに、そこに踊りまで加えたらハッピーな人が完成してしまう。


「うーん、情熱的な踊りでも無理かしら?」


「情熱的な踊りって何? 私はちょっと見たいけど、ニーナを知らない人は微塵も興味ないでしょ」


「じゃあ、官能的な踊りなら?」


「無理無理無理。何が無理って、ニーナに官能的という言葉の理解がまず無理だよ」


「けど、ニーナ自身は結構やる気みたいよ?」


 マリーカは肩をすくめて前方を指差した。


 見ると、ニーナは私たちにチラチラと視線を向けながら、首や肩を回して「準備万端だ!」と言わんばかりにアピール繰り返す。


 これ以上挙動不審にならないでよ……。


「まあ、本人が乗り気ならそれでもいいけどさ」


「よし。ニーナ、ご主人様の了解が得られたわよ。全力でかましてやりなさい」


 マリーカが言った瞬間、ニーナは男性の行く手を阻むようにサッと回り込む。

 驚いた男性が声を上げる間もなく、クネクネと全身を捩る奇妙な動きを披露した。


「……あれ何?」


「俺が見るに、あれは揺らめく炎を表現しているのだろう。素人目にはタコ踊りのように見えるかもしれないが、情熱に満ちた見事な踊りだな……たぶん」


「自信ないのに、無理にそれっぽく評価しなくていいよ」


 どうしよう、完全に失敗だ。

 あれでは、男性が逃げてしま――


「あっ、足を止めたわ! 今が狙い時ね!」


 マリーカは間髪入れずに吹き矢を放った。

 直後、男性が膝からドサッと崩れ落ちる。

 ……なんだろう、見事に作戦が決まったはずなのに全く釈然としない。

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