第14話 どうして魔法見せてくれないの?
表通りの賑わいを避けるように、路地裏で息を殺す四つの影。
酒場を出た私たちは腐敗したゴミの匂いにまぎれながら、ターゲットの男性が店から出てくるのを待っていた。
ジノスが壁にもたれ掛かりながらニーナに尋ねる。
「ニーナ、準備はいいか?」
「はい、いつでも行けます!」
自信満々に語るニーナの姿を見て、不安感が増すのは何故だろう?
今からでも誰か別の人に……いや、ここまで来たんだ。腹を決めてニーナに任せよう。
ピリピリとした緊張感の中、マリーカが腰のポケットから手のひらサイズの小瓶を取り出した。
彼女は取り出した瓶の蓋をねじると、中身を取り出しニーナの耳にねじ込む。
「耳、失礼するわよ」
「ひゃあっ!? なんですかなんですか!?」
「今、あんたの耳に小型の魔物を一匹放り込んだわ。あたしたちの声を伝えるのに必要だから、勝手に取り出すんじゃないわよ」
「わ、分かりました! なんかムズムズしますが、そういうことなら我慢しますね!」
心の底から、囮役にならなくて良かったと思う。
耳の中で謎の生物が蠢いているなんて、私なら気持ち悪くて歩くことすらままならないかも。
マリーカが先ほどとは別の瓶を取り出し、今度は中身を自分の口に放り込む。
「あー……もしもーし。どう、ニーナ聞こえてる?」
「おお、聞こえます聞こえます! なるほど、こういう感じですか!」
どうやら、マリーカが口に放り込んだ魔物からニーナの耳の中の魔物へ音が届くらしい。
動物愛護の概念がある世界ならちょっとした問題になりそうな絵面だけど、魔物はそもそも動物扱いじゃないのかな?
「それじゃあニーナ、気を付けてね」
「はい!」
……ニーナの耳の中にチラッと見えたミミズみたいな魔物が死ぬほど気持ち悪い。
ターゲットの男性が店を出たのは、それから数分後のことだった。
私たちは男性の十歩ほど後ろにニーナ、そこからさらに三十歩ほど後ろに残りの三人という布陣で追跡を行う。
「そういえば、さっき昏睡させるって言ってたけど一体どうやるの?」
「ああ……こいつを使うのよ」
マリーカは腰のポケットに手を突っ込むと、中から腕の長さほどある細い筒を取り出した。
さっきの瓶もポケットから取り出してたけど、中身は一体どうなってるんだろう。
「……何これ?」
「吹き矢よ」
「吹き矢? あの、口に咥えてピュッて吹く奴?」
「そうそう、ピュピュッと吹く奴よ」
どうして、微妙に言い方を変えてきたんだろう。
しかし、そんなことよりもずっと気になる点が一つ。
「えっと、魔法は?」
「使わないわよ?」
私はムッと唇を尖らせる。
「なんか……正直、ガッカリだよ」
「はあ?」
「はっきり言って場違いだよ。この世界観に対してその筒は場違い」
「あんたが何を言ってるのか、さっぱりなんだけど……」
マリーカは額に手を当てて、私に白い目を向けた。
「ここって魔法が珍しくもなんともないファンタジー世界だよね? 加えて、あなたは魔王だよね? これだけの要素が揃っておいて、どうして魔法見せてくれないの?」
「別に魔法って進んで人に見せるようなものじゃないし」
魔王なんてふざけた肩書を恥ずかしげもなく名乗っているくせして、どうしてそこだけ変に奥ゆかしいんだ。
魔王なんだから魔法使おうよ。魔法要素なくしちゃったら、それもうただの王だよ。
「私、あなたが作戦を説明してる時、結構ワクワクしてたんだよ。『魔王が昏睡状態にさせる手段ってどんなだろう?』って」
「そんなこと言われても知らないわよ」
「百歩譲ってさ、剣とか弓とか使うならまだ分かるよ。なんで吹き矢なの?」
「そんなの、目立たないからに決まってるでしょ。こんな街中で露骨に武器なんて振り回してたら、一発で守衛が飛んでくるわよ」
「そんな現実的な理由、魔王の口から聞きたくないよ」
「あんた、さっきから何言ってんのよ?」
自分でも、おかしなテンションになっているのは理解している。
けど、私としてはすでに見る気満々。
映画で例えるなら、着席してコーラとポップコーンを脇に設置し終えた段階だ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます