第7話大事な大事な日常

どうやら俺が刑務所に入っていた間に娘娘と海道白は結婚をしたらしい。

事情を知らない彼女らは俺を凶悪な犯罪者だと思ったのだろう。

そんな男に抱かれていたと思うと怖気が走ったはずだ。

もう俺とは関わる気がないのか連絡先も変更されていた。

娘娘と曲は親友関係であったのだが、事件のせいで疎遠になっているらしい。

「じゃあ曲はずっと一人で過ごしていたのか?」

事情を聞きながら曲に問いかけると彼女は苦笑の表情を浮かべて一つ頷く。

「仕方ないじゃない。自分に対する戒めのようなものだから…」

「戒めって…俺のことは気にせずに友達と過ごしていればよかっただろ?」

「そうはいかないわよ…私にせいで天は刑務所に入ったんだから…」

「そんなこと今更悔やんでもな…結果的に俺は生きているし…特に目立った傷もない。数年間ムショで過ごしていただけだぞ?」

「だけって…私だったら耐えられないようなことが起きていたんでしょ?」

「まぁ…それは…もう良いんだ…」

若干言葉に詰まって首を左右に振って応えると左胸あたりを擦った。

何処か寒気のようなものを覚えて身震いすると曲はこちらに寄ってくる。

「寒い?暖房つけようか?」

「いや…そういうのじゃないから…」

少しだけ怯えるように首を左右に振って応えると曲は首を傾げる。

「トラウマみたいなものだよ。そういうことがムショの中では起きてた…今はそれぐらいしか言えない…」

「そうなのね…」

曲はそう言うと俺を抱きしめて温めてくれる。

その温もりに充てられても心の中の傷が癒えるようなことは決して無い。

それでも一時的に嫌なことを忘れられるような時間だった。

心が少しだけ癒えるとソファから立ち上がる。

曲は俺から離れるとこちらを見上げていた。

「すまん。タバコ行ってくる」

ベランダに出るとそのままタバコに火をつけた。

深呼吸をするように深くタバコの煙を吸って吐くと心を落ち着かせる。

数分で一本吸い終えると曲の待つリビングへと戻っていく。

「大丈夫?」

「あぁ。問題ないよ。曲は仕事を休んでいるのか?最近家にいること多いけど」

「うん。会社には恋人が刑務所から出てきてからは、しばらく休むこと伝えていたから」

「そんなことまで融通してくれるのか?」

「当然でしょ?社会復帰出来るようになるまで有給扱いにしてくれるそうだから」

「一流企業は違うな。でも犯罪者が恋人って…別れるように言われなかったか?」

「言う人も居ると思うよ。でも今はそんな時代じゃないから」

「時代ね…便利で厄介な言葉だな…」

「良いじゃない。その御蔭で二人で過ごせるんだから…」

「それもそうだな。ハーレム計画はこれにて終わりって感じだし…」

嘆息するようにそんな言葉を口にして天を仰ぐ。

俺のそんな姿を眺めて曲は何がおかしいのかクスクスと微笑んだ。

「なんだよ?何がおかしい?」

「いや…あんなに女性に飢えていた天から諦めるような言葉を耳にしたらね…おかしいじゃん」

「何もおかしくないだろ。それにまた曲を怒らせて…捕まりたくはないからな」

「もうそんなことしないのに…」

「分かっているが…しばらくは静かにしているよ」

「そう。じゃあゆっくり過ごそうね」

「あぁ」

刑務所から出てきた俺は一ヶ月ほどは静かに自宅で過ごす。

そんな日々なのであった。


次回から物語は動き出す…。

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