最終話 過去は変えられない…QED

元の世界よりも明らかに未来へと進んでいる。

俺達は歳を取っていきハーレム関係というよりも仲の良いグループのような間柄になっている。

ある日、髭を剃るために鏡を確認して自分の姿を目にした俺は驚く。

「あの時の老人は俺…?」

模範囚で一緒に刑務作業をし過去に連れてきた人物は何処かの世界線の未来の俺だったのかもしれない。

そんな未来の俺からのメッセージ。

それを思い出して再び口を噤むことを決意するのであった。


曲との間には子供が三人居る。

皆、成人して家を出ていったが、親ばかと言われても仕方がないが賢い子達だと思っている。


娘娘との間にも三人の子供が出来た。

彼女に似て皆美人の三姉妹だった。

母親と同じ様にモデルをやったり女優になったりと活躍の場を広げていた。


海道白との間にも三人の子供が出来た。

全員男の子でスポーツ選手になったり研究者になったり芸術家になったり…。

多種多様な才能に溢れた子供たちは少し変わっていたが良い子達だった。


そして子供や孫が集まって俺の喜寿の祝を家で行われた日のことだった。

「お祖父ちゃん。この漫画知ってる?」

一人の孫が俺の元を訪れるとスマホの画面を見せてきた。

「ん?知らないな。何だそれ?」

「えっとね〜…過去に戻って現在や未来を変える能力を持った人間の話だよ〜」

「そうか。そんな能力があると良いな」

「えぇ〜そうかなぁ〜?過去は変えられないから今を一生懸命に生きるんだってママが言ってたよ?」

「ふっん。お祖父ちゃんは過去を変えたけどな」

そんな言葉がムキになってつい口から漏れて俺はハッとする。

「いや、今のは悪い冗談だ。過去は変えられない。ママの言うとおりだと思うぞ」

「………。変なお祖父ちゃん…」

孫はそれだけ口にすると俺の元を離れていった。

お祝いの会が終わりに向かうと子供や孫たちは帰っていく。

残された俺と曲は広い家で片付けをしていた。

少しの酔も残っており俺は何故か正直に口を開いた。

「実は俺は…過去に曲に…やられそうになったんだ…」

そんな意味深な言葉に曲は首を傾げる。

「何言ってるの?」

「別の世界線で…変な老人に会ってこっちに来たんだよ」

「夢みたいなこと言わないでよ」

「いいや。本当のことなんだ。曲は持っていてはいけないものを持っていて…。それを持って俺は代わりに自首したんだ。そこで出会った別の世界線の俺と…」

そんな言葉を投げかけた所で曲はゴミ箱の二重底からある物を取り出した。

「それって…これのこと?」

その持っていてはいけない物を目にして俺は嘆息する。

「やっぱり復讐しようって思っていたのか?」

「分からない。ある日…どうしようもなくこれが欲しくなったの…」

「なるほど…それが運命力か…」

「何か知っているの?」

「あぁ…別の世界線の俺が言ってたよ。その俺は今の俺ぐらいの年齢だった。見た目もこんなだったな…」

過去のことを懐かしむように嘆息すると俺は曲に声をかける。

「曲。それをこっちに渡してくれ」

「どうするっていうの?」

「ん?昔と変わらない。自首するんだ」

「そんな…子供や孫になんて言えばいいのよ…。このまま黙っておきましょ…?」

「いや、ダメだ。そんなことしたら…きっともっと悪い未来に向かうことになる」

「そんな…」

項垂れる曲の元まで向かうと俺はそれを受け取る。

「じゃあ少し行ってくる」

その物を持つと俺はそのまま警察署まで向かった。

昔と同じ様に自首すると後日、刑務所に連れて行かれることが決定した。


後日、刑務所で刑務作業が始まると俺は模範的に作業を行う。

数カ月間、大人しく作業をしていると模範囚へとなった。

そして、看守長室の掃除を任されて部屋に入ると…。

そこには若い俺が居る。

この世界線の本来の俺だろう。

俺は信じられない光景を見て言葉に詰まった。

数日間は信じられない夢でも見ているのかとすべてを疑った。

しかしながらこの光景は本物だと理解するとこの世界線の俺に託そうと思った。

「お前さんは何で捕まった?」

「ん?食うに困っていてな。無銭飲食を繰り返した」

「そうか。養ってくれるような恋人は居ないのか?」

「恋人?居るわけ無いだろ?俺はただのニートなんだから」

「そうか。ではもしも過去をやり直せるなら何をする?」

そんな質問にこの世界線の俺も呆れたように答えた。

そこから過去にあった様なやり取りを繰り返して…。

何故かあの老人から俺に引き継がれていた能力を用いて、この世界線の俺にすべてを託すのであった。


でも…

何度も何度も過去を変えようとしても何処かで躓いてしまう。

何千、何万と試した俺は最後に答えを発見する。

「やっぱり無理なんだな」

そう思った俺は刑期を全うして曲の待つ家へと帰っていく。

そして…

その日から俺は曲を大切にする日々を送るのであった。


もちろん働きにも出て曲を助けられる人間になると二人は未来永劫結ばれていくのであった。

エリートヒモを卒業しハーレムなどという夢を抱かなくなった俺に曲は…。

もう邪な感情を抱くことも良からぬことを企むこともなかった…。


これにて俺の物語は終了する。

だが…もしかしたら別の世界線の俺は、また過去をやり直そうとしているのかもしれない。

その俺がいつか目の前に現れないことを願って…。


                完

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女尊男卑の生き難い世の中で…。エリートハーレムの俺って何様?←(全員のヒモである) ALC @AliceCarp

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