第4話疑心暗鬼な恋人たち

「ねぇ。知ってる?今の時代、ネットで何でも買えるんだよ」

本日は海道白と自宅で楽しんだ後の夜の出来事だった。

恋人である曲は唐突に意味深な言葉を吐いてニヒルに微笑む。

「ん?そうなのか?何でもって例えば何だ?女も買えるのか?なんてな…」

冗談めかしてふざけた言葉を口にすると曲は妖しくも優しい笑みを浮かべる。

「ハーレム計画は順調?毎日女性と遊んで飽きないの?」

「飽きないだろ。美しい女性と過ごせるんだから。飽きるほうがおかしい」

「でもすることって一つじゃない。外で食事とかって今まで無いでしょ?」

「ん?あぁ。それは曲とすればいいからな…」

「………。何で私とはデートしてくれるの?」

「え?変なこと聞くなぁ〜…曲が恋人だからだろ?」

「じゃあ後の娘達は?ハーレムに入ったんでしょ?恋人じゃないの?」

「まぁ…俺の中ではそういう事するだけのフレンドに近いな」

「そうなんだ…じゃあ心は私のもとにいるってこと?」

「当たり前だろ。そもそも曲が仕事で忙しいから、その間の暇な時間を潰すために遊んでいるだけだとも言えるしな」

「そっか…言い出したのは私だもんね。ごめん。なんか一人で勘違いしていたかも」

「そうなのか?結局恋人は曲だけだから。気にするな」

「うん…ありがとう…」

曲との会話が何処か噛み合うと彼女はソファの隣に腰掛けてくる。

そのまま身を寄せるように肩に頭を乗せてきて甘えるような態度を取ってくる。

軽く頭に触れて髪を撫でる。

そのまま腰の方に手を持っていき片手で抱きしめる様な形でテレビを眺めていた。

しばらくした所で疑問を覚えて俺は問いかける。

「そう言えば…さっきの話は何だったんだ?」

「ん?何が?」

「いや、ネットで何でも買えるって話。どういう意味?」

「うんん。ただの世間話だよ。何でも無い」

「ふぅ〜ん。それなら良いけど」

「天こそ気にし過ぎだよ」

「そっか。そろそろベッド行くか?」

「そうしよ」

そうして俺たちは寝室へと向かう。

もちろん今夜もお互いを求めあってから眠りにつくのであった。


翌朝。

恋人である天が起きる前に私は目を覚ます。

何故かは車に乗せてあるチェーンソーとある物を隠すためだった。

私専用の車ではあったのだが、昨夜の会話で外にデートに行くことがあると示唆された。

それに私の勘違いだったらしい。

天の好きな人は私だけ。

後の娘は遊びなのだと明言してもらえた。

気持ちや心が私のもとにあるのであれば…。

そんなことを思うと車から荷物を運び出そうと思って一旦停止する。

トランクを開けてふっと気付く。

このままこの二つの物を隠すにふさわしい場所を発見する。

トランクの床下のスペアタイヤを収納するスペースにそれらをしまうと何事もなく部屋に戻っていく。

まだ未明なことだから天は起きているわけがない。

気が緩んだ状態で部屋のドアを開けるとリビングに明かりがついている。

ドキリと胸が跳ねるが冷静さを保ってリビングのドアを開ける。

「おはよう。何処行ってたんだ?コーヒー淹れたけど飲むか?」

「うん。おはよう。ちょっと車に忘れ物してて。気になって目が覚めちゃったから…朝早いけど駐車場に行ってた」

「そうか。寒くなかったか?ほら。飲みな」

天はホットコーヒーをこちらに持ってやってくる。

それを受け取ると口元に運んでいこうと息を整えた。

「そう言えば…昨夜の続きだけど…毒物とかも買えるのか?」

その言葉を耳にして私は口に含んだコーヒーが酷く苦い気がしてならなかった。

「なんだよ…その顔…。毒なんて入ってないよ。俺を疑うのか?」

その言葉に首を左右に振って応えるがどうしても飲み込むことが出来ない。

端的に言って完璧に信用ができていないのだろう。

「じゃあ先に俺が飲むから。何もなかったら信用してくれよ。仕方ねぇな…」

そうして天はマグカップに口をつけてコーヒーを飲んでいく。

「ほらな?なにもないだろ?」

それに頷いて口に含んでいるコーヒーを飲み込む。

ゴクリと飲み込んで強烈な刺激が喉を襲った気が来た。

だが…しばらくしても何事も起きない。

「やっぱり俺を疑ってるんだな…寂しいぞ…」

「いや…これは…ごめん…」

「もしかして…」

天はそこで言葉を区切るとグイッとこちらに顔を寄せてくる。

「曲…何かやましい事…隠して無いか?」

その言葉で私は何もかもがバレているような錯覚すらした。

「なんてな」

天は戯けた様な表情を浮かべるとリビングのソファに腰掛ける。

そこから早朝のニュースを眺めて時間は過ぎていくのであった。


私はこれからの身の振り方を少しだけ模索する。


俺は恋人の些細な変化も見逃さない。

曲は俺を…やろうとしている。

確信はないが…車に秘密があるだろう。

曲にその気をなくさせるように機嫌を取る必要があるだろう。

この先のことを俺は一人考えるのであった。

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