第2話一日目
一体、何処までの過去に戻っているのか。
それを確認するためにベッドの縁においてあったスマホに手を伸ばす。
日時を確認しておおよその事情を理解した。
この日は曲にハーレム計画を打ち明けた日に近かったはずだ。
この過去でやり直さないといけないことと言えば…。
曲の機嫌をしっかりと取ることだ。
彼女が持っていてはいけないものを入手する前に機嫌を取りつつ、このハーレム計画をしっかりと受け入れて貰う必要がある。
心の何処かで不満を抱いていたから曲は俺を…。
そう思った所で仕事に向かっているであろう曲にチャットを送る。
「お仕事お疲れ様。いつも何もかもしてくれて本当に助かっているよ。言葉だけじゃ伝わるかわからないから…今度の休みは二人で出かけよう」
そんな文章を送ったのにはもちろん理由が存在する。
ここで曲が外でデートすることを拒否してきたら…もう殆ど詰みだ。
何故ならトランクの床下にそれを既に隠しているという暗示になる。
「どうしちゃったの?急に?罪悪感でも覚えた?」
「そんなところだ。曲のことを疎かにするのは間違いだからな」
「調子いいこと言って…でも気遣ってくれてありがとうね」
「あぁ。何処か行きたい場所はあるか?」
「んん〜。映画館…かな?」
「観たいものがあるってことか?」
「うん。上映スケジュール調べておくね。帰ったらまた話そ」
「了解。お仕事頑張ってください」
そんなチャットのやり取りで話は一時終了すると俺はこれからのことを考えるのであった。
まず初めに娘娘にチャットを送った。
「娘娘。俺と関係を持ったことを曲に直接伝えるんだ。ちゃんと謝罪をした方がいい。でも俺はまた誘うはずだ。それの了承もお互いに得た方がいい。曲を不機嫌にさせてはならない。この関係を続けられるのも曲のおかげなんだから」
そんな身勝手なチャットに娘娘は困ったような返事を寄越す。
「私から言わないとダメ?どうにかしてくれるって言ったじゃん…」
「言ったけど。曲も分かってくれたよ。でも継続する場合は曲のことも考えないといけないんだ。このハーレム計画には曲も含まれている。恋人である曲を怒らせたはいけないんだ。最悪なことが起きる前にな…」
そんな意味深な言葉に娘娘は仕方無さそうに返事を寄越した。
「もう…仕方ないなぁ〜…わかったよ。私からも曲に話しする…」
「ありがとう。助かるよ」
「また誘ってくれるって言うのは本当なの?」
「当然だ。娘娘が曲に話をつけてくれたら何も問題ない」
「分かった。じゃあそうするね」
そうして娘娘とのチャットを終える。
続いてまだ出会って居るのかどうか定かではない海道白のことを思った。
「海道とはいつ出会ったっけなぁ…」
そんな独り言に応えるように家のインターホンが鳴り響く。
モニターでその姿を確認した俺はドキリと胸が跳ねた。
玄関へと向かうと扉を開ける。
「あなたが神門天?」
目の前の女性は今まさに思っていた海道白だった。
「あぁ。部屋に入ってくれ」
「お邪魔します」
静かな足取りで入室してきた海道白に俺は前置きのように口を開いた。
「まず前提として話すんだが…俺には恋人がいる」
「分かっているわ。娘娘から聞いたもの」
「そうか。でだな。俺と関係を持つのであればハーレムの一員になってもらいたい」
「ハーレム?随分子供っぽいこと言うのね」
「良いから。そして関係を持つのであれば俺の恋人である曲に許可を取ってもらう」
「え?あなたの恋人に直接話ししろって言うの?」
「もちろん心細いなら俺も一緒に話す」
「そうして頂戴。でもその前に相性がいいとは限らないでしょ?相性が悪かったら今日で関係は終わりなんだから」
「あぁ。試してみるといいさ」
そうして俺と海道白はベッドへと向かう。
お互いが身体を重ねると二時間ほど行為に夢中になっているのであった。
「降参するわ。ちゃんとあなたの恋人に許可を取る…」
「よし。物分りが良くて助かるよ」
「でも娘娘から聞いていた男性像とは違うわね…」
「娘娘はなんて?」
「クズだけど顔と行為だけは良いって…」
「なるほど。それで今の印象は?」
「んん〜。一応変な所が誠実で律儀なんだなって思った」
「そうか。クズって印象は持ってないのか?」
「うん。私は持ってないよ」
そこで苦笑の表情を浮かべると海道白はベッドから這い出る。
そのまま着替えを済ませるとそそくさと部屋を出ていくのであった。
帰ってきた曲に俺は海道白とも関係を持ったことを話す。
「でも聞いてくれ。海道白も娘娘も曲に許可を取りたいらしい。話を聞いてやってくれないか?」
「別に私は良いんだけどね。もう諦めているし。それに天は私を一番に思ってくれているのは分かるから…」
「怒ってないか?溜め込んでいないか?」
「全然。今まで無かった仕事中にチャットが来て…舞い上がったぐらいだから」
「そうか…何か不満があったらいつでも言ってくれ」
「急に優しくなって…どうかしたの?」
「いいや。俺はもとからこんな性格だぞ」
「そうかな…?」
そこで俺と曲は意味深に微笑み合う。
過去に戻って一日目はどうにか上手に生きることが出来たのであった。
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