第13話 お買い物
あの舞台以降、少しずつ自信が出てきた。
「アマリア様とゼイン様のおかげね」
舞台の後、私を推薦してくれたアマリア様は大勢の人に質問攻めにされた。
あの歌姫はどこの誰だ、と。
アマリア様は隠すことなく私の正体を明かしたそうだ。
そのおかげでシャルペ領では私に対しての評判が良くなっているらしい。
民衆の間でもその話はじわじわと伝わっているそうだが、私の方にははっきりと入っては来ない。
悪い噂じゃないなら喜ばしい事だわ。
「今度お会いしたら何かお礼をしたいわ」
混乱を避けるため、挨拶もそこそこにその場を後にしてしまったことも気にかかる。
「良ければアマリア様に何かを渡す何かを、一緒に買いに行かないか? 毎日頑張っているし、少し外に出ての気晴らしもいいだろう」
「本当ですか? ありがとうございます」
珍しいゼイン様の提案に素直に頷く。
この前のアマリア様の言葉もあるからかもしれない。
「籠の鳥のような生活をさせてはだめよ。それではキャネリエ家にいた頃と変わらないわ」
アマリア様がゼイン様にそう苦言を呈されていたのを知っていたために、ここはありがたく受け取ろうと思う。
「どこかに行きたいとかあれば、教えて欲しい」
「そうですね……」
そう言えば私はお買い物に必要なお金も持っていない。
さすがにゼイン様に出してほしいなんては言えないし。
(こんなにもお世話になっていて、そこまで甘えるわけにはいかないわよね)
キャネリエ家から一緒に来た使用人たちも雇い入れてくれたし、ルミネもそのまま専属のメイドとして雇ってくれたのに、これ以上我儘を言うのは、と気が引けてしまう。
「お金ならば何も心配しなくていいから、行きたいところをどこでも行って欲しい」
心を読まれたかのようにそう言われ、ドキッとする。
「でも、それは申し訳ないです。私の我儘なのに、そんな事まで」
「アマリア様には俺もお世話になっているからな。あなたが選び俺が支払いをする、二人からという事ならいいだろう」
「それではゼイン様の負担の方が大きいではないですか」
「いやフィリオーネと共に出かけられるのならば、いくら支払ってもいい。あなたとのデートは何よりのご褒美だ」
「デ、デート?!」
そういう事になるの?
でも二人で出かけるという事はそういう事なのね。
「この前の音楽会では、ゆっくり出来なかったからな。今度の休み日に一緒に色々なものを見て回ろう。それまで行きたいところを考えていてくれ」
そうは言われても、どこに行きたいかなんて思いつかない。
「難しく考えなくていい。歌と同じだ。アマリア様に贈りたいものは何かと自分に問えばいい」
そうは言ってもそこが難しい。
(アマリア様がもらって嬉しいようなのって、何かしら)
それまで人に贈り物をしたことはなかったから、考えがつかない。
けれど人に聞くのは何か違う気がする。
私が贈りたいものってなんだろう。
◇◇◇
「あの、結局どこに行きたいかが決まらなくて」
「いいさ、気長に街を回っていこう」
結局当日までに決めることは出来なかった為、シャルペ領の色々なお店を見ていこうとなった。
「アクセサリーなどもいいかなと思ったのですが、お菓子やお茶なども捨てがたくて。アマリア様は音楽も好きだし、そういう楽器などに関係するものもよいかと思ったのですが」
結局決めかねてしまい、どこというお店は思い浮かばなかった。
(それに外に出たこともないから、どういうお店があるのかも思いつかなかったわ)
メイドのルミネや侍女のネイトにも相談したのだが、いまいち想像がつかず、断念してしまう。
「ではそのようなお店を回ろう。そこで気になってものをアマリア様に贈ればいい」
ゼイン様は私の手を引いて馬車にと乗せてくれ、当然のようにゼイン様は私の隣へと座る。
今日は動きやすく涼し気な色合いのドレスと、そして日よけの為の帽子をかぶってのお出かけだ。
ゼイン様もいつもの仕事用のものではなく、軽く動きやすそうな素材の服を身に着けている。
(そういえばキャネリエ家から出た時も隣だったわね)
馬車の中から外を見ると、色々な事が思い出されていく。
あの日から数か月経つが、少しずつキャネリエ家での日々は色あせ、シャルペ家での思い出が色濃くなっている。
それと共に楽しい経験が心を占めていることも。
ゼイン様のおかげで私の世界は広がっている、きっとこれからも。
◇◇◇
「今日は本当にありがとうございました」
ゼイン様は色々なところへと連れて行ってくれた。
途中ちらほらと視線を感じたけれど、ゼイン様が目を向ければ皆が目を反らしていったので特に実害はなかった。
それにお店の人は親切で、気になる事を色々と優しく教えてもらえたので、安心してお買い物もできた。
「ゆっくりと見て回ってください。シャルペ侯爵様からも娘をよろしく頼むと申し付けられておりますので」
どうやら侯爵様が手をまわしてくれたみたいだ。
どこに行っても虐げられるような事もなく、ホッとした。
ドレスやアクセサリー、そして可愛いぬいぐるみの売っているお店に連れて行ってもらい、色々な品を見ていく。
「アマリア様は可愛いものが好きだと、エイディン様に教えてもらった。だからこういうものもいいだろう」
貴重な情報を教えてもらい、プレゼントとしてイヤリングと、そして可愛いペアのぬいぐるみを買ってもらう。
「お揃いのぬいぐるみとか、迷惑に思われるでしょうか?」
姉のように面倒を見てくれるアマリア様と何かお揃いのものを持ちたくて、ペアとなっているウサギのぬいぐるみを選んだんだけど、嫌がられたりしないだろうか。
「フィリオーネとお揃いなんて喜ぶに決まっている。むしろ羨ましい」
ゼイン様の眉間に皺が寄る。
「今度はぜひゼイン様とお揃いのものを買いましょう。だからまた次もデートしてくださいね」
「あぁ」
そういうとゼイン様の眉間の皺がまた濃くなる。
(ゼイン様は怒っているわけではなく、感情を抑える時に顔を顰めるのだわ)
一緒にいる時間が長くなるにつれ、そういう事なのだとわかってきた。
ゼイン様は仕事の為に感情を抑えることが多く、それゆえ周囲から恐れられているのだとネイトからも聞いている。
けれど二人きりの時はそんな事もなく、最近は笑顔も増えている。
自分の前でだけそのような様子を見せてくれるなんて、特別なんだなと思えて嬉しい。
「では名残惜しいが、そろそろ帰ろうか。疲れてはないか?」
「えぇ、とても楽しかったです」
差し出された手をしっかりと握りしめ、私はゼイン様と共にお店を出る。
そうして馬車に乗ろうとした時に、突然大声が聞こえてきた。
「ゼイン様、目を覚まして! その女はあなたを騙しているのです」
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