第3話 初夜と昔話2

ルナのための世界。そう、全てはルナを中心に回っている。だって、ルナが『主人公だから』。



「しゅじん、こう?」


頭のなかに浮かんだ言葉に首をふる。そんな、それじゃ、まるで──。


「小説のなかの、世界、みたい……うっ」


 そういったのが、鍵となって様々なものがフラッシュバックする。


 落としたスマホ、青信号、歩道、突進してくる車。



 まって、スマホってなに? 信号も車も、私、知らない、ううん。



「知ってる。私の名前は、アデライン・ルルーシャ」



 そう、それは私が前世ではまったロマンス小説の悪役令嬢の名前、だった。



 物語のあらすじは単純で、双子の姉の婚約者に恋をしたルナが、姉であるアデラインからの嫌がらせにもたえて、姉の婚約者と結ばれてハッピーエンドだ。


 


 ──ルナは聖女に選ばれ、みんなに愛されていたにも関わらず、アデラインの婚約者に恋をした。だからこそ、アデラインはルナを虐めたのだ。そして、ルナを虐めたことが婚約者であるレイバン殿下にばれて、隣国へ嫁がされるという名目の追放処分をうける。


 冷淡な王に嫁がされたとだけ書かれていて、その後のアデラインのことは、わからなかった。



 なんだ、そうか。


 私は、『悪役』なんだ。



 だから、愛されなかったのか。



 そして、それを薄々感じていたから、ルナに嫉妬するよりもさきに納得していたのだろう。私は、愛されなくても仕方ないと。



 それに、私が癒しの力が発現したにも関わらず、誰にも認識されなかったのも頷ける。



 ここは、ルナのための世界だから。



 ルナが主人公でなくなる要素は無視されるのだ。



 だったら。私が、望む道は、ひとつだけ。



 物語通りに隣国へ嫁ぐことだ。


 その後の、アデラインのことは、描かれていない。だったら、その後になったら、私は自由になれるのかもしれない。



 それに。隣国では、女に政治的権力はない。だったら、嫁いでもそんなに仕事もしなくていいんじゃないか。



 もしかして、前世からの夢だった、ニートになれるのでは!?



 そうして、私の目指せ、ニート生活な日々が始まった。



 といっても、それからの日々は私は笑えるほど無力だった。たとえば、私が癒しの力で怪我した人を助けたとする。



 すると、その人の記憶では、私ではなくルナに助けられたことになっており、ルナに感謝するのだ。ルナもその感謝を当然のことのように受け入れていた。



 次に、私はルナを虐めなければならない。でも、あまり気が進まない。そう思って、花壇に水やりをしていたとき、水がルナにかかってしまった。



 すると、なぜか、ジョウロからでてきたのは、熱湯だった。



 ルナが悲鳴をあげる。



 先程までは、水がでていたというのに!



 なるほど、これは、面白い。



 世界は、あるべき姿になろうとしている。だったら、なにもしなくても、私はいいのでは?



 そうして、私は積極的にルナをいじめようとせず、時の流れに身を任せた。



 そして、その結果。


「ひゅー、やったぜ!!!! ニートだぁ!」



 まさか、後継ぎをつくるという貴族の責務さえ、放棄していいといわれるとはおもわなかった。



 これ以上、私は、私として嬉しいことはない。



 物語は終わった。それに私はもうルナのそばにはいない。



 ようやく、ここから、私自身の物語は始まるんだ。

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