第2話 初夜と昔話1
さて。
私は、ユーリシアの王妃として嫁ぐことになったわけだけれども。
針のむしろな結婚式を終え、銀髪にアイスブルーの瞳が麗しい、旦那様兼ユーリシア国王陛下が私をじっと見つめる。
初夜に花嫁に見せるには、その瞳はあまりにも、冷淡な色を映していた。
「お飾りの王妃としての職務は全うしてもらうが、私が君を愛することはない。後継ぎは、傍系から養子をとるつもりだ」
「かしこまりました」
この国では、女に政治的権力はない。つまり、私がこのユーリシアで与えられる役割とは、この旦那様の公務にたまーについていって、微笑んで手をふること、くらいだということ。
ものわかりのいい私に、旦那様は一瞬怪訝そうな顔をしたけれど。
「……この部屋はあなたの好きに使ってもらって構わない」
そういって初夜にも関わらず、旦那様は、寝室をあとにした。
残されたのは、広大なベッドに私ひとり。
私はベッドにたおれこんだ。
ふかふかなベッドは、柔らかく私を受け止めてくれる。その柔らかさを思う存分堪能したあと。
私は枕に口を押し付けて、叫んだ。
「ひゅー、夢のニート生活の始まりだぁ!!!!」
少し長くなるのだけれど。誰か、私の話を聞いてほしい。
私──アデライン・ルルーシャいえ、今はもう、アデライン・ユーリシアなのだっけ──は、ルルーシャ公爵家の長女として生を受けた。
ルルーシャ公爵家にとっては長女というか、第一子だったわけで。これが可愛がられないはずがない……と思ったんだけど。
残念ながら、私は両親に可愛がられることはなかった。
それは、私の双子の妹として生を受けたルナもそう──じゃなく。なぜか、ルナは両親にとても可愛がられた。
私とルナ。
絶世の美女と歌われるルナと私の見た目にそれほど大きな差はない。
だから、見た目の問題ではなく、性格が何か気に入らなかったのではないかと思う。
それでも、不思議と悲しくなかった。
なぜか両親に頭を撫でられ、抱き締められるルナを見て、沸き起こるのは、嫉妬ではなく。ああ、そうだろうな。という感情だった。
なぜ、私がそう思うのか、私自身にもしばらくわからなかった。
それが、判明するのは、私が12歳のときだ。
12歳のとき、祖国の女の子はみんな、検査をする。
聖女の資格があるかの検査だ。
私の祖国アイルーマの女性は不思議なことに、傷を癒す力をもって産まれてくることがある。
そんな力を特別多く持った特別な女性を、私の国では聖女と呼んだ。
その聖女を探す検査は、癒しの力を測定する水晶に手を当てるだけ、のなんとも簡単なものだった。
先にルナが手を当てることになった。ルナが手を当てると、水晶は6色に煌めいた。
様々な色に煌めくほどの癒しの力があるということだった。つまり、煌めく色は多ければ多いほどいい。
当時の聖女ですら、5色だったから、周りの大人たちは沸き立った。
もう、既にルナは当時の聖女を越えていたのだ。
ルナが次の聖女か。すごいな。そんなことを考えながら、私も水晶に手をかざす。
私が、水晶に手を当てたとき、水晶は、確かに7色に煌めいた。
「え──」
ルナよりも多い数だ。
けれど。
「あら、アデラインは、何色にも煌めかなかったのね。流石は出来損ないだわ」
と、誰かがいった。
違う、確かに、水晶は7色に煌めいた。
私は、何度も何度も大人たちの前で、水晶に手を当ててみせた。水晶は相変わらず、眩しいくらいに光っている。
けれど、だれも私が当てた水晶からは光が見えないという。
「アデライン、妹と比べることはないんじゃよ」
神官が哀れんだ声でそういったのを覚えている。
違う。私は事実をいっているだけなのに。哀れまれたのがとても悔しい。その日、私は物心ついて初めて、自分の部屋で声を圧し殺して、泣いた。
翌日。鏡を見ると、私の瞼は赤く晴れていた。そこに、そっと手を当てる。
「!?」
すると、手から一瞬目映い光が放たれ、腫れがひいた。
間違いない、癒しの力だ。
私には、癒しの力がある。だから、何色も見えないことは少なくともあり得ないはず、なのに。
どうして私以外誰にも、見えなかったんだろう。
そう、おもったときに、あたまのなかで、声がした。
『だって、この世界は──ルナのための世界だから』
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