第12話 香水
『ユーリシア王に、興味?』
バメオロスが、ぱちぱちと瞬きをする。
「ええそう。だって──」
旦那様と恋仲か、片想いかしらないけれど。確実なのは、旦那様を想う女性がそばにいる。
お飾り王妃とはいえ、私は戦勝国アイルーマからもたらされた妃。その私にこんな手紙を寄越すなんて、よほど想いが強いと見える。
誰にも愛されたことがない私は、そんな風に愛される旦那様に興味がわいた。
「バメオロスは、『恋』を知ってるのよね──」
確か、バメオロスは初代ユーリシア女王ユーリシアに恋をして、その身の一部が獣になったといっていた。
『そうだな、知ってはいる』
そこで、バメオロスは一度言葉を切った。そして、私を見つめる。
『あれは、はるか遠い昔のこと。そして、私が生きているのは今だ』
つまり、今はもう、ユーリシア女王のことは想ってないのかしら。
それにしても。
私はうっとりと、目を閉じる。
「バメオロス、私、私ね──、恋と愛を見てみたいの」
ルナとレイバン殿下のあれは違う。だって、あれは、運命、だったから。
『見たい? したいのではなく?』
バメオロスが奇妙なものを見る目で私を見た。
「ええ。見たいの」
──私には手が届かないものとわかっているからこそ。そのまばゆさを見ていたいのだ。
さて。夜になった。いつものように寝室でくつろいでいると、いつものように、旦那様がやって来た。そして、一輪の紫の薔薇を差し出す。
私はそれを受け取って、香しい香りを吸い込んだ。うん、気分がいいわ。やっぱり、花はいいわね。
「私は……、君を知りたいと思っている」
旦那様がアイスブルーの瞳で私を見た。私は、それに微笑み返す。
「私は陛下のことをしりたいです」
そういっただけなのに、旦那様は、目を見開いて、驚いた顔をして、少し目尻を赤くした。
「私を、か?」
「おかしいですか?」
「いや、君に、興味をもってもらえて、嬉しい。なにがしりたい?」
「そうですね──、どんな花がお好きですか?」
私がそう尋ねると、旦那様はこう答えた。トドロキ花だと。
私はその言葉によりいっそう笑みが深くなった。
「っ、君は──」
「そろそろ、お帰りにならないと。明日の公務に響いてはいけませんからね」
「……そうだな、おやすみ」
旦那様が寝室を去った。
バメオロスが不思議そうな瞳で私を見る。
『ご機嫌だな』
「ええ、だって」
トドロキ花。それは、手紙から香った、香水の香り、だった。
ちょっとまって、私、溺愛とかいりませんからー! 夕立悠理 @yurie
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