ごぼうごぼうごぼうごぼう

 確か牛蒡〈ごぼう〉って宇宙の果てまで届いてるんだっけ。軌道エレベータも目じゃないなぁ。宇宙ステーションでも牛蒡があればことたりるし。

 俺は食べ物にこだわりが無くて、激安の飼料用粉末おからで半年くらい暮らしたことがあるような人間だ。
 毎日栄養バーとか、完全栄養パンだけとかは想像するだけでうんざりする。なのに、何故か粉末おから生活は平気だったし、毎日芋も平気だ。
 当然、牛蒡でことたりる生活は魅力的だ。

 完全栄養パンが許せないのに、粉末おからや牛蒡が平気なのは多少なりとも調理の余地があるからか。その少しの差が俺に安心を与えてくれる。地方との牛蒡格差はちょっと心配になるが。

 天にそびえる牛蒡が原風景ってのも素敵だし。中途半端なくたびれたビルの林よりは清々しい朝を迎えられるだろう。
 ああでも、牛蒡は大災害のモニュメントなのか。同時に人々の逞しさと復興の象徴でもあるが。なら、やっぱり素敵かもしれない。不謹慎厨ってやつを俺は心底クソだと思ってるから、この天にそびえる牛蒡は素敵なものなんだ。

 それはそうとたまには肉も魚も食いたいから、ジンギスカン保存クラブみたいなサークルに参加して人里離れた海でクラブのメンバーとこっそりキャンプして、炭火で羊肉を雑に焼くのだ。
 もちろん、ジンギスカンにも牛蒡は合う。肉と野菜の旨味が染み出した終わりかけのジンギスカンのあの混沌とした汁でぐつぐつやってきんぴらみたいにする天の牛蒡が最高なのだ。

 ふふ。
 ちょっと背徳的なくらいがいい。
 そんなここからも海岸線の向こうにはうっすらと天の牛蒡が見える。四百キロは離れているだろうか。その一面を傾きかけた日が黄色く染めて、反対側は殆ど空に溶け込んでいる。エネルギー事情も天の牛蒡で色々と改善して、空気中の PM なんとかも減ったとかなんとか。

 ――は。
 いやいやいや。
 作者のエッセイが面白くて時間が飛んで飯がまだだった。仕方ない、うどんでも煮るか。牛蒡があればなぁ。
 下拵えが面倒そうであまり買ったことがなかったが、近所の八百屋には、ごぼうのプロ田中さんが育てたごぼうだったかが売っている。田中さんって誰よ。明日買ってみてもいいかもしれない。