第九部 仕舞

九薬国

 須原国鹿央宮すばるのくにかおうきゅうを陥落させた雲城軍が勝利を味わったのは、わずか二月の間であった。大将、五来将軍が須原の民によって殺されてすぐに、黒波江軍が攻め込んできたのだ。

 大将を失った雲城軍は瞬く間に敗れ去り、捕まった兵は全員斬首となった。

 黒波江の軍を率いたのは、須原から嫁いだ王太子妃、桔花である。桔花は須原国を再建し、第二子に治めさせた。

 この時代、国々はそれぞれに、勃興、衰退、建国と、侵略、合併と崩壊を繰り返す。須原だけではなく、近隣の黒波江、鋳物師、騰羽、雲城もやがて消え、新しい国がおこる。

 その中で、永く続いた国がひとつある。

 非常に小さな国で、元々は須原国北部の、一つの領地であった。

 創始の記録はあまり残っていない。言い伝えによると、須原の時代に一人の老婆が薬師の集団と共にやって来て、貧しい土壌を造り替え、新しい畑を開墾し、薬草園を作ったのが始まりだという。

 その後、その老婆の息子が後を継ぎ、国にした。最初の王は人々を三つの集団に分けた。

 一つは薬草を育て、薬を作る者。

 一つは武術を磨き、人々と土地を守る者。

 一つは他国に薬草と薬を売り歩きながら潜入し、知識を持ち帰る者。

 小国ながらも武力と財力が高く、駆け引きが上手く、一切の戦に関わらず、不老長寿の薬を以て他国を制したと伝わる。

 最初の王の名は記されていない。薬学の知識があり、聾者ろうしゃで、怖ろしく美しい男であり、ひどく愛想の悪い武人と、何にでも化ける密偵を従えていたとだけ、記されている。

 次の王についてはこうという名だけが残っている。鋼王の親についての記録は、やはりない。

 その子孫からについては、「九薬国くやくのくに興国書こうこくしょ」に記されている。


     ――終――

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傾国鳥の蹴爪 powy @powy

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