第二章 傾国鳥の蹴爪 其ノ二
五来が腹を立てて床几から立ち上がる。
「愚民共に構うな! さっさとそいつの首を落とせ!」
首切り役がうなずく。だが、
「買うよ! 甲金貨十枚分で買うよ!」
という、女の声が上がった。群衆がさらにどよめく。
「買います! 私たちが買います!」
「甲金貨十枚分のお金は、ほら、ここに!」
群衆の中から、突然、金色の光の粒が空に向かって放たれた。無数の、丙金貨の粒と小さな乙金貨である。ばらまかれた金貨は宙に広がり放物線を描いて群衆の上から降り注ぐ。人々は一斉に歓声を上げて金貨に飛びつき、斬首台の前は狂乱騒ぎになった。
もう一度、またもう一度と、人々の中の至る所から、金の粒が弾けるように空に舞う。
我も我もと金貨に飛びつくのは群衆だけでない。金の輝きに目の眩んだ雲城兵も飛びつき始めた。首切り役までもが台から降りて、這いつくばって金貨を拾い始め、都大通りは処刑どころではない大混乱に陥った。
顔を真っ赤にした五来が、自らの剣を抜いた。体を固定されたために下を向いており、何がどうなっているのかわかっていない音由の元へと近付いて、剣を振り上げた。
ひゅうっと、風が鳴ったのに、誰も気づかなかった。
五来の額の真ん中にずぶりと、矢が刺さる。続けざまに五来の両脇で金貨を拾いに行くのを必死で自重した二人の兵にも矢が刺さる。
同時に、斬首台に上がった男がいる。男は音由の縄を切り、担ぎ上げ、
「俺様は天下の大盗賊『大鉄』だ! 須原の民よ、第七妃音由は俺様がいただく!」
と、一声上げて、風のように走り去る。
我に帰った人々はようやく、この騒ぎが音由を救うべく仕掛けられた舞台であったと知り、盗賊が走り去り姿を消すまで歓声と拍手喝采を送り続けた。
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