第20話 『空中は危険だらけ』

ギルドでNo.1の冒険者パーティに見習いとして加入することになった俺は、最強の冒険者として教育される。




著者:ピラフドリア




第20話

『空中は危険だらけ』





 俺達はキラービーという蜂に囲まれていた。人のような体型をしており、サイズも人と変わらない。




「か、囲まれたよ!?」




 俺はジンベイザメの上で剣と盾を構える。




「足場が悪いわ! こっちは不利よ!」




 レジーヌも新しい片手剣を持ち、低い姿勢になる。




「って言ってもこの子のスピードじゃ逃げられないよォォォォォ!!!!」




 エイコイは涙目になりながらも、両腰につけた短剣を抜いて、二刀流で構えた。




 キラービーは全部で九匹だ。それが円状にジンベイザメを囲んでいる。

 数も足場もこっちが不利だ。だが、それでもやるしかない。




「来るよ!!」




 レジーヌが叫ぶと同時にキラービー達が一斉に向かってきた。お尻についた針を突き刺そうと俺達を狙う。

 俺は盾で一匹のキラービーから身を守る。




「ちょ、まっ!?」




 だが、一匹から攻撃を守れても相手は複数だ。もう一匹のキラービーが盾をすり抜けて俺を狙ってきた。




「うぉぉぁぁぁぁあっちょ!?」




 俺は盾を前に突き出し、盾に塞がれていたキラービーを一匹突き飛ばして距離を取る。そして向かってきたキラービーには剣を振り回して対抗した。




 俺が適当に振り回した剣だが、運良くキラービーの針を切り落とす。そしてさらにキラービーの胴体も切り裂くことに成功し、一匹のキラービーを撃退した。




 単に運が良く上手くいっただけだったが、これで自信が出てくる。

 そんな俺の元に盾で突き飛ばしていたキラービーが体制を立て直して向かってきた。




 一匹のキラービーを倒したことで自身を手に入れた。そのおかげでキラービーが針を突き刺そうとしてきても、冷静でいられることができた。




 俺は剣と盾を構え直す。そしてドミニクの授業で教わったことを思い出す。

 実践訓練ばかりであったが、その中でも学びはあった。




 キラービーの進行方向を予想し、盾で攻撃を防ぐ。そして攻撃が防がれて動きが止まったところに、剣を振り下ろしてキラービーを撃退した。




「ふぅ、やった、やったぞ!!」




 俺は向かってきたキラービーのうち、二匹を撃退した。そして残るキラービーを倒そうと振り返ると。




「はぁはぁ、ど、どうにかなった〜」




「私にかかればこんなもんよ」




 エイコイは二匹。レジーヌは三匹を倒して終えていた。




「相棒も終わったのか……」




 エイコイはヘトヘトになりながらも、剣をしまい汗をハンカチで拭く。

 二匹のキラービーを倒すのにエイコイはかなり苦労した様子。

 それに比べて、




「アンタ達、そんな程度でへばってるの? なっさけないわね〜」




 レジーヌは三匹倒し、俺達よりも一匹多いことで自慢げにしている。




 レジーヌの自慢げな顔にイライラしながらも、キラービーを倒せたことにホッとする。




「どうにかなって良かったよ」




 俺は剣をしまい、盾を下ろす。エイコイも武器をしまうと、ジンベイザメの頭を撫でて背中で戦闘していたことを謝る。




 ジンベイザメに謝り終えたエイコイは




「この辺りはキラービーが縄張りにしてるみたいだね。バルーンオクトパスはここにはいないみたいだ、少し移動してみるか」




「そうね、そうしましょうか」








 エイコイの判断でジンベイザメに移動してもらい、渓谷を進む。そうしてしばらく空中を進んでいると、




「見つけたぞ!!」




 ジンベイザメの先頭で前方を見ていたエイコイが声を上げた。

 俺とレジーヌはエイコイの後ろから前方に目をやる。すると、前にある渓谷の壁、そこに穴が空いておりそこから赤い触手が飛び出していた。




「あれがバルーンオクトパスの腕だ。風船のように空気を含んでいて、触手もパンパンに膨れてる」




 エイコイに言われて俺はじーっと触手を見てみると、確かに触手はパンパンに膨れていた。




「あれがバルーンオクトパスならさっさと討伐しようぜ。そうすれば、スカイパールだって手に入るんだろ?」




 俺がそう言うが、




「待て」




 っとエイコイが止めた。エイコイは身体の向きを後ろに変えて、俺達と向き合う。




「バルーンオクトパスはそこまで戦闘力の高い動物じゃない。だからこそ、ウィンクさんはバルーンオクトパスを倒して取れるスカイパールを今回の修行にしたんだ」




「うん。なら、早く倒せば……」




「だが、よく考えてくれ。ここは空中なんだ、さっきのキラービーは上手く倒せたが、バルーンオクトパスは空を飛ぶ動物だ。こっちが不利だ」




 言われてみれば、そうだ。さっきは運が良かったため、皆無事だったが、次も上手くいくとは限らない。



 エイコイは人差し指を立てる。




「だから、バルーンオクトパスを地上に誘き寄せる。そうすることが今回の議題だ」




「地上に誘き寄せるか……。でも方法があるのか?」




 俺が聞くと、エイコイは困った様子で目を逸らした。




 どうするかは考えていないようだ。




 俺も腕を組んで作戦を考える。




「前のドラゴンの時みたいに怒らせて呼び寄せるか?」




「そうだなぁ、どうやって怒らせるのかが問題だよ。ドラゴンの時と違って近づくと攻撃してくるだろうし、距離を取らないと」




「そうか〜」




 俺はいくつか案を出すが、エイコイにダメ出しされて却下になる。そうやって話し合って考えていると、話し合いに参加していなかったレジーヌが、バルーンオクトパスの方を見ながら、




「ね、ねぇ……怒らせた後はどうするの?」




 突然そんなことを聞いてきた。

 エイコイはレジーヌの方を向かずに適当に答える。




「そりゃ〜、地上まで全力で逃げるんだよ」




 エイコイが答える中。嫌な予感がした俺は、レジーヌの先にいるバルーンオクトパスの方を見てみる。

 すると、さっきまで触手しか出ていなかったはずが、バルーンオクトパスは顔を出してこちらのことを睨んでいた。




「なぁ、レジーヌ……何やったんだ?」




 俺は渋々尋ねると、レジーヌはハハハと乾いた声で笑った後、




「魔法で小石生成して投げてみたの……そしたら…………怒っちゃった」




「………………」




 俺の表情と怒っちゃったと言う単語に、エイコイは顔を青くしながら振り向く。振り向いた先で真っ赤な顔で起こり、今にも飛びかかってきそうなバルーンオクトパスを見たエイコイは、




「なんてことしてんだァァァァァ!! 逃げろォォォォォ!!!!」




「「だよねぁぁ!!」」




 エイコイが叫び、ジンベイザメに移動をお願いする。俺とレジーヌは武器を手にして臨戦体制になった。




「レジーヌ。お前がやらかしたんだ、何かあったらしっかりやれよ!!」




 俺がレジーヌに怒鳴ると、レジーヌは剣を構えながら怒鳴り返す。




「なによ!! クッズに言われなくても分かってるわよ!!」




 エイコイの指示でジンベイザメが動き出す。目指すのは渓谷の頂上である陸地だ。

 エイコイはジンベイザメの先頭でジンベイザメに指示を出す。その間、俺とレジーヌはジンベイザメの後ろで戦闘できる体制になる。

 もしもバルーンオクトパスが追ってくれば、エイコイを守りながらバルーンオクトパスと戦うことになる。




 予想通り、バルーンオクトパスは巣穴から飛び出し宙を浮くと、俺達を追い始める。

 空を飛ぶ速度はジンベイザメとさほど変わらないが、少しバルーンオクトパスの方が早いようだ。




 ゆっくりと確実に距離を詰められている。




「どーすんよ!! どーすんだよォォォォォ!!!!」




 俺は追ってくるバルーンオクトパスを見ながら叫ぶ。

 30メートル以上ある巨体をうねらせて、バルーンオクトパスは中を浮く。触手で空中に捕まり、蜘蛛の巣を這う蜘蛛のように空を移動していた。




「このままじゃ追いつかれるわよ!!」




 レジーヌは剣を構えながら、後ろでジンベイザメを操っているエイコイに叫びかける。




「分かってるよ!! これが全力だ!! もし追いつかれてもどうにか引き離してくれよ!!」




 そんな無茶な……。




 そうやって空を移動して、後少しで地上に出れるというところだったが、




「イヤァァァァァァ!! 追いつかれたァァァァァ!!」




 バルーンオクトパスの触手がジンベイザメのお尻に触れた。

 俺が涙目になる中、レジーヌは剣でバルーンオクトパスの触手を切り落とす。




「なに泣いてるのよ、さっさと対処しなさい。そうしないとひっくり返されて落とされるよ!!」




「わ、分かってるよ!!」










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