第17話 『新たな土地へ』

ギルドでNo.1の冒険者パーティに見習いとして加入することになった俺は、最強の冒険者として教育される。




著者:ピラフドリア




第17話

『新たな土地へ』





 チンヨウとその部下の山賊を拘束したドミニクは、馬のイリニに手紙を持たせて騎士団へと連絡を取った。

 しばらくして騎士団が到着、山賊を馬車に乗せて連行して行った。




「うむ、上手くやったようだな。君達……」




 連れて行かれる山賊達を見守っていると、背後から声が聞こえる。驚いて振り返ると、ウィンクが腕を組んで立っていた。




「うわ!? ウィンクさん、いつの間に!!」




 俺とエイコイ、レジーヌは突然背後に現れたウィンクに驚いてそれぞれの反応を見せる。

 クロエとセルゲイがすでに到着していたのは知っていたし、セルゲイは俺達の傷を治してくれていた。ウィンクは遅れてくると言っていたのに、突然現れたことにびっくりする。




 ウィンクは少し離れた場所で騎士と話しているドミニクの方へ目線を向ける。




「どうやら彼女もトラウマを乗り越えたようだな」




 ウィンクはドミニクの様子を見た後、安心したように微笑む。

 そしてドミニクの姿に安心したウィンクは、マントの裏から小包を取り出した。




「今回の依頼だが、ドミニクが大半を受け取るが、お前達にも報酬がある。しっかり受け取れよ」




 ちょうど真ん中に立っていた俺が、三人分の報酬を受け取る。小包を見てエイコイはワクワクと目を輝かせた。




「なぁなぁ、早く開けてみようぜ!!」




 さらにエイコイだけでなく、レジーヌも、




「ま、私の活躍があったからこそだけど。今回は山分けね。……っで、どれだけ入ってるの?」




 ワクワクしながら小包を覗き込む。

 とはいえ、二人だけでなく、俺も報酬がどれほどなのか気になっているのは事実。




 俺は開けて良いのか確認するように、ウィンクの顔を見る。すると、開けて良いと頷いた。




「じゃあ、開けるよ」




 俺はゆっくりと小包を開けてみる。そして出てきたのは、数枚の銅貨だった。




「「「………………」」」




 俺達は金額を見て何も言えずに固まる。




 この金額は大雑把に日本円にして1200円程度。これを三人で分けた場合、400円になる。




 あれだけの実力者であるチンヨウを捕らえたというのに、これだけの金額。俺達はウィンクの顔を見る。

 すると、ウィンクは、




「お前達とドミニクは5:5だぞ。んで、ドミニクは金貨……」




 そう言ってウィンクが説明した金額は、日本円で2億を超える金額。




 村からの報酬にプラスで、騎士団からチンヨウにかけられていた賞金も合わさっての金額らしいが……。




「どこが半分ですかぁぁぁっ〜!!」




 金額を見たエイコイが不満で叫んだ。








 消えたお金がどこに行ったのか。それはすぐに解決することになる。エイコイが不満を漏らしてすぐ、クロエがウィンクの後ろからひょっこりと顔を出す。

 そしてニヤニヤと俺達のことを眺める。




「君達、消えた賞金がどこに行った気になるよね」




 クスクスと笑いながら、クロエはその答えを告げた。




「それは君達の新しい装備を作っていたからさぁ!!!!」




 クロエが言い終わると同時に、ウィンクが魔法でその装備を転送させた。俺達の前に三人分の武器や防具が現れる。




「新たに見習いになったユウ君とエイコイ君にはアタシの見立てで選んだ武器を、レジーヌ君には新品の剣をプレゼントだ!!」




 俺用の武器は長めの剣と盾。そして胴体を守る用の鎧。

 エイコイは俺よりは短いが剣が二本。そして俺と同じだが、俺よりも軽そうな鎧。

 レジーヌは短剣が一本だ。




「「「おぉ〜!!!!」」」




「これらを作るために結構な金額が必要でね。本当は借金をしてもらう予定だったんだけど、今回の報酬でどうにかなったってわけさ!!」




 それで報酬のほとんどが消えてしまったのか。




 報酬が減ってしまったことはショックだったが、武器がもらえたこと自体は嬉しい。俺達はそれぞれの武器を持ち、装備して振ってみたり、ポーズを決めたりと各々で楽しむ。

 そんな様子をウィンクはニコニコと見守る。




「クロエの装備に満足してくれたみたいだな。良かったな」




「アタシの作ったものなのよ。当然よ」




 クロエは腰に手を当てて胸を張る。

 装備を試し終えたところで、騎士と話していたドミニクが戻ってきた。




「なんだ。新しい武器をもらったのか」




「はい! どうですか!! かっこいいですか!!」




 俺は盾と剣を構えてドミニクに見せてみる。すると、ドミニクは俺達三人の姿を見て、




「良いんじゃないか。三人とも似合ってるぞ」









 山賊を捕まえて、村に戻った俺達は一晩宿に泊まり、翌日出発することになった。

 またしても俺達三人で馬車を引いての旅が始まることとなり、苦労しながらも馬車を進めていた。




「はぁはぁ、もう限界……」



 俺は限界と馬車の押すのをやめる。体力の限界が来た俺は、馬車に寄りかかった。

 すでにエイコイはダウンしており、残った俺とレジーヌで押していたが、二人になったことで進みが悪かった。

 そんなところで俺がやめてしまったことで、完全に馬車は止まった。




「あんた達……はぁはぁ、なに休んでるのよ。馬車が止まったじゃない」




「これは馬車じゃなくて……人力車だろ……。てか、もう無理だよ。限界だ!!」




 レジーヌだけではもう動かすことができない。最後まで残ったレジーヌだが、レジーヌも限界のようで馬車に寄りかかった。




 これで俺、エイコイ、レジーヌは倒れた。馬車を引くメンバーは全滅だ。馬車が止まったことで、空を飛んで俺達のことを見守っていたウィンクはスッと着にして見下ろす。




「なんだ。もう疲れたのか」




「もう一週間はこれで移動してるんですよ〜。もう無理です」




 俺が文句を言うと、ウィンクはやれやれと首を振る。そして馬車の中にいるメンバーに声をかける。




「おーい。レジーヌ達限界だってさ。流石にこれ以上移動に時間もかけられないし、俺達で引っ張るぞ」




 そうやって飛びかけると、




「しょうがないなァ。オレがァやってやるよ」




 フンと鼻から煙を吐きながら、セルゲイが馬車から出てきた。そして丸太のように太い腕で俺達を軽々と持ち上げると、馬車の中へと放り込む。




「痛い!? セルゲイさん投げないでくださいよ!!」




「悪い悪い。まァ、そこで休んでろ」




 俺の文句を聞き流し、セルゲイは俺達が馬車を引っ張るために使っていた取手を両手でガッチリと掴む。

 そして勢いよく馬車を引いて走り出した。




 その速さは高速道路を走行する車のような速度で、俺達がどれだけ頑張って引っ張っても出せない速度。

 そんな速度で馬車が進み、俺とエイコイ、レジーヌの三人は壁に張り付いて大きくるは揺れる馬車に怯えていた。








 やがて馬車はある場所に到着した。俺達が引いていれば、もう一週間かかったであろう距離。そんな距離をセルゲイは一時間で到着してみせた。

 そうしてたどり着いたのは……。




「で、でげぇ〜」




 ドーナツ状にへっこんだ渓谷。円の半径はだいたい駅から駅までの距離で、穴は底が全く見えない。

 そんな渓谷に俺達はたどり着いた。




 馬車を止めると、ウィンクは皆を集合して並ばせる。メインのパーティと並び、見習いの俺達もウィンクの前に立つ。




「これから約1ヶ月、この地域の調査を行う。それに伴い皆に仕事を割り振る」




 まずはメインパーティの仕事をウィンクは説明する。周辺の土地や生態系、集落などを調査するようだ。

 そしてそれを細かくまとめて地図を作っていく。




 メインパーティの説明が終わると、次に俺達、見習いの番が来た。

 ウィンクは俺達の前に移動すると、両手を後ろで組む。




「ではこれからのお前達のスケジュールを発表する」









 そうして当然のように修行の日々が始まった。




 ウィンクは今だに魔法を教えてくれず、普通の授業を行う。内容はほとんど、前の世界での小学校と変わらない。数学から理科、社会に国語。文化などの違いから違うこともあったが、ほぼ同じだ。




 セルゲイの時間では、今まで通りに筋トレだ。これは小学校で例えるならば体育だ。しかし、体育とは違い、跳び箱を飛んだり、サッカーはやらない。

 やるのは基本、走り込みと筋トレ。最近では装備をつけた状態で走らされて、今まで以上に大変だ。




 クロエの時間は少し変化があった。今まで通りに筋トレもあるが、魔道具開発が増えてきた。

 魔石と魔石を組み合わせることで、新しいアイテムを作る。

 この魔道具制作だが、知識と手先の器用さでエイコイがずば抜けて成績が良い。クロエからもかなりの評価を受けていた。




 そして一番変化があったのは……。







「ドミニクさんが剣術を教えてくれるんですか!?」




 俺達は驚いて尻餅をつく。そんな俺達の姿にドミニクは困った様子で、頬を掻く。




「何もそんなにびっくりしなくても良いだろ……」




 今までドミニクは俺達が何をしていようと、無関心だった。剣の練習をしようが、魔法の勉強をしようが無視をしていたドミニクが、初めて教えてくれると言ってくれた。




 実のところは他の修行で辛く、この時間で少しでも休みたい。だが、せっかくこう言ってくれたのだ。

 俺達はドミニクの前に姿勢よく立つと、同時に頭を下げた。




「「「よろしくお願いします!!」」」




 そしてこの日からドミニクの修行を受けられるようになったのだが……。









「最近はドミニクも教えてくれるようになったみたいだな」




 修行の時間の合間、ウィンクが休憩で机に上半身を寝かせている俺に近づく。




「はい……」




「どうだった?」




「いや……それがですね…………。素振りとかそういうのだと思ってたんですけど、実践訓練だと言って……」




「うむ、それで……」




 ウィンクは俺の両隣の机で倒れている二人を交互に見た。




「皆、傷だらけなんだな」




「はい」




 ドミニクの修行は基本が実践訓練という名のサンドバッグにさせられるものだった。

 三人同時に相手をしてもドミニクには手も足も出ない。それなのにドミニクは手加減をせずに一方的にボコってくる。




「あの人……手加減を知らないんですよ……」




 俺がそう呟くと、ウィンクは顎に手を当てる。




「うむ。前に弟子を育てたと言っていたが。そういえば、基本実践訓練だったとも言ってたな。そう考えると、その弟子は元々強かったのかもな」




 だから、あんな無茶な修行方法を取るのか。このままじゃドミニクの修行で命が危ない。




「ウィンクさん、どうにかしてくださいよ〜!」




 俺が助けを求めると、ウィンクは腕を組んで考え込む。




「そうだなぁ、まぁ俺からも声をかけとくよ」




 これは期待ができなそう。




「よし、教科書を開け、休憩は終わりだ。そろそろ始めるぞ」















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