第16話 『リベンジだ』

ギルドでNo.1の冒険者パーティに見習いとして加入することになった俺は、最強の冒険者として教育される。




著者:ピラフドリア




第16話

『リベンジだ』





 ドミニクとチンヨウはお互いの攻撃で吹き飛ばされ合う。

 二人の攻撃の衝撃で、山賊の下っ端達は吹き飛ばされて天高く飛んでいく。俺とエイコイはレジーヌのそばに駆け寄り、飛ばされないようにレジーヌのことを上から覆いながら姿勢を低くして衝撃を耐えた。




 二人の戦いはまるで嵐のようであり、周辺の地形や生態系が変わってしまいそうなほどである。




「まだ終わらないのかよォォ!!」




 俺は二人の激しい戦いに、姿勢を低くした状態で叫ぶ。




 それと同時に二人の戦闘が動いた。互角に戦っていた二人であったが、チンヨウがドミニクの剣を落とさせた。

 手を中心的に狙い、ダメージを与えたことで一時的にドミニクは剣を落としてしまう。その瞬間をチンヨウは狙っていた。




 落下する剣をドミニクがキャッチする前に、剣を蹴り飛ばしてしまった。ドミニクは取りに行こうとするが、当然そんなことはさせない。

 チンヨウはドミニクが剣を取りに行けないように、剣のある方向へと回り込み、攻撃を続ける。




 剣がなくなったことで、戦力が変わる。ドミニクは両腕でチンヨウの攻撃をどうにか防ぐが、確実に押され始めていた。




「ドミニク……さん」




 このままではドミニクが負ける。悪い態度をとっていたとはいえ、助けに来てくれたのは事実だ。

 俺は姿勢は低いまま、動けるように立ち上がる。そんな俺の姿を見たエイコイが心配そうな顔をした。




「相棒……何をする気なの?」




「ドミニクさんに剣を届ける……。今の状態じゃ絶対負ける、だから俺が剣を届けてくる」




 剣を拾って届けることができれば、ドミニクはチンヨウと互角に戦えるようになる。それで勝てるかはわからないが、今よりは可能性がある。




「そんな、危険だよ!!」




 エイコイは行くなと俺のことを掴む。




 剣を取りに行けば、二人の戦闘に巻き込まれるかもしれない。危険だとは分かっている。だが、




「ここで待っててもどうにもならないよ!」




「相棒……」




 エイコイはまだ俺のことを離さない。だが、




「行きなさい、クッズ……」




 俺のことを掴むエイコイの腕を、レジーヌが掴んで離させようとした。ダメージからか、力が入らないのだろう。エイコイの腕を掴むだけで精一杯という感じだ。

 しかし、それでもやれるだけの力を感じる。




「レジーヌ、起きたのか……」




 俺は意識を取り戻したレジーヌの姿にホッとする。だが、ダメージは大きいようだ。息を荒くして、片目を瞑っている。




「はぁはぁ、私はドミニクさんの……過去をウィンクさんから聞いたことがあるのよ…………。私やアンタ達がドミニクさんに近づくことで危険になるのを恐れてるの……」




 レジーヌはダメージが痛そうにしながら喋っている光景に、心配したエイコイが俺のことを放してレジーヌのことを支えた。

 エイコイに体を支えて楽な体制にしてもらったことで、レジーヌは最後の言葉を力強く放つことができた。




「私達はこの程度であの人の元からいなくならない。クズ、これをアンタがドミニクさんに証明して見せつけてやりなさい!!」




 そう言い、レジーヌは俺のことを突き飛ばした。さっさと行けということだ。だから、レジーヌのおかげで俺も迷いが晴れた。




 本当に剣を拾いに行っていいのか。心の奥には不安があった。ドミニクに今だに嫌われて、俺が剣を渡しても邪魔と思われるかもしれない。そんな気持ちをレジーヌの言葉で払うことができた。

 後は剣を拾いに行くだけだ。




 俺は剣を拾いに走り出す。二人の戦いで風が起こり、嵐のように瓦礫が飛び交う中、姿勢を低くして目指す。




 飛んでくる瓦礫を避けながら、どうにか進んでいき、剣まで後少し、後少しというところまで来た。

 だが、




「で、デカいのが来たァァァッ!?」




 建物の天井が剥がれて飛ばされたのだろう。巨大な丸太の塊が俺に向かって飛んできた。このままでは潰されてしまう。その時だった。

 背後から丸い玉のようなものが飛んでくる。そしてそれは俺に向かって飛んできていた丸太にぶつかり、丸太を吹き飛ばした。




 爆発により丸太は焼けこげで俺は潰されずに済んだ。俺は球の飛んできた方へと目を向ける。

 そこにはレジーヌを支えた体制で、何かを投げたエイコイの姿があった。




「エイコイ!!」




「相棒……。後は任せたぜ。僕がアシストできるのはここまでだ。ドミニクさんに見せつけてやれ!!」




「おう、エイコイ……いや、相棒!!」




 俺はエイコイのアシストもあり、どうにか剣の元まで辿り着くことができた。そして剣を拾い上げた俺は、チンヨウと戦闘を続けているドミニクへ剣を投げ渡した。




「ドミニクさん!! 俺達は大丈夫だ、本気でやっちゃってくれェ!!!!」




 この後、俺はなぜこんなことを口にしてしまったのか、後悔した。

 ドミニクが本気を出していないなんて思っていなかった。なのになぜ、こんな言葉が出てきたのか。だが、結果的にこれがドミニクに初めて届いた言葉となった。












 王国の訓練所。そこでルークに戦いというものがどのようなものなのか見せるため、国王とドミニクが向き合って剣を構えていた。

 流石に王国の他の兵士にこの光景を見せるわけにはいかず、この場にいるのは三人だけだ。




「凄い、二人ともなんで速さだ……」




 国王も老いたとはいえ、息子が現れるまでは王国一の実力を持っていた人物。現最強とのドミニクと互角に剣を交えていた。




 やがて二人の剣は止まり、試合を終える。




「どうだルーク。ワシ、かっこいいだろ!!」




 孫に良いところを見せられたと自慢げに国王がルークに胸を張る。しかし、ルークは国王ではなく、ドミニクに目を輝かせた。




「ドミニク師匠はやっぱり凄いな!!」




「え、ちょ、ワシは!?」









 稽古を終え、ルークが休憩で練習場から離れている間に、国王はドミニクに尋ねた。




「ドミニク君。なぜ、本気を出さなかった……?」




 練習とはいえ、ルークに本当の戦いというものを見せるためのもの。そのための試合だったのに国王はドミニクの剣に不満があった。




「ワシが君の剣を止められないほど衰えていると思ったのかね?」




「いえ、そんなことは……。私は本気のつもりでした……」




 国王は椅子に座りながら少し考え込む。そしてある一つの答えに辿り着いた。




「もしや、ルークのために手加減をしているんじゃないか?」




「ルークのためですか……?」




 ドミニクは分からず、首を傾げる。そんなドミニクに国王は説明をする。




「ワシらが本気で戦えば、その影響で周囲に影響が出る」




「いや、確かにそうですけど。陛下と私なら被害は無くせますよ」




「それでもだ。手加減をしてるんじゃよ」











 俺が剣を投げると、チンヨウの攻撃を防いでいたドミニクだが、防御をやめた。右手を剣が飛んでくる方向へ伸ばし、剣をキャッチする。




 何が起きようともチンヨウは攻撃の手を緩めずに、上から下からあらゆる方向から攻撃を放ち続けた。




 そんな中、ドミニクはチンヨウに殴られ続けているのに剣を振り上げる。ダメージがないわけではない。

 ダメージの蓄積はある。それでも両手で剣を握り、綺麗な姿勢で剣を掲げる。




 剣が天を向き、チンヨウはドミニクから溢れる気迫に危機感を覚える。




「ん、これは……」




 実力者としての勘だろう。ドミニクに放つ技の破壊力を察知した。そしてそれが最後の一撃であることも。




 危機を感じたチンヨウは大きく後ろへ飛び跳ねる。券の届かない距離、いや、それ以上に距離を取った。

 数メートルを後ろへ飛んだチンヨウはさらにガードの体制をとる。




 両腕を前に出してどんな攻撃が来ても受け流せるような体制を作った。




 ドミニクは上げた剣を振り下ろす。

 俺から見れば、その場で素振りをしただけの光景。しかし、剣を振ったことで風が発生し、その風がかまいたちとなり、風となった斬撃がチンヨウを襲った。




 チンヨウの胴体に一直線の斬り込みが浮かぶ。皮膚を切り裂き、右肩から腰にかけて斬撃で傷が広がっていく。

 傷から液体が飛び出し、チンヨウの半身を真っ赤に染め上げる。だが、チンヨウはそんな状態でも身体の力を抜かず、ゆっくりと息を吐く。




「この程度、私の内功ならば……」




 チンヨウは体内の気を自在に操り、内臓や筋肉の耐久力を高める。さらにそこに魔力の循環を加えることで、全身を鋼鉄すら越えるほどの強度へと変えた。

 その強化された肉体でドミニクの斬撃を真正面から受け止めるチンヨウ。




 ジリジリとチンヨウの身体は後ろへと押されていたが、斬撃はチンヨウの皮膚を切り裂いた後、それ以上先へと進行することはなく。

 チンヨウの頑強な身体に斬撃は威力がなくなっていく。




「私はァァァ……ッ!!!!」








 月のない夜の中、山賊達は森を急いで移動していた。

 拠点の襲撃を受けた山賊達は、王国の騎士団に追われて逃げるように国からの脱出を目指していた。




「チンヨウ様……。傷はもう大丈夫なのですか?」




 馬車の揺れで目覚めたチンヨウに山賊の一人が声をかける。目覚めたチンヨウは馬車で移動する山賊と包帯に包まれた自身の状態に何が起きたのかを察した。

 そして後悔するように、意識を失う前のことを悔やむ。




「……私は、あの青年を……………」




 元の世界では用心棒としてあらゆる仕事を受けてきた。だから、珍しいことではない。後悔するようなものでもないのに。




 そんな感情が湧いてくる理由はなんとなく分かっていた。焦りだ。

 そんな気はなかった。一瞬の隙を作れれば、それで良かったのだが、恐怖から力が入り過ぎてしまった。




 どんな相手が標的であれ、ことを成すときには覚悟がいた。今回はその覚悟のない中での出来事。




「私も所詮は人の子か……」








 恐怖に打ち勝つ。そのために敗北してからいくつもの試練を乗り越えてきた。渓谷へ飛び降り、猛獣と戦い、そしてリベンジの時。




 この一撃を耐え、必ず誇りを取り戻す。




 チンヨウはドミニクの攻撃を耐え切ろうと気合を入れる。しかし、ドミニクもこのまま攻撃を終わらせるわけではなかった。




 剣を振り終えたドミニクだったが、もう一度剣を振り上げた。そしてまだ攻撃を受け止めているチンヨウに向けて、もう一度斬撃を飛ばした。




 攻撃を受け止めているところにさらなる攻撃が重なる。攻撃の威力が二倍になり、チンヨウの身体をジリジリと削り始める。

 だが、まだ耐えられる。これならまだ、まだ!!




 しかし、それで終わらなかった。ドミニクはまたしても剣を振り上げて剣から風を発生させて飛ばした。

 ドミニクの全力の斬撃が三つ重なった風。一撃だけなら耐え切れたでだろう攻撃だが、三つの攻撃となったことでチンヨウの防御を突き破った。




 チンヨウの胴体を切断し、背後にある建物にまで被害を及ぼす。斬撃の効果でドミニクから直線に地割れのように盗賊のアジトから森が割れ、それは終わりが見えないほど続いていた。




 剣を振り終えたドミニクは、腰につけた鞘に剣をしまう。そしてクルッと身体を向き直し、俺達の方へ身体を向けた。




 ドミニクに背を向けられたチンヨウだが、本来ならすぐに倒れてしまいそうなダメージなのに、その場で立ち続けている。

 だが、俺から見てもわかった。もうチンヨウは気を失っている。




 風に揺られても倒れることのないチンヨウ。

 白目を剥きながらも、悔しそうにドミニクを睨みつけていた。




 チンヨウを背にして、ドミニクは俺に手を伸ばす。




「君のおかげだ。初めて弟子に本気を見せられた、どうだった? ワタシの技は?」




 初めてドミニクが笑顔を見せる。ずっとムスッとした表情を続けていたドミニクの笑顔を見て、俺達もつられて明るい表情になる。

 そして何よりも俺が嬉しかったのは──。




 俺はドミニクの手を取り握手をする。




「凄かったです!!」




 俺達のことを弟子だと認めてくれたことだ。












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