第26話 『モンスターの変異』

ギルドでNo.1の冒険者パーティに見習いとして加入することになった俺は、最強の冒険者として教育される。




著者:ピラフドリア




第26話

『モンスターの変異』





 モンスター研究家メイル・トーマスはこう語る。




「モンスターの進化ですか……。そうですね、特別な事例を分ければ、二つのパターンが基本でしょうか」




 トーマスは一つ指を立てる。




「一つは魔素の集合体を吸収すること。魔力を持つ人間や動物を喰らうことで、魔素を吸収して進化します」




 さらにトーマスは二つ目の指を立てた。




「二つ目は…………」








 身体の色が赤く変化したキングゴゴリンを前にして、エイコイが呟く。




「空気中にある魔素を使っての進化……」




 それを聞き、俺は大きく口を開ける。




「進化!? 仲間を食って進化するだけじゃないのかよ!?」




「ああ、確かにそれが一番基本的な進化方法だ。でも、空気中にも微量だが魔素が含まれてるんだ。魔素を吸い続けたモンスターはそれが一定量を超えると、進化する」




「はぁぁぁぁぁ!? だけど、こいつはさっき進化したばっかりだろ!!」




 キングゴゴリンはさっき、他のモンスターを食べて進化したばっかりだ。そんなに早く進化するものなのか。




「普通はないよ。でも、ここが異様に魔素が多いんだよ。地形的な問題かな、ここは魔素が流れ込みやすいんだ」




「そんなことってある!?」




 俺が頭を抱えている中、後ろで樽に入れられたままのレジーヌが睨んでくる。




「アンタ達……そんなことはどぉぉでもいいのよぉぉ、早く私をここからだっしなさぁぁぁぁぁぁい!!」




 樽の中で暴れて、樽が左右にガタガタと揺れる。俺はそんなレジーヌにやれやれと言い訳をする。




「でもなぁ、レジーヌすっぽりはまってるじゃん。これじゃ抜けないよ」




「なによぉぉ、こうなったのも全部アンタ達のせいよ!!」




「いや、レジーヌが油断してたからでしょ」




 俺がそう言うと、エイコイも頷く。




「ああ、あれはレジーヌの油断だと僕も思う」




「なによなによ!!!!」




 俺達二人に反論され、顔を真っ赤にしたレジーヌは更に暴れ出す。そして樽がガタガタと大きく揺れて、最終的には、




「あ……」




 樽が横に倒れてしまった。そして地面が斜めになっていたのだろう。レジーヌは樽ごと転がり始める。




「あ、ちょ、ァァァァァァァァッ!!!!」




「「え!? レジーヌ!?」」




 転がり始めたレジーヌの向かう先には、赤く変化したキングゴゴリンの姿がある。




「レジーヌ、そのままじゃモンスターに突っ込むぞ!?」




 エイコイは先の姿を見て、レジーヌに伝える。俺もエイコイと並んでレジーヌに叫んだ。




「止まれ、レジーヌ、どうにかして止まるんだ!!」




 しかし、レジーヌは手も足も自由に動かせない。止まることができず、転がっていく。

 半泣きになりながらも、覚悟を決めたのかレジーヌは、




「もぉぉう!! こうなったらこのまま戦ってやるわよ!!」




 そう言って樽の転がるスピードを早めた。速度が増していき、樽は高速回転する。樽の先端についていたレジーヌの顔も、どこが正面だか分からないほど回転が早くなる。

 樽が転がってきているというのに、進化がまだ終わっていないのか、キングゴゴリンはその場から動かない。




 そしてレジーヌは勢いをつけたまま、キングゴゴリンに激突した。




 樽がキングゴゴリンの後頭部に当たり、キングゴゴリンは首をガクッとさせる。だが、ダメージは少ないようで後頭部を痛そうに摩るだけだ。

 勢いよく激突した樽だが、壊すことはできず、レジーヌは樽の中に入ったまま、キングゴゴリンの前を転がった。




 キングゴゴリンは頭を摩りながら、激突してきた樽に目線を移す。そしてレジーヌと目があった。




「…………ハロー」




「グォォァァァァッ!!」




「いやァァァァァ、ユウ、エイコイ、助けてェェェェェェ!!!!」




 キングゴゴリンは樽を見つけ、武器である丸太を振り上げた。それを見て、レジーヌは助けを求めて叫ぶ。

 キングゴゴリンは樽ごとレジーヌを潰すつもりなのだろう。

 このままではレジーヌも樽と一緒に粉々になってしまう。




「あいつはぁ!! エイコイ、助けに行くぞ」




「はいはい。助けてやろうか」




 俺とエイコイは同時に走り出し、レジーヌの救出へ向かう。キングゴゴリンが丸太を振り下ろし、レジーヌが潰されそうになったが、どうにか俺が間に合い、盾で丸太を止めた。




「クッズ!!」




「さっき普通に呼んでただろ!? なんでここでその呼び方に戻るんだよ!! ……エイコイ、頼んだ!!」




 俺は丸太を受け止めることで精一杯だ。ここはキングゴゴリンの背後に回り込み、二本の剣を構えているエイコイに攻撃を任せる。




「おう、相棒!!」




 エイコイは二本の剣でキングゴゴリンの背中をXの形に切ってみせる。

 だが、




「コイツ、進化して固くなってる」




 エイコイの攻撃でかすり傷をつけるのが精一杯だった。

 それしかダメージは入らなかったが、エイコイが攻撃したことでキングゴゴリンの意識がレジーヌからエイコイに移動する。




「僕が時間を稼ぐ。その間にレジーヌを安全なところに!」




「無理するなよ!」




 エイコイがキングゴゴリンの意識をひいている間に、俺は樽ごとレジーヌを抱えてキングゴゴリンから離れた。

 キングゴゴリンは強くなっているが、エイコイのスピードにはまだ追いつけない様子。エイコイは攻撃を避けながら時間を稼ぐ。




「よし、この辺なら大丈夫か……」




 俺は樽女を離れた場所に運んで、今度は転がらないように置いた。俺はエイコイを助けに行くため、樽に背をむせる。すると、




「待ちなさい!」




「なんだよ、タルーヌ」




「誰がタルーヌよ!! …………気づいてる? アンタがエイコイに加勢したところであのモンスターには勝てないわ」




「…………」




樽から顔を出し、レジーヌは真剣な顔で事実を伝えてくる。

 それは俺も分かっている。不意打ちで攻撃をしたのに、エイコイの攻撃はダメージにならなかった。二人で協力しても、火力不足でキングゴゴリンには勝てないだろう。




「私を出しなさい!! 私の魔法を使えば、キングゴゴリンにダメージを与えられる!!」




「影魔法か……」




 確かにレジーヌの魔法は強力だ。使うことができれば、キングゴゴリンにもダメージを与えられるかもしれない。




「でも、お前樽から出れないじゃん」




「だから私を出すのよ! ……エイコイを助けるんでしょ、なら私の力が必要のはずよ」




 お前を助けにきて、ピンチなんだが……。

 だが、レジーヌの力は欲しい。




「ならどうやって出せば良いんだよ。引っこ抜こうとしても全然抜けないんだぞ!!」




「方法はあるわ。私の右側。そこを私とタイミングを合わせて強く叩くのよ」




「右側?」




 俺は言われた方法を見るが、樽にヒビが入っていたりはしていない。




「なんで、そんな場所を?」




 俺が首を傾げると、レジーヌはフンと鼻を鳴らした。




「今朝、エイコイの魔道具をパクっておいたのよ。それが右ポケットに入ってるの」




「おい、なにやってんだよ!! またエイコイに怒られるぞ」




「今はそんなこと忘れなさい。上手く叩けば、衝撃で爆発するはずよ。それで樽を壊すの」




 レジーヌはそんなことを言い出すが、




「でも、そんなことしたらレジーヌも一緒に爆発に巻き込まれるぞ?」




「一瞬でも身体が自由になれば、魔法が使えるわ。そうすれば影の世界に逃げ込める、だからタイミングを合わせる必要があるのよ」




「そんな無茶な……」




 かなり無謀な手段だ。確かにボム丸君ならこの樽も壊せそうだ。しかし、タイミングをミスれば、レジーヌは爆発に巻き込まれて粉々になってしまう。




「危険すぎるよ!! 他の方法を考えようよ!!」




「そんなこと言ってる余裕はないのよ。見なさい、エイコイを……。避け続けてるけど、体力が無くなればエイコイはやられるのよ」




 レジーヌの言う通り、エイコイは避け続けているが体力が無限というわけじゃない。疲れれば、避けるスピードも遅くなる。

 そうなれば最終的には避けることができなくなり、キングゴゴリンにやられてしまうだろう。




「ァァァァァッ!!!! もう分かったよ、失敗しても恨むなよ!!」




 俺は頭を勢いよく掻きむしって、嫌なことを考えないようにする。




「いや、失敗したら恨むわよ」




「俺の決意を揺るがすなよ!!」




 レジーヌに言われたことは忘れて、俺は剣を鞘にしまう。そして両手で剣を握って、剣で殴れるようにした。




「良いか。合図をしたら樽を殴るぞ」




「早くしなさい。どうせ一発勝負よ。やるしかないのよ!」




「分かってるよ!! じゃあ行くぞ、セーっのぉ!!」




 俺は勢いよく樽を剣で殴った。すると、良い感じにレジーヌのポケットに入ったボム丸君に当たったのだろう。

 樽が光を放つ。




「爆発するぅ!?」




 光を放った樽が爆発して、周囲に粉切れになった残骸を飛ばす。

 俺は爆発の影響で後ろに数メートル転がり倒れたが、すぐに立ち上がって樽の方へと目線を戻した。




「レジーヌは……」




 俺が心配そうに爆発で発生した煙の方をじっと見る。やがて煙が晴れてきて、中に人影が見え始めた。




「やれやれよ。これでやっと自由になれたわ」




「レジーヌ、無事だったか!!」




 煙の中からレジーヌが現れた。爆発の煙で身体が煤だらけだが、怪我はない様子だ。




「当然よ。さぁ、エイコイを助けに行くわよ、ユウ!」




「ああ、エイコイ。今助けに行くぜ!」




 俺とレジーヌはエイコイを助けに行くため、キングゴゴリンの元へ走り出した。





 エイコイはキングゴゴリンの攻撃を避け続けているが、疲労が溜まってきたのか、動きが鈍くなり始めていた。




「エイコイ、助けに来たぞ!」




「相棒! それにレジーヌも!! よし、ここから反撃だな!」












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