第9話 『旅へ』

ギルドでNo.1の冒険者パーティに見習いとして加入することになった俺は、最強の冒険者として教育される。




著者:ピラフドリア




第9話

『旅へ』






 クエストを終えた見習いの俺達は、達成のことをウィンクに伝えると、報酬として金貨を数枚貰った。

 その金貨がどれくらいの価値になるかはわからなかったが、近くに村があるわけでもなく俺はその金貨を保管することにした。




 そしてまた修行の日々が始まった。








 ウィンクは教科書を読み上げた後、俺の杖で指す。




「次、ユウ、読んでみろ!」




「はい!! え〜……………」




「遅い!! 次、エイコイ!!」




「え!?」







 セルゲイはバネで強制的にスクワットさせる装置をクロエに作らせて、俺達につけさせる。




「さぁ、それで500回!!」




「え!?」







 ドミニクの時間は今まで通り、自由時間。

 休んだり、魔法について調べたりと自由に過ごした。







 クロエは俺達三人にある一枚の紙を見せる。




「これからアタシの修行ではアイテム開発を学んでもらいます!!」




「「「おおっ!?」」」




「そこであなた達にはアタシの開発する新アイテム開発のアシストをしてもらう」







 こうしてまた時間が過ぎ、クエストを攻略してから数日後。ウィンクは見習いを含めたパーティメンバー全員を集合させた。




「皆の協力があり、この森周辺の調査も今日で終了することになった。それに伴い、明日、俺達はこの森を出発する」




 腕を組み説明するウィンク。ここに来てから一ヶ月間、ずっとこの草原で生活してきた。

 もうこの景色にも見飽きていた俺は、内心大喜びする。




「ってことは馬車はそのために用意したんですか」




 俺は草原に置いてある一台の場所に目をやった。

 三匹の馬が紐で括り付けられており、後ろには屋根付きの荷台が取り付けられていた。




「そういうことだ。まぁ、出発は明日だ。だから今日は修行なしで明日の準備を進める」











 それから馬車での旅の準備のために、森に入り、またポムポムをゲットしてきたり、他にも必要な素材を採取した。

 そうしてあっという間に時が経ち、1日が終わった。




 翌日、馬車に荷物を乗せて俺達は出発の準備を始める。




「あれ? 馬車をひく馬はどこ行ったんですか?」




 俺は馬車と一緒にいた馬がいつの間にかいなくなっていることに気がついた。

 その俺の問いに近くで作業をしていたクロエが答える。




「馬なら馬車を貸してくれたお店に返したよ」




「え!? なんで!?」




 なぜ馬の返したのか。これじゃ馬車が動かないじゃないか。しかし、そんな疑問に答えるようにクロエは馬車にあるものを取り付ける。




 馬車の前方に取ってを作り、馬車を押して引っ張れるようにしていた。




「まさか…………」




 そして俺の嫌な予感は出発して当たることになった。









 俺とエイコイ、レジーヌの三人は馬車の前にある取っ手を掴み、それを押して馬車を引けと言われた。




「「「なんで!?」」」




 俺達が嫌だと叫ぶと、ウィンクは腕を組む。




「これも修行だ。お前達の修行時間を移動で減らすのは可哀想だからな」




 こんな無茶苦茶をさせてる方が可哀想だと思うのだが……。




「そういうわけだ、頑張れよ」




 ということで、見習いである俺達が馬車を引っ張って目的地を目指すことになった。




 目的地は山に谷にさらに山を越え、それを数回繰り返した先にある村だ。そこに到着するまで俺たち三人はこの地獄のような馬車引き生活が続く。




 重たい馬車を引っ張って道沿いに進んでいく中、俺は馬車の隣で浮遊しているウィンクがさっきから気になっていた。




「なんでウィンクさん馬車に乗らないんですか? …………イリニだって乗ってるのに……」




 ドミニクの相棒である馬のイリニですら、馬車の中で寛いでいる。なのにウィンクは仁王立ちで浮遊して馬車に並走していた。




「俺は…………ちょっとな」




「ウィンクさんは乗り物酔いが酷いのよ」




 ウィンクが答えるよりも早く、レジーヌが答えてしまう。知られたくなかったのか、ウィンクはレジーヌに言われてショックを受けている様子。




 てか、乗り物酔いするから魔法で浮いてついてくるってどういうことなのか……。酔うのが嫌だから浮くって、疲れそうなのだが。




 そんなこともありながらも、何日もかけて馬車を進めていき、やっと目的地の村へと着いた。




「やっと、着いたァァァァァ!!!!」




 数日間、馬車を押し続けていた俺達三人はヘトヘトで地べたに座り込む。




「情けない奴らだなァ」




 座り込んでいる俺達を見て、セルゲイは笑う。ずっと馬車の中で寝ていたのに偉そうなのがムカつく。




「しょうがねぇなァ、ちっと癒してやるよ」




 っと、笑っていたセルゲイだが、俺達に近づくと手を翳して魔力を送り込んでくれる。

 前にやってくれた傷を治すものだろう。傷はないのだが、魔力が注がれると体力も回復する。




「おおおっ!? 動ける、動けるぞ!!」




 元気になった俺は飛び上がり、ガッツポーズをする。エイコイとレジーヌも元気になったようで、軽くなった身体を確かめるように跳ねたりしている。




「さて、元気になっところで修行と行くかァ」




 元気になった俺達がセルゲイがニヤリと笑いかける。俺達はさっきまで上がっていたテンションが急激に下がり、跳ねることすらできないほど落ち込む。




 やっと解放されたと思ったら、また修行を始めるのか……。




 そうやって落ち込んでいたが、




「というのは冗談だァ。今日は休みだ、この村はお前達が仲間になって初めてきた人里だからなァ、必要なものを買い揃えるんだよ」




「そうなんですか……」




 修行がないと聞いてホッとする俺。隣ではエイコイとレジーヌも同じようにホッとしていた。




 ウィンクは魔法を解除して浮遊をやめると地面に着地する。そして俺達三人の前に立つ。




「ここでのお前達の任務は必要なアイテムや装備を揃えることだ」




 ウィンクが指を鳴らすと、俺達三人の前にそれぞれ一枚ずつ小さな紙切れが現れる。それをキャッチして受け取ると、その紙には買うべきアイテムや装備について記載されていた。

 絶対に買うべきもの、買っとくと良いもの、欲しかったら買えば良いもの。と三段階に分けられており、全員の紙には別々のものが記載されていた。




「今後の旅に必要になりそうなものでこの村で揃えられるものをまとめておいた。それを参考にすると良い」




 つまりは絶対に買うべきものは、今後の旅のために買っておけということだ。後の2つは俺の気分次第。




 てか、修行中も文字を見ることはあったが、このメモの文字も日本語ではない。見たことがない文字がスラスラと入って読めてしまうのは少し気持ち悪い。




 めもを渡したウィンクは杖を地面に突き刺し、




「それじゃあ、行ってこい!!」




 こうして俺達はそれぞれの買い出しに向かった。








「意外とでかい村なんだな〜」




 村は木造の建築物が多く、西洋風ファンタジーのようなゲームに出てくる村のような建物が多く立ち並ぶ。

 しかし、一部の倉庫は柱で地面から開いており、動物の侵入を防ぐ構造になっている。




 村に東側には畑が広がっており、牛が作物の運搬を行っている。




「えっと、この辺かな?」




 ウィンクのくれたメモにはおすすめのお店の場所も記載されており、俺はそれを頼りにまずは一軒目の店に入った。

 そこは服屋さん。この世界に来てからずっと同じ服を着ていたが、このままの服装だと目立つし、動きずらいから服を購入するように勧められていた。




 店内にはいくつもの服が並んでおり、村人用の服といったものが基本だが、旅人に合わせた服などもいくつか並んでいた。そんな服の中で俺はある服に目を奪われた。




「ふ、フード付きの服だ!!」




 それはかなり歪だが、フードのついた村人が来ているような質素な服。ファンタジー世界でのフード付きは特殊な職業のキャラとかが着ている印象だが、これはそれとは違い、フードがついていることを除けば、なんの取り柄もない服だった。




 俺はその服を手に取る。




 俺にはあるこだわりがあった。それはフード付きの服だけを着ると、靴下は履かないという二つのこだわりだ。




 フード付きは完璧な装備だ。雨が降れば頭を守れるし、人に見つかりたくない時は、顔を咄嗟に隠すこともできる。

 フード付きの装備は鎧を超える神装備。神の作った最強アイテムと言っても良い。




「これください!!」




 俺はフード付きの服を手に取り、それを買うことにした。




 それからはメモ帳に書いてある必要なものを適当に買い漁り、日が沈み始めた頃、やっと買い出しを終えて馬車へ戻った。

 馬車のある村の入り口に向かうと、何やら村人とウィンク達が話し合っている。




 買い出しから戻ってきていたのは、ウィンクとドミニク、エイコイ、レジーヌの四人のようで他のメンバーはまだ見当たらない。




「何やってるの?」




 俺は村人との話し合いに参加していないエイコイ、レジーヌの元へ行くと事情を尋ねる。エイコイは一番早く馬車に戻ったらしく、最初から近くで会話を聞いていたようで、説明してくれた。




「それが村の近くで山賊が出てるらしいんだ」




「山賊!?」




 山賊と聞き、俺は怯えて肩を振るわせる。




 想像できる山賊の姿は、髭面でゴツい野蛮な集団。村を遅い、人々から金品や食料など様々なものを奪っていく。恐ろしい人達。




 エイコイは腰に欠けたバックの中から紙の束を取り出すと、ペラペラと捲り出す。




「それもその山賊のリーダーが少し有名人なんだよ」




 そして一枚の紙を発見してそれを俺に見せてきた。




「コウ・チンヨウ。度々山から降りては村を襲っているらしい。騎士団から手配書も発行されてる。これだよ」




 エイコイが見せてくれた紙にはコウ・チンヨウのイラストが描かれていた。

 ナスみたいな骨格に鼻毛が髭のように生えた男性。面白い顔をしているが、目つきは悪く、鼻毛を除けば悪役顔だ。




「こんなのが度々村に降りてくるのかよ……。早く村から離れようよ」




 俺は山賊が怖くて早く村を出たいと呟く。エイコイも同じようで首をフンフンと縦に振った。しかし、そんな俺達を見てレジーヌが腕を組んだ。




「何、あんた達逃げる気なの?」




「いや、だって山賊だよ、怖いんだよ!!」




「怖いからって逃げてどうするのよ。私達は冒険者よ」




 腕を組んで威張るレジーヌ。そんなレジーヌとは違い、俺とエイコイは腰を曲げてびびる。




「冒険者なら冒険者らしく冒険だけしてれば良いじゃん!! 山賊なんてほっといて!!」




「そうはいかないのよ。だって私達……お金がないんだもの!!」




 なぜか、威張ってそんなことを言うレジーヌ。しかし、レジーヌの言うことは事実だった。

 俺達の所属しているパーティは有名な冒険者パーティらしい。しかし、基本的には旅をしてその土地の生態や土地の研究をして歩いている。そのため決まった場所で収入を得られるわけではない。

 それに旅を続けているため、出費も大きい。




「こういう村の問題を解決して報酬をもらう。例え少なくてもね、それが必要なのよ」




「そんな……」




 そんな会話をレジーヌとしていると話を終えた村人達がウィンクから離れていく。

 村人が村に帰り、手配書を眺めていたウィンクは俺達の元へとやってくる。目が見えていないため、杖で地面を叩き、俺達の前に立つ。




「ユウも戻ってきたみたいだな。……では見習いの諸君にこれから任務を与えよう」




 杖をつき、ニヤリも頬を上げるウィンク。その表情に俺は嫌な予感を感じ取った。それはエイコイも同じようで身体を両手で覆い、寒がるようなポーズで震えている。

 それでもウィンクは止まることなく、その任務を口にした。




「山賊一味を捕らえてくるんだ!!」




「「やっぱりだァァァ!!」」




 俺とエイコイは怯えてお互いに抱き合って、嫌な予感が的中したことに叫び声を上げた。








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