第8話 『これが実力』
ギルドでNo.1の冒険者パーティに見習いとして加入することになった俺は、最強の冒険者として教育される。
著者:ピラフドリア
第8話
『これが実力』
子供ドラゴンの討伐に成功し、その達成感に浸っていた俺達だったが、そんな時間は長く続かなかった。
最初に気づいたのはレジーヌ。そして俺とエイコイもやっとその存在に気がついた。
大きな羽を広げてる山のように大きなドラゴンが、俺達の頭上にいた。
「なんで、大人のドラゴンがここに……」
エイコイは驚きて尻餅をつく。
「子供もいるなら大人も出てくるのは当然なんじゃ…………」
俺は身体を震わせながら、ドラゴンを見ながら思ったことを口にする。
子供のドラゴンがいれば、大人のドラゴンもいる。子供が討伐された恨みで俺達を襲うつもりなんだろう。
しかし、レジーヌは俺の言葉を否定する。
「クズコイから話は聞いたでしょ。モンスターは魔素から発生する。同じアースドラゴンでも親子関係じゃないわ」
「じゃあ、偶然親のドラゴンと鉢合わせたってこと!?」
そんな偶然があるのか。しかし、信じられないがそれが事実だ。
俺達の頭上を飛ぶドラゴンは目線を落とし、俺達のことを睨みつける。そして多くに口を開けると、
「ギィヤァァアッァァァッ!!」
大地が震えるほどの叫び声を出した。その声で木が揺れ、葉が全て枯れ落ちる。近くにあった山は岩石が崩れて土砂崩れが起きていた。
俺達は耳を塞ぐが、どれだけ強く耳を塞いでも音の大きさで頭が痛くなる。
「なんて声なの!?」
叫び声だけで立っていることすらできなくなり、俺達は地面に倒れ込む。耳から出血もあり、もう叫び声が止んだというのに音が聞こえない。
キーンという音だけが残り、意識が朦朧としてくる。
倒れた俺は上向きになって空を見上げると、ドラゴンは今だに頭上にいる。見下ろして俺達が倒れたのを確認すると、羽ばたく速度を落としてゆっくりと着地しようとする。
しかし、地面に近づいてきたドラゴンが、途中で降りるのをやめその場で滞空する。
そしてドラゴンが止まった理由はすぐに分かった。倒れている俺の視界にある人物が映る。
神官服に身を包み、葉巻を咥えた筋肉質な男。彼は首をコキコキ鳴らしながら現れた。
「ウィンクめ、こうなることを分かって俺に任せたなァ。ひでぇやつだァ」
耳をドラゴンの叫び声でやられ、何を言っているかは分からない。しかし、これだけは確かだ。その人物は俺達を助けにきてくれたのだ。
「さて、ドラゴンかァ。最近小物ばっかりで鈍ってたんだァ。少しは頑張ってくれよ」
現れたのはセルゲイ・アーガルド。今回のクエストで俺達を見守っていた人物だ。
レジーヌの話では数十キロ遠くにいたはずだが、ドラゴンが現れてたったの数秒で駆けつけたのか。
セルゲイは拳を握りしめると、膝を曲げて低い姿勢になる。そして力を溜めて力強くジャンプした。
そのジャンプは人間の脚力とは思えないほど、強力なものであり、辺り一面に砂埃を起こし、セルゲイはドラゴンのいるはるか上空まで飛び上がった。
ビルの高さで言えば、十階建てまであるだろう。そんな高さまで飛び上がったセルゲイはドラゴンと向かい合う。
ドラゴンと同じ目線の位置に行き、人間がジャンプして飛んできたことにドラゴンは驚いて目を丸くしている。
驚くドラゴンをセルゲイは拳を握りしめると、大振りで顔面を殴り飛ばした。殴られたドラゴンは吹き飛んでいき、子供ドラゴンが住んでいた洞窟のある山を半分ほど踏み潰しながら倒れる。
ドラゴンを殴り飛ばしたセルゲイは腕を組むと、仁王立ちで落下して着地した。
隕石が落ちたような勢いで大きな衝撃音と土埃を出しながら着地したセルゲイは、倒れたドラゴンへと目線を向ける。
「しまったなァ。やりすぎたか……」
そう言って寂しそうにドラゴンを見る。
本当にやりすぎだ。ドラゴンを素手で倒すとは思ってなかった。しかも拳で一撃だ。あんなパンチを人間が食らったら、身体が真っ二つに吹き飛んでしまう。
っと、寂しそうにしていたセルゲイだが、ドラゴンの様子を見てニヤリと笑う。
殴り飛ばされたドラゴンだったが、足をガクガクさせながらもゆっくりと起き上がる。そして四本足で立ってセルゲイのことを睨みつけた。
「良かったぜ、まだまだやれそうじゃァねぇか」
嬉しそうに葉巻を咥えた口でギヒヒと笑う。
そんなセルゲイを睨みつけるドラゴンは大きく口を開ける。またあの叫び声を出すつもりだ。
「あァ、それはまずいなァ。俺は効かねぇが、まだコイツら治してねぇんだ……」
セルゲイはドラゴンの姿に頭に手を乗せてめんどそうにする。
「じゃァねぇ、逃げんなよ……」
ドラゴンが叫び声を上げる前に、セルゲイは息を勢いよく吸うと、
「フッん!!」
身体中に力を入れた。身体に力を入れただけなのに、そのエネルギーでセルゲイを中心に風が発生し、近くの木が揺れる。
だが、それだけじゃない。
叫ぼうとしていたドラゴンが、口を開けたまま固まって叫ぶのをやめた。
「よぉし、俺の気で逃げねぇのは根性あるな……。いや、ビビりすぎて動けねぇか」
俺には何が何だかわからない。しかし、どうやらドラゴンはセルゲイの迫力にビビり、叫ぶのをやめてしまったらしい。
「さて、まだ動けそうにねぇかァ。なら、こっちから行くぜ」
セルゲイは一歩踏み出すと、数百メートル際にいるドラゴンの元へと移動する。そして動けずに固まっているドラゴンの顎に向けて、アッパーを放った。
ドラゴンの顎は大きく上がり、前足が浮く。
「まだまだァ」
前足の浮いた状態のドラゴンだが、そんなドラゴンに向けてセルゲイはラッシュでパンチを放ち始める。顎が上を向いたことで、露わになった長い首に向けて何度も拳を叩きつける。
そのラッシュ攻撃でドラゴンは後ろ足だけで受け止めきれず、徐々に後ろへと後退していく。
後ろ足のついている地面は、木々を倒しながら地面に穴を掘っていく。ドラゴンが100メートルほど移動させられたところで、ドラゴンも反撃に出る。
羽を羽ばたかせ、一瞬宙に浮くことでセルゲイの拳をすかせる。セルゲイの拳が空を殴る中、ドラゴンは前足を振り下ろしてセルゲイを叩き落とした。
ドラゴンの前足で殴られて落下したセルゲイは、猛スピードで地面に激突する。周囲を落下の衝撃で吹き飛ばしてしまう。
ドラゴンの攻撃を受けたセルゲイ。流石のセルゲイでも無傷ではいられないはず……。
だが、そんなことはなかった。
「なかなか良い攻撃じゃァねぇか。ちょっとは聞いたぜぇ」
セルゲイは無傷では首をコキコキ鳴らす。ダメージを受けていないセルゲイの姿にドラゴンはポカーンと目を丸くした。
「どぉした、ドラゴン? 来いよォ」
セルゲイは指でくいくいとやってドラゴンを挑発する。ドラゴンはイラっと来たのか、地面に四本の足で着地すると、前足を上げた。
ドラゴンは揚げた前足を勢いよく地面に叩き下ろす。すると、ドラゴンの前足が触れた地面が割れて地割れが起きる。
その地割れは真っ直ぐセルゲイへ向かって伸びていった。
「地割れか……。しかァし!!」
地割れが広がり、セルゲイへ向かう中、セルゲイは胸を張って気合を入れる。そして向かってくる地割れに向けて、
「カァァァッ!!」
と、叫んだ。その叫び声で周囲に爆発したかのような風が生まれ、森全体を揺らす。さらにその気合いだけで地割れを止めてしまった。
流石に地割れを止められるとは思っていたかったのか、ドラゴンは動揺した様子で後退る。そんなドラゴンを追い詰めるようにセルゲイはジリジリと距離を詰めた。
「アースドラゴン……。まだまだァ物足りねぇが、今回はこれくらいにしといてやるよ」
セルゲイは指をコキコキ鳴らした後、左拳を握りしめて深く構えた。
ドラゴンは危険を感じたのか、羽を羽ばたかせて空へ逃げようとする。だが、もう遅かった。
セルゲイは一歩踏み込んだだけでドラゴンの懐に潜り込み、力を溜め込んだ左拳でドラゴンの腹を殴り込んだ。
ドラゴンの身体はパンチで浮かび上がり、その一撃で倒し切ったのか、パンチの当たった部分から黒い霧となって散っていく。
子供のドラゴンよりも大きな身体のため、全身が消滅するまで時間がかかったが、徐々に霧となっていき、ドラゴンは完全消滅した。
ドラゴンを討伐したセルゲイは俺達が倒れているところへ戻ってくる。
「さてと、そろそろ治してやるか」
セルゲイは俺とエイコイ、レジーヌを川の字に並べると、俺達三人に向けて手をピーにして、手のひらを向けた。
「天にまします我らが父よ、願わくは、この者に癒しを……。ヒール!!」
セルゲイが手に力を込めると、俺達三人の傷が癒やされていく。叫び声で聞こえなくなっていた耳も元に戻り、俺達は立ち上がれるほど元気になった。
「すご……治った」
俺は自身の身体中を探り、本当に治ったことを確認する。
エイコイも同じで治ったことに驚いている。レジーヌだけは慣れたことのようで平然としているが。
「セルゲイさん!! 魔法ってこんなことができるんですか!!」
俺は傷が治ったことに驚き、セルゲイに駆け寄る。そんな俺に続いてエイコイもセルゲイへと駆け寄る。
「凄い!! 治療が魔法でできるなんて僕、初めて見ましたよ!!」
俺とエイコイがそんな反応を見せ、セルゲイは嬉しそうに鼻の下を擦る。
「そうかァ、初めて見たかァ」
「セルゲイさん、僕にもその魔法教えてください!!」
「俺も俺も!!」
俺とエイコイはセルゲイに一瞬で体を治した魔法を教わろうとお願いする。すると、普段なら筋トレを優先して魔法はまだ早いと教えてくれなかったセルゲイが、ニヤリと笑い、
「良いぜぇ、だが、これは単純な魔法じゃァねぇんだ」
「単純な魔法じゃない……」
「とある神の加護を受けて行える特殊な魔法。だから、この技を使うためには神の加護を受ける必要がある」
セルゲイは服の中にしまってあった紙とハンコを取り出した。
「加護を受けるためにコケコッコー神を崇めるんだァ。これにハンコを押しなァ、そうすれば使えるようになるぜ」
なんだか怪しいけど、これで使えるようになるならと俺とエイコイが紙を受け取りかけたところで、
「クズどもやめといた方が良いわよ」
レジーヌが止めた。
「セルゲイさんの言ってることは全部嘘だから。あの魔法は魔力を注いで治癒力を加速させただけ、セルゲイさんの馬鹿みたいに多い魔力だからできる技で、そんな神の加護なんて関係ないから」
「レジーヌ!?」
セルゲイは焦り出してオドオドし出す。もしかして本当なんだろうか。
「そんなわけねぇだろぉがァよ!! オレは崇めるコケコッコ神の力だぜ……!!」
「なら、そのコケコッコ神の加護を見せてくださいよ!!」
「それはだなァ……………。今は無理だ」
「ほら!!」
レジーヌはセルゲイと俺達の間に割って入ってくる。
「あなた達。絶対に入信しちゃダメだからね。この人の崇める神は邪神だからね!!」
「コケコッコ神のどこが邪神だ!!」
レジーヌの後ろでセルゲイが文句を言っている。
二人の会話を聞き、俺とエイコイはとりあえずは入信は保留にした。
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