第3話 『試験』
ギルドでNo.1の冒険者パーティに見習いとして加入することになった俺は、最強の冒険者として教育される。
著者:ピラフドリア
第3話
『試験』
「はぁはぁ、ここまで来れば流石にこないだろ……」
俺は息を整えながら、後ろを振り向く。エイコイも同じように呼吸を乱して、木に両手をついて疲れ切っていた。
「ぜぇーぜぇー、もうだめ……」
エイコイの方が俺よりも息を切らしていて、エイコイの体力の限界が来たから、俺達は足を止めた。
「しかし、俺達非力だなぁ〜。これから冒険者になろうっていうのに……」
俺は疲れ切って辛そうなエイコイの、背中を摩りながら呟く。
「そう言っても武器もないんだ。モンスターなんかに遭遇したら終わりだよ……」
「さっきまでのはモンスターじゃないのか?」
道中で出会ったエイや巨大キノコ。あれこそファンタジー世界のモンスターぽいが。
「あれはモンスターから身を守るために進化した野生の動物や植物だよ。モンスターはもっと凶暴だ、あの巨大イノシシだってモンスターじゃない」
「あれはモンスターだろ!!」
あんな山みたいなイノシシがモンスターじゃないなんて!? というか、モンスターはあれよりも凶暴なのか……。
「他の土地だと野生動物は小さくなったり群れで過ごしたりして、モンスターから身を守るが、この森の動物はモンスターに対抗するため凶暴になってる。特にクマは危険だ。出会ったら最後だと思え」
「そうか〜、クマか〜」
俺はエイコイの話を聞き、うんうんと頷きながら目の前にいる動物を見つめる。エイコイが話している間に現れ、じっとこちらを見つめている動物。
赤いふんどしを腰につけ、背中には斧を背負った2メートル以上ある毛皮が、鼻をクンクンさせている。
俺はエイコイの肩をツンツンと突く。
「なぁ、エイコイ。あれって……」
「なんだ……よ……………? ……………あ」
「もしかして、クマ?」
「ああ、あれが例のクマ。キンタロウだ」
匂いを嗅ぎ終えたキンタロウは、背中に背負っていた斧を両手で掴んで構える。クマの手だというのに器用に斧を掴んでいるのが、とても不気味だ。
「エイコイ。この世界でクマに出会ったらどうしたら良いんだ?」
「逃げろォォォォォ!!」
俺とエイコイはキンタロウに背を向けて走り出した。
「なんなんだよ、あのクマは斧振り回して追ってきやがる!!」
「この森のクマは知能が高いんだ。人間のように武器を作り、モンスターから身を守る!!」
「なんだそりゃ!? どんな進化遂げてるんだ!!」
二足歩行で走り、追ってくるクマの姿に俺は涙を流しながら走る。あの怖さでモンスターでないとなると、この先が心配だ。
「このまま逃げてて良いのか? 俺の知識だとクマは車より早いぞ!!」
「車? なんだそれ、しかし、その通りか、このまま逃げてても絶対に捕まる!! だから………」
隣を走るエイコイは顔をこちらに向ける。そして下唇を噛みながら、
「諦めて食われよう」
「手段ないの!? 終わったァァァァァ!!!!」
モンスターですらない野生動物に食われてここで終わる。エイコイの諦めた表情に、俺もつられて諦めかけた、その時だった。
「これを使いなさい」
進行報告の木の根に、頭上から剣が二本投げ落とされた。
「剣!? 誰!!」
走りながら剣が落ちてきた方向へ目線を向けると、見覚えのある女性が木の上に立っていた。
「「さっきの美しい人!?」」
俺達はその女性の姿に言葉をハモらせる。彼女はあのイノシシを魔法を使って倒した一人だ。彼女はパーティメンバーの一人ぽい様子だった。
しかし、この状態で現れたってことは助けに来てくれたってことだ。
「あの剣を使って戦えってことだな」
俺は美女が落とした剣を拾い上げる。エイコイも俺と同じ結論に至った様子で、同様に剣を拾って足を止めた。
振り返り、剣を構えてクマと向き合う。
「二人で戦えば勝てるよな」
「ああ、絶対勝てるはずだ」
クマが斧を振り回して、木を薙ぎ倒しながら近づいて来る。その様子に俺達は
「なぁ、本当に勝てるよな。な!」
「あ、ああ、そういう流れだこれは……」
だんだんと不安になって来る。
相手はクマでも普通のクマではない。斧を振り回して襲って来る、謎のクマさんだ。
剣の素人の俺が剣を持ったところで、普通のヒグマに勝てるだろうか……。
「なぁ、エイコイ。お前って剣使ったことある?」
「……ない」
「あのクマって素人の剣士が勝てると思うか?」
「絶対無理」
俺とエイコイは剣を持ったまま、再び身体の向きを変える。そして全力で走り出した。
「だよなァァァァァ、絶対勝てない!! 逃げろォォォォォ!!!!」
美女がカッコよく登場して、これを使えば勝てるみたいな雰囲気出してたが、あれは絶対罠だ。俺達を陥れるための罠だ。
もしも剣を持って戦ってもあのクマには勝てない。もしも剣をくれたのが善意だったとしても、俺は彼女を恨む。
俺達は振り出しに戻った。なんなら剣を持っている分、走りずらい!!
「ユウ、前、前見てくれ!!」
走り続けて数分、エイコイが前方の光景に声を上げる。
「崖!? 吊り橋かよ!!」
目の前にゲームや漫画で出て来るような谷が広がる。下まで数十メートルもあり、下には川があるが落下すればあの世に行ってしまうような高さ。
そしてその谷を渡ることができる唯一が、ロープと木材で出来た簡素な吊り橋。風で揺れて簡単に壊れてしまいそうな、細い吊り橋だ。
「なんでこういう時に限って吊り橋!?」
俺が頭を抱えて身体をくねらせる中、エイコイは吊り橋を叩いて様子を確かめる。
「迷ってる時間はないよ。クマはもうすぐそこまで来てる!」
「うぉぉぉっわ!? マジだ!! 早く渡るぞ!!」
エイコイを先頭でその後を俺が続いて橋を渡る。クマも追いついてきたが、吊り橋を渡るが迷っている様子で、クンクンと吊り橋の匂いを嗅いでいる。
今のうちだと急いで進み、俺達は吊り橋を半分まで来たところで、吊り橋が大きく揺れた。
後ろを振り向けば、クマが吊り橋に乗ってきていた。
「急げぇぇぇぇ、追いつかれるぞ!!」
「分かってる!! だから押すな!!」
クマが吊り橋に乗り、追いかけてきたことで俺達は焦り出す。エイコイを押して俺は急かす。
そしてどうにか吊り橋を渡り終えた。
「はぁはぁ、渡り終えた……。どうだ? クマの様子は?」
俺が尋ねるとエイコイは橋の上のクマを見る。
「クマはまだ半分みたいだね。なぁ、ユウ、これってチャンスじゃないか?」
そう言ってエイコイは剣を吊り橋に向ける。その無言の動きで俺は何をやろうとしているのか、察した。
「ふふふ、それは名案だな……」
俺は目を輝かせて剣を取り出すと、吊り橋の右側のロープに剣を当てる。エイコイも同じように吊り橋の左側のロープに剣を当てた。
そこまでしてクマの事態を察したのか、斧を片手に両手をフリフリさせてやめろと合図をして来る。
さすがは武器を作れるクマなだけある。察しがいいようだ。だが、
「俺達を襲ったのが運の尽きだ。落ちろぉぉ!!」
俺とエイコイは同時にロープを切った。ロープを切られたことで吊り橋は支えがなくなり、崩れ落ちる。クマは元いた谷の反対側まで走るが、間に合わずに谷の底へと落ちて行った。
俺とエイコイはクマが落ちていくのを確認した後、右手を突き出しぶつけ合った。
「「大勝利!!」」
クマの撃退に成功し、俺達は森のさらに奥へと進む。森に入ってからかなりの時間が経過したはずだが、一向に目的の果実は見つからない。
「なぁ、本当にポムポムってこの森にあるのかよ?」
見つからなすぎて俺はもうこの試験自体が怪しく感じ始めた。さっきから危険な目にばかり遭うし、もう嫌になり始めた。……もう帰りたい。
「ウィンクさんが言ったんだ。あるに決まってるだろ!!」
「そのウィンクって何者なんだよ。レイメイがどう乗って話していたけど」
俺がそう言うと、エイコイはポカーンと口を開けてその場で足を止めた。
「どうした?」
「お前、レイメイを知らないのか!!」
そう言われても、
「知らん」
「なんで知らない入ろうと思えたんだよ!!」
「魔法を覚えられるなら、俺はなんでもいい」
俺がそう言うと、エイコイはふらふらとしだして、木にもたれかかる。
そう、俺は魔法が覚えられるのなら、こだわりはない。黒い何かに飲み込まれてから、謎の土地に来てしまったが、魔法が覚えられるのなら、俺は何にだってなる。
俺には魔法を覚えて……やらないといけないことがあるのだから。
しばらく呆れて何も言えずにいたエイコイだが、やっと気力を取り戻したようで木に背中をつけると、
「分かったよ。教えてあげる。レイメイはこの国、いや、この周辺の国々でNo. 1と言われる冒険者パーティだ」
「そんな凄いところだったのか!!」
「目的は世界地図を作ること。全国を旅してあらゆる土地の情報をまとめている。モンスターの蔓延る土地で、未開の世界を探索する彼らはまさに全人類の希望なんだ」
エイコイは目を輝かせて、説明を聞かせてくれる。
確かにこんな危険な動物だらけの土地を探索できる冒険者となると、数が限られるのかもしれない。冒険者のレベルがどの程度かはわからないが、あのイノシシを倒せるレベルがゾロゾロいるとも思えないし。
となると、それだけレベル高い冒険者ということは、魔法のレベルも高いはず。ならば、俺の目的の魔法も……。きっと教えてもらえるはずだ。
「ありがとうな、エイコイ。尚更やる気が出た。
俺は気合を入れてポムポム探しを再開する。しかし、何時間と森を歩き回っても、例の果実は見つからない。
「どこなんだよぉ、ポムポム!!」
俺は見つからない果実の名前を叫んで両手を上げる。すると、
「やはり苦戦してるようね。クズ」
「あんたは……」
木の影から姿を現して、出て来たのは先程剣を投げ渡してくれた美女。
「てか、誰がクズだァァ!! 剣をくれたことには感謝するが、戦えるか!! あんな化け物クマと!! せめて助けろ!!」
俺は美女に剣を向けて威嚇する。美女は腕を組むと、フンッとそっぽを向いた。
「ポムポムすら見つけられない人はクズよ。それと本当に私が助けて良かったの?」
「あぁ? 助けてくれなかったろうが!!」
俺がガミガミ怒る中、エイコイが俺の頭を叩いて黙らせる。俺は頭を叩かれて、痛みで頭を摩って大人しくする。俺が大人しくしているうちに、エイコイは美女にさっきのことを尋ねたを
「どういうこと? 僕も本心を言えば助けて欲しかった」
「もし、私が助けていたらあなた達クズは試験に落ちていたわ」
「僕達が……試験に落ちた!?」
「そうよ。他人の力を借りないとミッションも達成できないなら、私達のパーティではやっていけない。私が助けた時点で、あなた達は不合格よ」
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