村の怪物は〈噺〉を求め、哀れな少年は語る。飛び交う「蝶」の正体は……

村に監禁された怪物に、毎日〈噺〉を聞かせてやる「語り部」という仕事がある。
その「語り部」の老人が亡くなった。
しかし新しい「語り部」の到着には時間がかかる。
そこで少年が一日限りの代理を務め、怪物相手に〈噺〉を始める。
怪物の周囲には不思議な「蝶」が常に舞っている。

「マア読書感想文の課題を残したまま夏休み最終日を迎えた時みたいなモンだな。
ネタを運良く思い付けば割となんとかなる。
怪異としては割と優しい方だ。
ところでこの『蝶』はなんなんだろう?」
と思いながら続きを読んだら、かなり恐い展開が待っていた。

怪物に語る予定だった〈噺〉を忘れてしまった少年が苦し紛れに口にしたのは
「聞き手の怪物が村に監禁され〈噺〉をせがむようになるまでの顛末」の物語である。
少年にこの〈噺〉をさせるのは巧い。
語る少年と聴く怪物の〈現在〉と怪物が監禁される〈過去〉の二つの時間が同時進行し、少ない字数で実に効率良く話を伝えてくれる。
怪物の反応を盛り込むことでさらに効果的に仕上がっている。

物語の当事者である怪物は少年の物語にある「補足」をする。
その補足が実に恐ろしいから読んで欲しい。

「怪談」と呼ぶに相応しい古き良き和風ホラーの傑作である。