矜持があれば人は少し強くなれるのです

みなさま、お初にお目にかかります。蜜柑と呼ばれております。
此度はわたくし、実の名を佐倉奈津、と申しますの。
この佐倉の家に幼少より兄妹と等しく育ちましたある少年のお話を、未熟ながら三味線の音を伴に吟じとうございます。

かの少年は幼いながらたいそうな苦労と悲しい経験をしたにもかかわらず、
本人は大人も驚くほどに達観し、生活を自らの手で成そうと佐倉の家に参りました。
とても聡く、なんとも素晴らしい芸の才を持つ少年にございます。
絵筆をとればそれはいかなる巨匠といえど舌を巻きましょう。

彼のその才は果たしてどこから来るのか、
その秘密が分かった時にはもう、もう一つの災禍がこちらに手を差し伸ばしてきてしまいました。

しかし折れる心ではありません。絵師、そして芸の道を成す者には、矜持がございます。彼がひたすらに歩を進めていけたのは、この矜持と言わずしてなんでしょうか。

お手にとってみてください。少年が龍にも変わる時を。


そろそろお座敷の時間も終わりのようでございます。
幼き奈津は、熊を簡単に仕留める精悍たる御仁にときめいてしまったものですわ。

そんなことをここにいらっしゃるお客様のお耳に囁いて、そろそろ次のお座敷に参りますね。それではまた、今度は同じお話の続きで、きっとお琴と舞でお迎えしましょう。


作者様、お話は一度幕を引きましたが、わたくしいつまで佐倉奈津に留まるのをお許しいただけますでしょうか? 一度、太夫に戻りましょうか、それともお奈津にとどまりましょうか。
そんな私信を残して、悠さんがまた厄介ごとを持っていらっしゃるのを待っております。

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