第8話 気になる男の子
あれは、去年の夏のこと。
わたしの
これはジムに入会できない子供たちを対象とした体験教室みたいなもので、使用する器具は有酸素運動系のみ。
理由は、子供の頃から無理な筋トレをすると身体の健やかな成長を妨げる恐れがあるからなんだけど、ここの娘であるわたしも禁止されていた。
でもまあ、それは問題じゃなくて、その応募者の中にコウくんはいた。
小学生に混じって、中学生は彼だけだった。
だから、パパに言われてわたしも応募者のフリをして参加することにしたのだけど、初めて見たコウくんは、背の高さも相まってヒョロっとした印象。
とても身体を鍛えているようには見えず、なぜ応募したのか見当もつかないし、おまけに話しかけても『はい』としか言わないから、なんなのこの子って最初は思っていた。
けど、始まってみると、彼は凄く一生懸命。
見た目通り体力が無いから、準備運動だけで疲れてしまうみたいだけど、絶対に諦めないの。
結局、ヘロヘロになりながらも二時間の教室を最後までやり遂げ、一日目を乗り切った。
凄くない?
安全のためにパパの仲間でボディービルダーをしている人たちがサポートしてくれてたけど、その根性をすっごく褒めてた。
コウくんもその時ばかりは笑顔を見せていたから、嬉しかったんだと思う。
でも、どうしてそんなに頑張るのだろう。
わたしはその理由を知りたくて、その日の夜、パパに彼の志望動機を聞いてみたら、臆病な自分を変えたいからだって。
自分自身を知り、それを変える努力をした彼は、もう臆病ではないと思う。
わたしはそんな彼を応援したくて、残り二日の間、頑張って声を掛けたりもしたのに、相変わらず返事は『はい』だけだった。
パパも「あのくらいの年の子だと、同世代の女の子と話をするには、また別のハードルがあるからね」って言ってたから、仕方のないことなのかな。
でも、一日二時間で三日間の教室なんて、あっという間。
それ以降、彼と会うこともなく、どうしているのかなって気になっていたら、高校の入学式でコウくんを見つけて驚いた。
中学の時にはいなかったから、外部入学生なんだと思う。
わたしは嬉しさのあまり彼に近づき、声を掛けようとしたけど、残念ながら無反応。
彼はわたしのことを覚えていないのか、全く目も合わせてくれず、とても悲しかった。
そりゃ、一方的に協力しようとしていただけだけど、あの三日間のことをわたしだけが覚えているって、なんかモヤモヤする。
だから、何か切っ掛けはないかと思って、何度も隣のクラスを覗きにいった。
でも、彼はいつも一人だった。
心配になって、そのクラスにいる友達に話を聞いてみたら、「彼って、話しかけても、ロクに返事も出来ないのよ。だから、ああなっているわけ」だって。
自分を変えたいって目標を持っていたコウくんが、なんでそんなことになっているの?
でも、これは黙ってられない。
わたしは、彼を救うべくパパに相談した。
「なら、ミオリはどうしたい?」
「わたしはコウくんが変わりたいって知ってるから、手助けしたい」
「そうか……。じゃあ、巻き込んでしまえばいいよ」
えっ? それって、どういう事?
巻き込むって、何をするの?
「わからないかい?」
「うん」
全く。
「ミオリはメグミくんたちの空手同好会に入るつもりだろう。だったら、彼も誘ってあげればいいんだよ」
あっ……。
「でも、コウくんって、空手をするタイプじゃないよ」
「もちろん、そうだろうね。それでも強引に誘ってあげれば、彼は喜ぶと思うな。あんな感じだけと、芯は強そうだからね」
「たしかに」
「それに、メグミくんとカリナくんは、あれで面倒見が良いからね。ミオリ一人が頑張らなくても、どうにかしてくれると思うよ」
「うん、そうかも」
先輩たちは、確かに面倒見が良い。
ただ、ちょっと変わり者なのが心配だけど。
「ふふふ、ああいう子はね。誰かが変えてくれるのを待ってたりするものなんだ。でも、ただ待っていたって何も変わらないだろう。けどね、彼はミオリと出会った。夏に起こしたあの行動が、実を結んだんだと思うよ」
「うん、だったら嬉しいな」
こうしてわたしはパパに背中を押してもらい、行動に移した。
最初は戸惑っていたコウくんも、今ではすっかり馴染んで、いろいろと話してくれるようになったし。
良かったんだよね、これで。
おしまい。
――――――――――――――――――――
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
これで、このお話は完結です。
楽しんでいただけたでしょうか?
臆病でボッチな主人公コウキと、脳筋で暴走気味なヒロインのミオリ。
今後、二人の関係はどうなっていくのか。
それは妄想だけにしておきます。
臆病でボッチだった僕が、部員勧誘に来た空手部の女子に騙されて入部したその後 かわなお @naokawa
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます