第7話 痛いけど……

 あれから、どれくらい時間が経ったのだろう。

 確か、僕はミオリさんのジャーマンスープレックスを受けて、気を失った気が……。


 でも、頭の下にあるこの柔らかい物はなんだ? 

 サワサワ。


「もう、コウくん。くすぐったいよ」


 えっ……。


「でも、目が覚めたみたいね」


「ミオリさん?」


 って、顔、近っ!

 なんで、こんな近くにミオリさんの顔があるの?


「フフフ、こんな可愛い子にひざ枕してもらえるなんて、キミは幸せ者だぞ」


 ひ、ひざ枕!? マジ……だよね。


 それじゃあ、僕の触っていたとこって、彼女のフトモモなの?

 怒っていないみたいだし、よかったのかな。


 でも、ミオリさん。

 自分で『こんな可愛い子』って、言っちゃうんだ。

 間違ってはいないけど、自信があるって羨ましい。


 僕なんか、自分を卑下する言葉しか浮かんでこないし、どうして彼女が優しく接してくれるのか、それさえも悲観的に考えてしまって、自分が嫌になる。


 だから、そう。


 いつまでもミオリさんにこんな事させてちゃダメだって思い、起き上がろうとしたけど……、彼女に押さえつけられた。


「こらっ、まだダメだよ」


 確かに少し眩暈がしたけど、でもいいの?


「わたしのせいで倒れたんだから、もう暫くはこのままでいなさい。いいね」


「はい……」


 どうやら彼女も責任を感じているらしく、僕を動かす気は無いようだ。


「うん、よろしい。それでね、コウくん、ごめんなさい。わたし、マットがあるから大丈夫かと思って。でもメグミ先輩にすっごく怒られたよ」


 だよね。 


 いくらマットがあるからって、ジャーマンスープレックスは無いよ。

 彼女は手加減していたのだろうけど、一歩間違えたら大怪我だ。


 僕が失神したのもって、あれ……、これってけっこう重大だよね。


 僕がそこに気づいた時、彼女の口からとんでもない爆弾が投下された。


「だからね、コウくん。キミにはわたしを好きなようにできる権利があるんだよ」


 なに?


いうことを聞くから、わたしに命じて欲しいの」


 えっ……、ええーーっ、なんて、簡単に女の子が言っちゃダメだよー。

 僕だって男の子だよ。エッチなお願いをしちゃうかもしれないんだよ……しないけど。


 そんな葛藤もあったけど、僕から彼女にできるお願いは一つだ。


「だったら、もう少しこのままで、いさせて」


 もしかしたら、これだってエッチなお願いに入るかもしれないけど、ひざ枕って気持ちいい。

 それに、下から見上げるミオリさんの顔もキレイで…………って、ぼく何考えているんだろう。


 でも、そんな僕を見つめるミオリさんは驚いた様子で、こんなことを言ってきた。


「えっ、そんなことでいいの? このわたしの豊かな胸をワシワシするとか、張りのあるお尻を撫で回すとかしたいって言われても、わたしは拒まなかったよ」


 うそっ……マジで?


「う~ん……でも、それがコウくんか。メグミ先輩の言葉通りだ」


 ホッ……、だよね。

 それより、部長は何を言ったんだ?

 気になる……けど、今はもっと緊急事態。


「でも、やり過ぎたのは、わたしだし……、じゃあ」


 ミオリさんはそういうなり、その可愛らしい顔を徐々に僕へ近づけて、彼女の柔らかい唇が僕の左頬に軽く『チュッ』と、触れる。


 え、え、え、ちょっと、なにしてんの?


 僕は驚きと困惑でパニックになりながらも、彼女の唇が触れた左頬へ手を当てる。

 そして、今起きた出来事を思い出し、顔が熱くなるのを感じた。


 ミオリさんを見ると、彼女もまた同じであるよう。

 自分からしといて、お湯が沸きそうなくらいに顔が赤く沸騰していた。


「ミオリさん?」


「ふぇっ……、わ、わたし……、またやり過ぎちゃった?」


「くっ、くくく、あはは」


「もう、なによ」


「ごめんごめん、ミオリさんを見たら、ちょっと冷静になれたよ」


 それは嘘じゃない。


 だって、彼女の発想が、斜め上をいっていたから。


 でも、嫌っている相手に、こんなことしないよね。


 彼女にしても、先輩たちにしても、きっと、こんな僕を受け入れてくれている。


 それだけは、わかるんだ。


 だって、ねえ……。


「ちょっと、今いいところなんだから、待ちなさい」


「いやだ、ミオリばかりズルい。私もコウキくんにチューする」


「もう、なに言ってんのよ! あなたのは愛犬カインくんの代わりでしょう」


「でも、いまは愛犬コウキくん」


「違うから。もう忘れなさいって」


「やだ、うちへ連れて帰る」


 ハハハ……、ブレないなぁ。


 でも、最初は美少女しかいない空手部に入るって、どうなることかと思ったけど、僕はもうここが自分の居場所なんじゃないかって思えるんだよね。


 痛いけど……。



 

 おしまい。






―――――――――――――――――――――――


 これで、本編は終了です。


 お読みいただきまして、ありがとうございました。


 次回、ミオリ視点のお話『気になる男の子』で二人の関係が明らかに。

 

 あと一話ですので、最後までお付き合いいただけたらと思います。


 



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