第6話 三人一緒で
「ねえ、八重波くん。今日はあたしたちの誰を選ぶの?」
きた。
「あ、は、はい……えっと、選べないので、三人一緒でいいです……」
いや、もうこれしか無くない?
「おおっ、コウくんの勇者」
違います。
「ふ~ん、やっぱりそうなるのね。でも、コウキくんが決めたんなら我慢するわ」
ありがとうございます。
「うん、八重波くんがいいなら、そうしましょう。あたし、カリナ、ミオリの順でするからね」
「は、はい……おねがいします」
もう、お気づきいただけただろうか。
僕はあの日以降、少しずつ会話をするようになっていた。
というのも、どうやら先輩たち、僕を追い込むことで、自然と声を出させようと考えたらしい。
たぶん、頭で考えるよりも先にってことだろうけど、それが見事に正解。
先輩たちを見ていると、相手の反応を怖がっている自分が馬鹿らしくなるんだよね。
特に、カリナ先輩が……。
で、こうなった。
昨日、彼女たちは痴漢撃退法なる
最初から三人ともする予定なら、何故わざわざ揉めるのか。
それも全て僕のためってなら、ここで受けなきゃ男じゃない。
でも、変なところを触るわけにはいかないから、どうするつもりだろう。
「それじゃあ、八重波くん。まずは背後からあたしを羽交い絞めにしてくれる?」
……ん、羽交い絞め?
「あ、ごめん、ごめん。わからないか。あたしの
「あ、はい。やってみます」
女性にそういう事をするのって抵抗あるけど、命令なら仕方がない。
入部したての僕だったら、恐れ多くて彼女たちの身体に触れることなんてできなかったけど、もう慣れた。
この人たちって、言い出したら聞かないし、結局やるしかないなら迷うだけムダ。
僕は指示通りメグミ先輩の背後に回ると羽交い絞めに。
でも、そうすると彼女からふんわりあまい香りが漂ってきて、これはシャンプーだろうか? いい匂い。
なんて邪なことを考えていると……。
「あ、うん、そうそう。いい感じ。じゃあ、行くよ。さあ、歯を食いしばって」
え、え、え、歯を食いしばるって、寸止めじゃないの?
そんな僕の心の声などお構いなしに、メグミ先輩は両足を前に振り上げ、バランスを崩そうとする。
僕も負けじと踏ん張るが、軟弱なこの筋力で支えられるはずもなく前へとバランスを崩すと、絞めていた腕が外れてしまった。
すると、自由の身となったメグミ先輩はお尻で着地し、すぐさまクルリと回転。
その勢いに任せて立ち上がり、僕の顔面へと蹴りを放つ。
「ハアッ!」
「ヒイッ」
その恐怖のあまり僕は悲鳴をあげるが、見事に顔面直前でストップ。
事なきを得た。
怖っ! マジで怖っ。
けど、この地獄はまだまだ終わらない。
僕の回復(主に精神)を待って、今度はカリナ先輩の番だ。
彼女のことだから、どんなことを指定してくるかと身構えていたら、案外普通だった。
「じゃあ、コウキくん。私の左手を掴んでくれる?」
「は、はい……」
「いくよ。しっかり構えていてね」
えっ?
僕はカリナ先輩の指示通り、彼女の左手を掴んでいた。
「テヤッ!」
「イテテテテテテッ」
いや、今何が起きた?
僕の目の前でカリナ先輩が腕を潜るように回転すると、いつの間にか僕の腕は自分の背後にあって……痛いけど、すごい。
もし、いじめにあったら使えるかもしれないし、僕もやってみたい。
そうして珍しく僕がカリナ先輩をキラキラと尊敬のまなざしで見つめていると、彼女の態度は豹変。
「ああ、コウキくん大丈夫でちゅか。いたかったでちゅよね。イタいのイタいのとんでけ~」
いや、これ何のプレイ。
赤ちゃんプレイとは違う気がするし、もしかして、ペット飼っている人特有の……。
「コホンコホン。今の無し」
「いや、無理だし」
とまあ、この辺りまでは想定内。
問題なのはミオリさんだ。
「じゃあじゃあ、次は私ね」
いつもと違い、コッソリではなく許可のもと。気合の入るのもわかるが、嫌な予感しかしない。
「う〜ん、どうしようかな」
そう悩んだ様子で、可愛く首を傾げるミオリさん。
すると、部長も嫌な感じがしたのだろうか。
「ミオリはまだ素人だから、マットの上でやろうか」
と、指示があった。
それを、僕たちは了承。
安全のためマットを敷いてって、あれ? こっちのほうがヤバくない。
ますます嫌な予感が募るも、もう手遅れ。
「じゃあ、私の背後からお腹辺りに手を回してくれる」
僕は言われた通りにミオリさんの背後に回り、お腹へ手をって、いいのかな?
流石にこの格好はまずいんじゃあ、なんて思ったけど、そんな油断は禁物。
僕の締めが甘いと気づいたミオリさんは、両腕をその隙間にねじりこみ、その場でくるりと回り、僕の腕から抜け出すと……。
いつのまにか僕がバックをとられ、腰辺りには彼女の腕が……。
ヤバイ……。
これを予感的中と呼ばずして、なんと言おう。
「ミオリ、ちょっと待って!」
そんな声を掛ける部長の声も聞こえたが、もう体勢に入ったミオリさんは止まらない。
「せい、の。トリャア」
の声で、僕の身体は宙に浮かび……。
ダンッ!
ゴフッ……。
「よっしゃ! ジャーマン成功」
僕は薄れゆく意識の中で、そんな声を聴いたような気がした。
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