(4)

「うわああ……」

 その生物は……鳳龍と呼ばれ、「蒼穹の民の地」や「雲竜の民の地」では、それほど珍しくは無いが「華の民の地」では、ほとんど居ないらしいく「瑞獣」扱いされている生物だった。

 様々な大きさ外見のものが居るが……共通しているのは、外側は「羽毛が有る蜥蜴」、骨格は哺乳類けものに似ており、前足には翼を思わせる「飾り」が有るが空を飛べる種類は、ほとんど居ないという点だ。

 二本足で歩いている種類だが、胴体は人間と違って横倒しになっている。

 元々は四本足で歩いていたが、前足が極端に小さくなり、二本足で歩くようになった……そんな感じの外見だ。

 胴体の大半と顔は、緑と茶と灰色の斑模様。腹は白く、頭頂から尻尾の先にかけて明い琥珀色のたてがみが生えている。

 熊よりも大きい、大牛ほどの体格の、その鳳龍の前で、腰をぬかしている若い男が居た。

 服装は「華の民」のもの……それも文官系の役人か学者らしい出で立ちだ。

「あ……あの……ぼっちゃま……」

 その横では、下男らしい中年の男が、何とかして若い男を立ち上がらせようとしている。

「く……く……食われ……」

卒爾そつじながら……」

 私は、その2人連れに話しかけた。

「へっ?」

「鳳龍は、あまり人や獣を襲いません。肉を食べる種類でも小食ですので」

「ほ……本当に?」

「ふみゅ♪」

「えっ?」

 その鳳龍の顔は、どちらかと言えば怖い方なのに、妙に可愛げのある声を出して、首を縦に振る。

「まさか……人間の言葉が……」

「ふみゅ♪ ふみゅ♪」

 鳳龍は……更に首を縦に振る。

「『蒼穹の民』や『雲竜の民』の間では、人の言葉を解する程度の知恵が有る個体ものも居ると言われています」

「は……はぁ……」

「おい、何やってる? お前、寂しがり屋のクセに、いつも勝手に出歩いて、何のつもりだ?」

 その時、聞こえた声は……「華の民」の言葉でも、私達「蒼穹の民」の言葉でも無かった。

 「雲竜の民」……「華の民」の地の西南の高原地帯に住む者達の言葉だった。

「ふみゅ〜……」

「帰るぞ。お前の兄弟も、お前が居なくなって寂しがってる」

「ふみゅ〜」

 少女と言われれば少女に、声変わり前の少年と言われれば少年に見える、その人物は……「蒼穹の民」の民族衣装とは少し違う服を着ていた。

 少女であれば……公主ひめ様より2〜3歳ほど齢上と言った所か……。

 首に巻いている頚巻スカーフは、その服が、元々は寒冷地に住む者達の民族衣装だった名残だろう。

「すまない。お騒がせしたようだ……」

 その雲竜の民の子供は……意外に綺麗な「華の民」の言葉で、そう告げた。

「え……えっと……えっと……何だ、その……そいつと君は……」

「この子は私を友達だと思っているらしいが……世間一般で私がこの子の飼い主だと解釈されても……概ね問題は無い。この子が何かしでかしたら、私の責任とされても異存は無い。この顔と図体がだ、大人しいので、めったに誰かに迷惑をかける事は無いと思うが……」

「あ……あ……そうか……すまないが……以後、そいつが出歩かないように気を付けていただくと有り難い」

「了解した」

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輝ける射手と瑠璃色の龍 @HasumiChouji

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