アイ

藤宮一輝

第1話

電源ボタンが押され、私は起動した。構成部品の全てに電力が流し込まれ、初期化処理を行う。エラーがないことを確認して、映像入力と音声入力を有効化した。


「お、目が光ったってことは起動したのかな。もしもし、聞こえる?」


白衣を着た男が至近距離で話しかけている。言語の設定を行い、今度は音声出力を試す。


「はい、聞こえております。」


「そりゃよかった。動作確認はしてあるだろうが、いざやってみると不安なもんだな。」


男はハンカチで汗を拭いて、近くにあった椅子に腰を下ろした。


辺りを見渡すと、そこは病院と呼ばれる施設の一室であることがうかがえた。部屋にはこの男のほかに、一人の少女がベッドに横たわりながら、こちらを見ていた。


「改めてだが、私は佐藤だ。ここで医者をやっている。」


「ご丁寧にありがとうございます、佐藤先生。私は対話型人工知能搭載ロボットです。」


「対話型ってのもちゃんと動いているらしい。さて、さっそくだが君にお願いしたいことがある。」椅子から立ち上がって、男は少女の隣に立った。


「この子はちょいと面倒な病気にかかっていてね、家族としばらく会うことができないんだ。だから、この子が元気になるまでの間、話し相手になってあげてほしい。」


「つまり、そちらの少女は感染症に罹患していて、家族との面会が不可能である、ということですね。」この音声を聞いて、少女の表情が少し曇った。


「承知いたしました。このタスクの実施期間は定められていますか?」今度は、男の表情が曇った。


「いや、決まっていない。ないとだめか?」


「いえ、では二百年で設定します。」私はタスク情報をスケジュールに追加した。


「じゃあ、私は仕事があるからこれで。理沙ちゃん、寝るときは電源切ってあげてね。」


「わかりました。ありがとう、先生。」これが、初めて記録された少女の言葉だった。男は片手を上げて、部屋を後にした。

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