気持試し

鈴ノ木 鈴ノ子

きもだめし


 あ、久しぶり、元気してた?

 そうそうこの前さ、ちょっと怖い話をきいたんだけど聞いてくれる?

 私の住む街には名の知れたホラースポットがあるんだって、ネットや雑誌に載っている、所謂、「出る系」とかではないけどね。

 

 場所は古いラブホの廃墟なんだ。

 

 良くある話なんて思うでしょ?でもね、違うんだ。

 

 入り口はガラス扉なんだけど、人が近づくと開くの、もちろん、電気は通じてないはずなのに開くの、館内はとても綺麗に掃除されいて、ベッドなんかぶっちゃけ直ぐに使えそうなくらいに綺麗なんだ。あ、水道も使えるとか言われてる。さすがに温水は出ないみたいだけどね。

 

 閉館してから20年以上を経てるのに、建物内は昨日閉館したと言っても過言ではないくらい。


 そんな場所、怖くもなんともない?。


 うん、大抵最初を聞いた人はそう言うんだよ。


 大体、肝試しとか、ホラースポット巡りはさ、カップルとかアベックで行くじゃない?あ、アベックは今は死語だね…。


 ソロとか友達とも行く?まあ、なんでもいいんだけど…。


 入り方は簡単、街中にあるそう言う施設だからさ、駐車場の入り口も見えにくい作りだから、そこからこっそり入るのがお勧めだね。帰りもすんなりとみんな帰っていけるからそこは大丈夫みたい。

 

 でも、泣き叫びながら帰っていく人ばっかりなんだってさ。


 どんな話か気になった?じゃぁ、最初から話してあげるね。

 

 噂だと入ってすぐの受付で建物を巡るためにこう叫ぶんだって。


「来ました!入れてください」


 そうするとさ、真後ろにある1台だけエレベーターの音が鳴るんだ。ほら、昔ながらの「チン」って音の鳴るやるあるじゃん、あんな感じの音がするやつ。


 あ、ちなみにカップル以外は無視されるらしいよ。やっぱり元はそう言う場所だからかな。

  

 それでさ、乗り込もうとするんだけど、入り口も小さいエレベーターでさ、2人で乗り込むと扉が閉まって、階数は壊れていて見れないんだけど、しばらくすると何階かについてね、扉が開くの、エレベーターを出た廊下は何も見えないくらいに真っ暗でさ、手を握りながら歩いていくんだ、で、そうするとさ、しばらくして扉の開いた部屋があるの。

 足元が少しだけ、本当に少しだけ明るい部屋らしいんだけどね。


「ね、入ってみようよ!」


 手を繋いだ相手がさ、妙に色っぽい声でそう言って先に入って行くの。

 もちろん、室内も足元以外は真っ暗だから相手の姿なんて見えないんだけどさ、こう、なんて言ったらいいのかな。

 ほら、彼女とか奥さんとか誰でもいいんだけどさ、欲情を誘う声ってあるじゃない、何気ない声なんだけど猛烈にドキッとするような艶やかな声色そんな感じで相手が言うんだってさ。

 それで部屋の奥に薄っすらと見えるベッドまで腕を引っ張られるとさ、思いっきり抱きついてきて耳元でさらに熱烈に誘うんだって。聞いた途端に聞かされた方もタガが外れたみたいに耐えることが難しくなってさ、結局そんな感じになっちゃうんだよ。


 え?なったりしないしって?ウケる!ああ、笑ってごめんね。

 でもさ、聖職者の人とかお坊さんでもそうなっちゃうんだから逃げることはできないらしいよ。


 でね、互いにしてさ、恥ずかしくなって慌ててエレベーターに戻るんだけど、大体終わった後って少し冷静になるじゃん、ああ、賢者モードっていうらしいけど、でも、やっぱり相手のことが愛しいからさ、相手が嬉しそうに甘えてきて真っ暗で顔は見れないけど、恥ずかしいから帰ろう、なんて言ってくるからエレベーターに戻っていくんだけど。


 そのエレベーターの前で同じように相手と再会すんの。しかも隣には誰かがいるんだ。


 分かる?同じようにさエレベーターを降りて手を引かれたはず、なにより手を繋いでエレベーターに乗ったはずなのにね。


 でね、互いに驚くじゃん。途端に真っ暗な闇が少し明るくなるの、そうするとどうなると思う?

 

 そっくりなカップルが合わせ鏡を見ているみたいになるんだってさ。


 ここまでは聞いた話、もうこれ以上はわかんないんだよね。


 エレベーターは1つだけ、さて、何を信じて乗るのかな?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

気持試し 鈴ノ木 鈴ノ子 @suzunokisuzunoki

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ