2-18 アリバイと死者の声
「凛汰、何言ってんの? 当たり前じゃん! 帆乃花が、僕を呼んだんだよ!」
梗介は笑い飛ばしたが、次第に
「その前に、さっきの凛汰の推理に反論させてよ。言われっ放しはムカつくからさ」
議題を引き戻す梗介は、まだ薄暗い笑みの仮面を外さない。凛汰が「いいぜ。言ってみろよ」と
「あははっ、じゃあ僕の手番だね。さっき凛汰は、僕が『神域に
梗介は、足元の
「
「凛汰ぁ、自分の
「そうだな。俺は、確かにそう証言したぜ」
「ほら! じゃあやっぱり、凛汰の推理は
「お前にアリバイがあったとしても、共犯者にはアリバイなんてないだろ?」
打てば響くように告げた反論が、場の空気を凍りつかせた。大柴が「共犯者っ?」と声を上げると、美月が不安げに周囲を見渡してから、困惑の目を凛汰に向ける。
「梗介くんには、共犯者がいるの? もしかして、私たちの中に……?」
「美月の言葉は、半分外れで、半分当たりってところだろうな」
「半分? どういうこと?」
「蛇ノ目帆乃花殺しに関して言えば、蛇ノ目梗介の共犯者は、海棠浅葱でもなければ大柴
「……僕さ、凛汰のそういう
「お前の母親だろ?」
殺人犯の望み通りに、凛汰は二人目の犯罪者を
「帆乃花の遺体発見時に、村人たちの集団の一番端で、
「はあぁ? あははははっ、凛汰って馬鹿なの? 凛汰がいま言ったように、僕の母親は足が悪いんだよ? 杖をついてる母さんには、神域に転がっていた帆乃花の遺体を始末するなんて芸当、不可能だよ!」
「本当に、不可能か?」
「もちろんだよ! だって、杖があってもゆっくりしか歩けないし、
「まず、美月と浅葱さんに確認するぜ。梗介の母親は、本当に足が悪いのか?」
「うん……歩行はつらそうだよ。あんまり表情を見せない人だし、確かなことは分からないけど、私は演技じゃないと思う」
そろりと答えた美月は、浅葱をちらと振り向いている。視線を受けた浅葱は、先ほど見せた動揺の
「
「梗介の母親は、千草って名前なんだな。あんたとは、どういう間柄だ?」
「千草は、私より四つ年下の幼馴染だ。千草が蛇ノ目家に
「あのー、凛汰くん。僕には訊かなくていいのかな?」
大柴が口を挟んできたが、無視した凛汰は「議論に戻るぜ」と短く言って、冷ややかにこちらを見ている梗介と
「お前の母親が、足に
「だから、さっきからそう言ってるじゃん。帆乃花の遺体を運ぶなんて、母さんには無理に決まってるよ!」
「ああ。短時間では、無理だろうな。でも、じゅうぶんな時間さえあれば、可能だ」
凛汰は、先ほどの
「帆乃花の遺体が傷んでもいいなら、なりふり構わず鎮守の森まで引き
左手の人差し指を
「あのとき、楚羅さんの安否を真っ先に気にしたのは、凛汰じゃん! 浅葱さんに『楚羅さんは、今、どこにいますか』って訊いてたよねっ? 神域から全員で海棠家に移動したのは、偶然の流れだよ!」
「俺が言わなかったら、お前が言い出す予定だったんだろ? 神域を無人にする言い訳を、適当にでっち上げればいいだけだ。現に、海棠家で楚羅さんの
左手を下ろした凛汰は、重い
「お前は、被害者の子どもと加害者の子どもの、両方の母親である家族に、双子の姉殺しというテメェの犯罪の
美月が、青い顔色で絶句している。少しふらついたのか、足元の
「ははっ……なんで、断定しちゃうかなぁ。仮に僕が、凛汰が言うような殺人犯だとして、人殺しの子どもの母親が、犯罪の
「俺には、あの母親が、マトモな神経をしているとは思えない」
断定すると、梗介の笑みが
「帆乃花の遺体を見つけたときに、娘が『蛇ノ目家の
梗介の目が、
「逃げるなよ、梗介。お前は、そんなに怖いのか? 俺が『帆乃花の声』について、ここで真相を話すのが」
「別に、逃げてないけど? そんなに推理自慢がしたいなら、聞いてあげるよ。凛汰が共犯者って決めつけてる母さん
「その提案は、時間
「そう思いたいなら、勝手に思えば? こういうお喋りも、時間の無駄じゃない?」
ニタリと
「美月の
「あはははっ、録音? 凛汰ってば、さっきの女装発言に続いて、また変なことを言い出したね。あのときの帆乃花の声は
「感情的に否定すれば、誤魔化せると思ってるのか? ガキの
「凛汰だって、歳は一つしか違わないじゃん! そもそも、ここは
「……あるよ。梗介くん」
美月が、小声で言った。顔色は相変わらず悪かったが、瞳に
「さっき凛汰が言ったことを、思い出して。生前の
言葉を切った美月の台詞を、凛汰は静かに引き取った。
「――『取材道具のボイスレコーダーを
梗介は、表情を変えなかった。代わりに、反応を見せたのは大柴だった。「ボイスレコーダー?」と
「なんで、そんな物が村に? 取材は海棠家が許可したけど、音声や映像の記録はNGだって、聞かされてたんだけど……」
「録音機器の使用禁止は、本人も承知していたぜ。『村の取材では使えない持ち物だけど、大事な仕事道具だから、手元にないと困る』って言ってたからな。禁じられた物を村に持ち込んだ理由は、よく使う仕事道具を携帯していただけなのか、それとも
「そ、そうなんだ……そのボイスレコーダーの特徴を、凛汰くんは訊いてるかい?」
大柴が、
「ボイスレコーダーの特徴は、『録音と再生機能がついた、手のひらサイズの機器』だそうだ。――梗介。お前も知ってるんだろ?」
凛汰は、ひたと梗介を見る。そして、犯人が仕組んだカラクリを言い当てた。
「三隅さんのボイスレコーダーを
憑坐さまの仰せのままに 一初ゆずこ @yuzuko
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