第3話 男子
アンドロイドの支配下にある話はシュワちゃんの出てくるあの映画しか思い浮かばない。あの映画では人工知能スカイネットは人類絶滅を仕掛けてくるんだった。そのために核戦争が起こるように仕向けたりして。
人類は滅びたほうが地球にはいいのかもしれない。でも核戦争は地球は受け入れないだろうと思う。スカイネットには『はだしのゲン』を読ませてあげたい。
またわき道にそれた。妄想体質なのでもうあきらめている。夢からはもう冷めている。うつらうつらしながらとりとめもなく考えている。人工知能の名前はなぜかガイアなんだ。ギリシア神話の大地の女神だったかな。よく知らない。そんなSFを昔読んだのかもしれない。
ディストピアに住んでいるわりには、人類は平和そうだった。私の夢の中だけど。私は今、お父さんに付いて北海道に移住するかどうか迷っている。木の洞にきてここで一夜を過ごしているのも、夢のお告げを聞きたいからだったと分かった。自分の行動の動機が後からわかるのは良くある。
二つの夢からどちらかを選べと言っているんだ。最初の夢の私はこの木より大きい木の中にとらわれていた。多分北海道でも引きこもるんだ。そして引きこもりながらあの男に会う。そしてあのクリスタルシティーで生活する。私的にはそれもいいと思う。
二つ目の夢はディストピアなんだから、ここに残ったら奴隷になるぞと警告してくれているんだと思う。自分は奴隷でも構わないんだけど。ただ奴隷って孤独ではいられないんだよね。夢の中でも私は働いていたし。奴隷自体は構わないけど、人間関係が嫌かな。しかもなぜか歯を作っていた。絶対ごめんだ。
ただこっちの夢にも捨てきれない部分があって、それは私が笑顔を見せたことなんだ。自分の笑顔をみて自分が一番びっくりしている。妄想の中の私は凌辱される苦しみに顔をゆがめて、同時に快楽に堕ちていく屈辱に泣いているんだよね。
久しぶりに健全な自分の顔を見た。普通の顔だった。美人ではないが、もしかしたら私のことを清純な女性と思い込んだ男と、幸せな家庭を作ってしまいそうな顔だった。妄想の中で私が人妻になる設定は一切なかったから、けっこう新鮮だった。
男の声が聞こえている。びくっとして完全に目が覚めた。まずおびえた。ここは神社の境内で、私有地に違いない。無断で御神木に侵入し、あろうことかちびって聖地を汚している。
どんな罰を受けても仕方がない。棒を持った神官たちに取り囲まれているかもしれない。それとも未来から来たアンドロイドが私を殺しに来た?もしかしてあの夢を見て私は将来人類の指導者になるのかもしれない。
おびえながら頭を出して外を見ると高校生くらいの男の子が、自転車に乗ってこちらを見ていた。顔面偏差値はさほど高くない。優しそうな草食系男子だ。
「すみません。無断で入りこんで」
まず私は謝る。無難に謝れたことで安心する。私は並列志向スキルを持っているので、頭の半分でどんな妄想をしていようとも、もう半分で普通でいられる。そのせいで人には余計に誤解されるのね。
「本当にいたんだ。宇宙人」
慌てて宇宙人型のシュラフの帽子を取る。人型シュラフを着たままだった。怪しい宇宙人に見えるやつ。妄想の中ではファーストコンタクトのシーンが始まるが、妄想を無視して社会に生きる普通のほうの私を頑張らせる。寝起きのすっぴんだがどうしようもない。
「すぐ出ます」
男の子の前に立つ。シュラフは脱いだ。だが、罪を犯したのだから逃げるわけにもいかない。私縛られるか、手錠されるかも。鞭で打たれる?もちろんそんなことが起きないとはわかっている。がんばれ普通の私。できれば微笑め。高校生男子なんてそんなものよ。そして胸の谷間を見せたら問題は解決する。いや問題は谷間などないことだが。
「お母さんが宿泊代もらって来いって」
「ここ有料だったんですね」
「学割だったら5千円。そのかわり一生有効だって」
「一生ですか?」
一生ここに住んで5千円は安い。おいしい湧水を知っているし、塩握りの旨いコンビニも近くにある。トイレはその辺で済ませればいいし、お風呂は一生入らなくても大丈夫。ここで老婆になる私。
「こんな木の洞に泊まる人、あなたしかいないから。それにこの場所自体普通の人が来れない呪いのようなものかかっているらしいよ」
「確かに私以外で木の洞に泊まる人いないかも。でもそうですけど、一生泊まっていいんですか」
「お金払った方が気兼ねなく泊まれるからって、お母さんが。ただ条件が一つあって、お照様という人形には触らないでって」
「あの私がここにいるってお母さんどうしてわかったのかしら」
「詳しいこと知りたかったら直接聞いて、ライン教えるから」
「いいえそれはいいんです。実は学校やめていて、学割の資格ないです。それに今5千円すら持っていません。コンビニでお金下ろすまで待ってもらえますか」
「5千円でいいですよ。山降りたらコンビニあるしATMあるから。僕の自転車の後についてきてもらえますか。僕は長谷部隆です」
「私、坂出一花です。五分待ってください」
自分の声が少し弾んでいる。
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