第4話 リアルすぎて笑うわよ

 自転車とバイクで連れ立ってコンビニに向かう。私はアニメを思い出している。好きな男の子と帰る方向が同じで、いつも学校帰りバイクでコンビニに寄る。私はロケット発射基地 のある島のサーフィン少女。男の子は東京からやってきた子だ。 


 ATMで6千円下ろした。長谷部隆はイートインで待っている。コーヒーでいいか聞こうとしたら、もう二人分コーヒーを買っていた。コーヒー第100円は体で払う。そう言いそうになって切り替える。


「ごめん私がコーヒー奢ろうと思っていた」


 手錠もされていないし、縛られてもいない。相手は一般人である。初対面の女の子にコーヒーくらいおごるさ。ナンパではない。そんな価値のある女じゃないし。それ以上に不審な女だ。木の洞に泊まっている時点で通報されてもしかたがない。この男のお母さんはアナキストに違いない。警察が嫌いなんだ。


「高校卒業したくないですか。資格として」


  お説教するつもり?なんかがっかりだった。コーヒー代の代わりに体を差し出せと言ってもらいたかった。それとも私から言い出すしかないか。


「いろいろあって私には無理でした」


 隆君にはわからない嫌なことがいっぱいあったんだ。しかもみんな私が悪いのね。他人が悪いなら逃げようはあるけれど、自分が原因だと逃げるのは難しくなる。


「お母さん、高校の先生なんだ。普通の高校じゃないけれど」


 魔女かと思ったらまさかの先生か。普通の高校じゃないって、まさか魔法学校?


「先生なんですか。私、先生怖くて話できないんですよね」


「怖いの先生だけ?」


「いえ、みんな怖くて、私ほとんど口きかないで学校行ってました」


 お父さんが心配していろんな病院へ行った。でも精神科だけは行かないの。私はそれが不思議だった。私に必要なのは精神科の医者なのに。それでも病院通いも無駄じゃなかった。心療内科のある医者が言ってくれたことだけが私を支えている。多重人格かもしれないと訴える私に、いろんな人格を自由に移動できているうちは病気じゃないと言ってくれた。自由に移動できなくなって、別人格に捕まって困ったら診てあげるといわれた。


「僕も。でも僕でも行ける高校があって、お母さんもそこの先生なんだ」


 この子も口のきけない子だったの?この子の寝癖を直してあげたくなった。もしかして私リアルな男に惚れた?話している内容はどうでもいいの。人生で最も長く男の子と話した。こういう普通のことが私に欠けている。だからデートしているつもりになった。馬鹿だということはわかっている。乳首が敏感になっているのがわかる。


「お母さん、霊能者かと思いました。私があそこにいるの分かっているなんて」


 ホグワーツだったかな。あの学校。


「そう言えば夢の内容、誰にも言っちゃいけないって言われていたんだけど。お母さんに」


 霊能者だ。私が見た夢の内容まで分かられている。ここまでばれているなら逆に頼りたくなる。もう騙されてもいい。むしろ騙されて自分を放棄したい。あなたの奴隷にしてください。そして私のすべきことを教えてほしい。ここに残るべき。それとも北海道へ行くべき。帯広っていう町の近く。中島みゆきが行っていた高校がある。そこへ行けば私も失恋ができる。それすごい贅沢だよ。私には思い出すらない。


「話していません。長谷部隆君に寝ているところ起こされて、今に至るなので」


 長谷部隆はもう電話していた。この人確認しないでコーヒー頼んでいたし、絶対女子にもてないタイプだ。ちゃんと相手の意思を確認してから何でもしてほしい。電話の相手はお母さんらしいことが話の内容からわかる。運命というより、私はもう宿命の罠にとらえらえた。逃げられないと観念した。いやすがる。この細い糸に。


「お母さん」と隆君からスマホを渡された。


 緊張する。相手は先生で、霊能者だ。なんというべきか。奴隷になるならいくらで私は買ってもらえるの?


「あのう、私、すいませんでした。今、お金払いました」


「夢のこと誰にも話していないわね。間違った人に話すと人生狂うからね。良く聞いて、二つの夢はあなたの未来を示しているの。あなたはどちらを選んでもいい。美しい方でも、リアルな方でもね」


 やっぱりわかられている。奴隷堕ち決定だ。


「どうして私の見た夢わかるんですか」


「説明は、もしまた会えたらするわ。リアルの方の夢のあなたの笑顔きれいだったわ。そっちに進めば私に会える。ただ会うだけじゃなくて、深い縁になるかもしれないわね。美しい夢は貴重な夢だけど、そっちの世界であなたに笑顔があるかは分からない」


「後で見たほうの夢って私がアンドロイドの歯を作っている方ですか。奴隷にされて」


「あれは歯科技工士が入れ歯作っているという夢で、リアルすぎて笑うわよ。奴隷じゃないわよ。社会や職場のルールに従わなければならないけど、強制されてはいない。笑ってしまうぐらい平凡な生き方だけど」


「どちらがいいんでしょうか」


「それは私が決めることじゃないの。私、学校だから。後は隆に聞いて」


「これから私、ご主人様の学校行ってもいいですか」


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