物語

 それから三日は風間さんの家に行けなかったけれど、四日目からは普通に行った。

 梨夏ちゃんはサークルに来なくなって、僕はボーカロイドを聞かなくなった。

 秋の大学祭で、ダンスサークルの出し物で踊っている彼女を遠巻きに見た。



 一年が経って、グループワークで一緒になった学科の子と仲良くなり、念願の初彼女ができた。

 童貞も卒業した。

 最初の一か月でゴムを三ダース使いきるくらい、僕たちは求めあった。

 カラオケにも何度も行った。彼女はボーカロイドが大好きで、『ルカルカ★ナイトフィーバー』を踊りながら歌うことを得意としていた。


 そのあと僕は何度か別れと出会いを繰り返して、そのたびに恋人の『ルカルカ★ナイトフィーバー』を聞いた。

 恋人たちは例外なく前髪をぱっつんに切り揃えていて、例外なく小動物のように可愛かった。


 大学四年生になった年、メッセージアプリがアップデートされ、「誕生日通知機能」が追加された。ホーム画面に「今日お誕生日の人」という表示がされるようになったのだ。

 僕はそこで三年ぶりに梨夏ちゃんの名前を見た。

 彼女のアイコンは弾けるような笑顔の他撮りで、前髪をかき上げていた。

 プロフィール欄には「株式会社dreamkind」と書いていて、調べてみるとベンチャー企業の名前だった。広報ページには楽しそうなバーベキューの写真が掲載されている。



 あの日、僕が泣いている彼女を無理にでも家に連れ込んでいたら、どうなっていたんだろう。

 それよりも前、風間さんと梨夏ちゃんが付き合う前に告白をしていたら、どうなっていたんだろう。


 僕が梨夏ちゃんと結ばれる可能性はあったんだろうか。


 僕の初めてを梨夏ちゃんに捧げている世界はあり得たんだろうか。




 彼女に捧げるはずだった僕の初めては、彼女以外には捧げられずに、今もまだ僕の中で燻っている。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

二人で踊りましょう 姫路 りしゅう @uselesstimegs

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ