6
晴れ晴れとした日曜の昼過ぎ、おめかしをした広美はマンションにタクシーを呼んだ。ドレスをまとうのは久しぶりで、ちょっとそわそわした気持ちでシートに座った。
住宅地を抜け、大通りに出る。道は混雑していた。とろとろと、広美を乗せたタクシーは進んだ。
「まーた、変な法律が通っちゃったなあ」
ふいに運転手が声をあげた。彼の目は、ニュースを報じるカーラジオへ向いていた。
「お客さん。これ、まずい法律みたいですよ」
「どうまずいんです?」
「そこは難しくてよくわからないんですけど」
運転手がかぶりをふった。
「でも、どうにかしないといけませんよ」
「どうにかって?」
「いや、それは、よくわかりませんけども」
彼が盛大なため息をつく。
「あー嫌だ嫌だ。あくせく働いているうちに、どんどん変な世の中になっちまってね。気が
そうですね、と返しながら、自然と笑みがこぼれた。
なるほど、それもアリかもしれない。
遼と出会ってからの二年半で、広美は学んだ。素晴らしい圧迫は、肉体に限らないこと。やりすぎれば危険が伴うこと。
次はもっと上手くやれる。しかしそんな出会いが、そうそうあるとは思えない。今日この日を最後に、味気ない生活がつづくのだとあきらめかけていた。
けど、そうか。生きていればいいだけなんだ。そうすれば向こうから、圧迫は勝手にやってくる。
できるだけ安全に、末永く、包まれてやろう。
「ラジオ、もう少し音をあげてくれます?」
フロントガラスの向こうに、背の高いビルが見えた。駅のそばの、高級に入る部類のホテル。風間遼と花岡紗彩の結婚式に、広美は向かっている。
素敵な圧迫 呉勝浩/小説 野性時代 @yasei-jidai
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