令和版ロマンポルノあるいは令和版芋虫

『一人心中』を読んですぐ昭和の日活ロマンポルノを思い出した。
アンチモラルな主題を恐れず、果敢に表現する姿勢がよく似ている。
それから江戸川乱歩の『芋虫』も思い出した。

戦争で負傷した軍人の夫が帰ってくる。
夫は戦傷で手足を失い、声も出せず、芋虫みたいな体になっている。
芋虫と化した夫を迎えた美しい、貞淑な妻はいつしか欲望に悩まされ、やがて毎晩夫を玩具のように責めさいなむようになる。
ある日妻の暴力で夫は唯一残っていた両目を失明する。
妻が慌てて医者を迎えに行っている間、夫は這って井戸に向かい、中に飛び込んで自決する。
「ゆるす」の言葉を残して。

乱歩の短編は軍部の逆鱗に触れ発禁処分になったが、一人心中は「令和の芋虫」といえないこともない。
ただし芋虫よりもずっと甘美で悲しい。

もし自分が最初に出会った女が、こんなファム・ファタル=運命の女だったらどうなるだろう?
その後平穏な生活を送れるとはとても思えない。
女と別れた後に待っているのは退屈でなんの刺激もない余生にちがいない。
おそらく自分も主人公と同じように、恋愛も性交も不可能になるだろう。
主人公の少年もそれは予感していて、

「道の先にあるものが拒絶であるならば、一生闇の中を彷徨っていたい」

という諦念のこもった述懐にその予感がよく現れている。

少年と、彼を闇に引きずり込んだ少女の「余生」は長くはなかった。
二人の最期を無惨と思う読者もいるだろうが、自分は二人の余生の短さに、作者のやさしさを感じた。

少年の過去を聞き出すアニソンバーの女りりぃは死の天使のような存在と思う。
彼女がもたらすのは厄災と同時に救済で、これにより少年と少女はふたたび闇の中で再会することができた……と思いたい。
読後の余韻が一晩たってもまだ残っている。
こんなことは珍しい。
初めて芋虫を読んだときもこんな感じだった。