頭を侵食していく恐怖の息遣い

この夏に読んでおきたい短編ホラーの一つです。
少ない文字の中に恐怖がこれでもかと凝縮されており、読了した暁には背筋が凍りついていること間違いなし。夜中に読んだら、トイレに行けなくなるかも……? 読後に独特な余韻の残る作品でした。これは短編でしか味わえない旨味ですね。

もちろん本作は、ホラー要素だけでなく物語の構成も秀逸。安定した筆致で、スムーズに物語の世界へと誘ってくれます。適度に潤いのある文章が作風にマッチしていました。そして、特筆すべきは構成力。これには唸らされました。いい感じに読者を乗せて、最終的には臆面もなく恐怖の前に投げ飛ばします。これが紐なしバンジーの洗礼なのか。「ふっ、オチは読めた」と中盤で思った人ほど、結末には戦慄することでしょう。

ホラー小説を読みたいけど時間がない。興味はあるけど難しい話は苦手。そんな悩みを持つ方々にオススメしたい短編です。さっと読めて、そのうえ中身がある。直情的な文章が多いので、なんなら読書をあまりしない人でも親しみやすい作品だと思います。ホラー入門書とも呼べる本作を、是非ともこの夏にお楽しみください。