第3話 猫 初めての同居人

窓から朝日が射しこみハルトの顔を照らす。

眩しさに目を覚まし起き上がろうとするとやけに布団が重たいのを感じた。


「ん……?布団の上に何か……」

寝ぼけ眼のまま手探りで布団の上に乗っている物を手繰った。

そこには懐かしいふわふわの手触りをしたものが乗っていた。


「ぬいぐるみ……?家具と一緒に生成されてたのか……?」

起き上がり目を凝らしてそれを眺めた。


そこには見覚えのある生き物が丸まって気持ちよさそうに眠っていた。

それを見て暫く固まった。

「……え?猫?……どう見ても猫だよな?」

こんなぬいぐるみ昨日確認したときあったっけ。


そう思いながら猫のぬいぐるみと思われるものを再度確認する。

よく見るとしっかり呼吸をしている。

触れてみると脈も感じられた。

さらにハルトが触れると気持ちよさそうな顔をして尻尾を動かしている。

「……生きてる。やっぱ本物の猫!?」


ようやく状況を理解し驚いてベッドから立ち上がった。

ハルトの声に驚き猫も飛び起きた。


だが、ハルトの姿を確認すると猫はベッドから降り、何の警戒もせずにそのままハルトに近づいてきた。

「にゃーん♪」

猫は甘えた声を出しながらハルトに足にすり寄ってきた。


何だかよくわからないけど、自分以外何もいないと思っていた世界に同居人が出来たと思い嬉しくなった。

それに昔飼っていた猫と同じ銀色の毛と青い瞳に懐かしさを覚えた。


猫を抱き上げ頬ずりをし、顔をうずめ匂いを嗅いだ。

猫はくすぐったそうにしている。

「かわいいなぁ♪そしてこの……猫の匂い……はぁ~癒される」

猫にデレデレになりハルトは満足した表情を浮かべた。


「よし!この子のために加護で色々作るとしよう!」

と、思い立ったはいいが何から作るか悩んでいた。

加護は一日三回までしか使えない。



猫バカのハルトは猫を抱き上げ顎を撫でながら声をかけた。

「猫ちゃんは何が欲しい~?」

猫はハルトの腕の中で顎を撫でられながら気持ちよさそうな声でそれに答えた。

「にゃ~ん♪」


「そうかそうか。ここを撫でられるのが好きか♪お前と話せたらいいんだけどなぁ……」

猫と話せて考えていることや言葉が理解出来たらなぁ……。

ハルトがそう思った直後。

急に加護の声が聞こえてきた。


『対象の進化。成功しました』

『対象に言語理解スキル付与。成功しました』


「え…?進化?スキル?」


加護の声がした直後、抱きかかえていた猫の体が光始めた。

眩しさのあまりハルトは目を閉じた。


光が落ち着きおそるおそる目を開ける。

すると目の前には見知らぬ女性が一糸まとわぬ姿でそこに立っていた。


「え!?ちょっ!だれ!?」

慌てて手で顔を覆い目をそらす。


女は自分から目をそらすハルトの様子を見て不思議そうに首を傾げた。

「ご主人様?どうしたんですか?」


女の言葉を聞いてハルトは余計に戸惑い混乱した。

「ご主人様……?」


「先ほどまで私を抱いて撫でてくれていたのに……。私何かしましたか……?」

女はハルトに避けられていると思ったのか、少し悲しそうな表情でハルトを見つめていた。

急に目の前に現れた見知らぬ女性が意味の分からないことを言っているのでハルトは状況が理解できずに戸惑っていた。


だが先ほどの加護の声と女が言っていることを合わせて考えてみてようやく気が付いた。

「……もしかして……さっきまで俺が抱いていた猫って……?」


女は微笑みながら答える。

「私です♪」


状況を整理すると、どうやら先ほどまで猫だった存在が加護の力で進化して人に近い姿になってしまったようだ。


確認するために指の隙間から女の方を覗いてみると人の姿ではあるが猫の耳や尻尾が生えていた。

だが流石に女性の裸を見るのに抵抗があり、すぐにまた目をそらした。

「と、とりあえず服を着てくれ!」

「?」

女はハルが何に戸惑っているのかわからず首を傾げた。




仕方がないのですぐに加護の力で女性が着れる服を沢山生成し。適当に見繕って手渡し、すぐに着るように促した。


女性はよくわからないといった素振りをしていたがハルトに言われるがままに手渡された服を着る。

「これが服……ですか?なんだか少し動き辛いです……」

女は嫌そうにそう言うと早速着たばかりの服を脱ぎ始めた。


「わー!まてまて!」

ハルトがすぐに服を脱ぐのを制止する。


「頼むから俺と居るときは服を着ていてくれないか?」

そうしてくれないと俺の精神と理性が持たない……。


「ご主人様がそういうなら……」

そういって女は服に抵抗を示しながらも渋々理解してくれた。


「それと、ご主人様って呼ぶのはやめてもらえないか?俺の名前は一晴斗ニノマエハルトだ。ハルトって呼んで欲しいな」

女は頬に人指し指をあて首を傾げていた。

「なまえ?」

そうだった。この子は今は進化…?してこんななりだけど中身は猫だっけ……。スキル?で言葉は通じるようだが人の常識は分からないか……。


「えーと名前っていうのは、その人を指してを呼ぶものって言ったらわかりやすいかな?」

暫く女は理解しようと暫く考えている。そして納得した表情をし返事をする。

「わかりました!ご主人様♪」

分かったような顔をして笑っていたが、やはりよく理解していなかったか……。

ハルトはこれから大変そうだと思い苦笑いを浮かべた。


「まぁいい。俺のことはもう好きに呼んでくれ……。君のことはなんと呼んだらいいんだ?」

「ご主人様が私に、なまえ?を付けてください」

女はそういうとハルトを見て微笑んだ。


ハルトは名前を付けてほしいと言われしばらく考えた。

急に名前って言われてもなぁ……。うーん。銀色の髪に青い瞳……。そう言えば猫の姿の時は昔飼ってたルナによく似ていたな。よし。


「ルナって名前はどうだ?」

「ルナ……私の名前はルナ…ふふふ♪なんだか嬉しいです……ありがとうございます♪」


猫のころから綺麗な毛並みだったが、ルナは猫の耳と尻尾もあり、銀色の綺麗な髪に青い目をしているのでとても綺麗で神秘的な容姿をしていた。

そんなルナが喜び微笑んでいる姿を見てハルトは暫く目を奪われていた。


「どうしました?ご主人様?」

自分を見たまま動かないハルトを不思議に思い、ルナは首を傾げつつハルトの顔を覗き込みながら尋ねた。

「いやっ!何でもないよ」



ルナとこうして会話が出来るようになったので、一つ疑問に思っていたことを確認した。

「一つ聞いていいかルナ?」

「はい?」

「ルナはどうして今朝俺のベッドの上に寝ていたんだ?」


ルナは腕を組み、顎に片手をあてながら考え込んでいる。

「んー?よくわからないんですけど。ご主人様に助けられたあと、公園で暫く過ごしていたんです。そしたらいきなりワー!って目の前が光って。気が付いたらご主人様の寝ている部屋に居ました」

ジェスチャー満載の雑な説明だったが何となく状況は伝わった。


ということはルナは転移してこの世界に来たってことか……。

「……ん?俺に助けられた……?」

「はい、車に引かれそうになっていたところを」


ハルトはそれを聞いて驚いた。どうやら自分が助けた猫がこちらの世界に転移してきていたのだ。

寝る前に猫のことを考えていたからか?

だから無意識に加護の力を使って呼んでしまったってことなのか……。

でもあの猫が怪我一つなく無事だったと確認出来て、安心したな。無事でよかった。

そう安堵すると同時に、偶然とはいえこんな何もない世界に呼び寄せてしまったことに少し罪悪感を感じた。


「ルナ。こんな何もない世界に呼び寄せてしまってすまない」

ハルは頭を下げた。

それをみてルナは首を傾げている。

「なんでご主人様は謝っているんですか?あの時助けてくれた方にまた会えて……、しかもこうしてお話も出来るようになるなんて……私はとても嬉しいです♪」

ルナは嬉しそうに耳と尻尾を動かしながら満面の笑みを浮かべていた。

人の姿になったとはいえ猫っぽさはそのままだった。


その様子を見てハルは微笑み、猫を愛でるようにルナの頭をなでながら言った。

「俺も一人だけってのに寂しさを感じていたからルナが来てくれて本当に嬉しいよ」

撫でられながらそう言われ、ルナは満足そうに喜んでいた。


こうして何もない世界から始まったハルトの異世界生活は住人が一人増え、ひとつ豊かになった。

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