第5話 別の異世界へ 最強種キャトラン
ハルトは目覚めると布団の中から違和感を感じた。
布団をめくるとまたルナがもぐりこんでいた。
悪気はないし元が猫だから甘えたがりっていうのは分かるけど……。
こう毎日朝起きると裸の女性が一緒に寝ているというのは俺も男だから色々と困る!
ルナは結局毎夜ハルトのベッドに潜り込んできていた。これも寂しがりな猫の習性だろうとハルトは諦めていた。
ルナはハルトが起きたのに気づき、丸めた手で顔をこすりながら体を起こした。
「ん……おはようございます。ご主人様ぁ……」
「はぁ……おはようルナ」
だからせめて服をきてくれー!
二人は扉の向こうに行く準備をした。
何があるかわからないので以前加護で色々作って置いたのだ。
準備していた装備を二人は身に着けた。
といっても革で出来た鎧にシンプルな日本刀とナイフだ。
鎧はあまりしっかりと連想できなかったのでハルトが加護で今生成できるのはこれが限界だった。
だからないよりもマシ。といった程度のものだ。
日本刀は一番イメージしやすい武器だったというだけだ。
ルナは軽鎧を身に着けてハルトに感想を求めてきた。
「どうですか?似合ってますか?ご主人様♪」
ハルトはルナの頭をなでながら答えた。
「ああ、似合ってるよ」
ルナは気持ちよさそうな顔をしながら猫がするようにハルトにすり寄ってきた。
それを当たり前のようにルナの頭を抑えて押し返しながらハルトは冷静な顔をしてリンゴをかじっている。
ルナはすり寄るのを阻止されて少し頬を膨らませて不満げだ。
「そうむくれるな。さてと、そろそろ行くとするか」
そう言いつつルナの頭をなでる。
「はい♪」
ルナはすぐに機嫌を直し笑顔で返事した。
ハルトはこの数日で段々とルナの扱いに慣れていっていた。
昨日の夕方に扉を出した場所に二人は向かった。
扉を開くとやはり見たこともない景色がそこにはあった。
「ルナ少しこわいです……」
ハルトの背中にしがみついてルナは少し怯えている。
猫は自分の縄張りから出るの怖がるからなぁ。不安になるのは習性かな?
と思いつつもハルトは扉に向かって進みだす。
「んじゃいくか」
「ま、待ってください!」
ルナも慌ててハルトについて扉をくぐった。
二人は扉を抜けて辺りを見回す。
そしてすぐに全く別の世界だと実感した。
すぐ目の前には小高い丘のある草原。背後には鬱蒼とした森。遠から鳥の鳴き声のようなものも聞こえている。
「ここがどんな世界なのかはわからないから慎重に探索しよう。俺のそばを離れないようにな」
「うぅ……」
早速ルナは怯えていた。
「いくらなんでも怖がり過ぎだよ。歩きにくいぞ」
「でもっ……色んな生き物の匂いがして……」
ルナは怯えてしまい、ハルトに引っ付いて離れようとしない。
……そうか、匂いか。だから怯えていたのか。
「ルナ?その匂いってどんな生き物の匂いとかかぎ分けられたりするか?」
「どれも初めての匂いだからよくわからない……。でもご主人様に近い匂いも交じってる気がするかも……?」
ということはやはり人が居る世界ってことかな?街とかにいけたらいいんだけど。
暫く森に沿って歩いていくと、遠くに轍のような跡が付いた道のようなものが見えた。
それをみてハルトは確信した。この世界には人がいる。
辺りを確認しながら歩いていると、急にルナが尻尾をピンと立てて毛を逆立てながら森の方を警戒し始めた。
「ご主人様!何かくる!!」
それを聞いてハルトもルナが警戒している方を向いた。
少し先の茂みが揺らいでいる。
未知の獣が出てきても対応できるようにハルトは刀を構えた。
「きます!!」
ルナがそういった瞬間茂みから何かが飛び出してきた。
二人はその姿を見て警戒を緩めた。
そこに居たのは真っ黒な兎だった。向こうの世界の兎とは少し違うようでかなり大きいが、角が生えていたり翼が生えていたりしないのでハルトは少し安心した。
「なんだ兎かぁ」
二人が顔を見合わせてほっとしたその時、兎はいきなり飛び掛かってきた。
油断していたハルトはギリギリのところでそれを躱した。
だがハルトが大勢を崩したところにすぐさま再び兎が飛びついてきた。
先ほどまでの愛らしい顔はどこへやら。狂暴な顔つきで口を大きく開けてハルトに噛みつこうとした。
やばい!避けれない!刀を引いて鞘で受け止めようとしたそのとき――
「ダメー!!」
ルナの叫び声が響きいた。
先ほどまで怯えていたルナはハルトに危機が迫ると、脅威から守るために体が勝手に反応し兎にとびかかっていた。
ルナは無意識に猫がするように、兎を引っ掻くそぶりで手を振り下ろした。
ルナが手で引っ掻くと一瞬巨大な爪が出現した。
すると明らかにただ引っ掻いただけとは思えない切り裂いたあとが兎の体に現れ兎はそのまま息絶えた。
「ご主人様怪我は!?大丈夫!?」
ルナは泣きそうになりながら慌ててハルトに近寄り無事を確認する。
「大丈夫。助かったよ。ありがとうルナ」
ハルトはルナの頭をなでて落ち着かせた。
「それにしてもさっきのは…どうやったの?」
「……咄嗟だったので私にもよくわかりません」
やはり無意識だったようだ。
横たわっている兎を見ると巨大な熊に爪で引っかかれたような傷跡が付いていた。
人の姿のルナが引き裂いたとはとても思えない。
二人が安堵した直後再び茂みの奥から何かが近づいてきていた。
ルナがハルトの前に立ち警戒を強めた。
「あれ?キラーラビットがこの辺りに逃げて来なかったか!?」
そこに現れたのは人間の男だった。
地面に横たわるキラーラビットと、ルナの姿を見て男は驚いていた。
「なっ!……お前らたった二人でキラーラビットを倒したのか!?」
「キラーラビット?」
二人は首を傾げる。
「おいおい……キラーラビットを知らないとかあんたらどんなド田舎から出てきたんだよ……」
そこに男の仲間と思われる人も四人合流した。
男たちは冒険者だそうだ。
この辺りでキラーラビットの被害報告が相次いでいたらしくギルドからの依頼を受けて討伐に来ていたらしい。
取り囲んで仕留めようとしていたところ森の外へ逃げたしたので追いかけてきたそうだ。
なんでもキラーラビットは愛くるしい見た目とは裏腹に肉食でかなり獰猛なんだそう。
「あんたたち!人の獲物を横取りするなんてルール違反なんじゃない!?」
そういって一人の女性がいきなり突っかかってきた。
「まぁまぁミリル。依頼がかぶった場合は先に討伐したもの勝ちだろう?」
依頼?獲物?この人たちは何を言ってるんだ?
「あのー。俺ら冒険者でもないし、ギルド?にも登録とかしてないのでそちらの手柄で構いませんよ?」
「そんな施しなんて受け取りたくないわ!!だいたいね――」
ミリルは騒ぎ始めたところで男に口をふさいで黙らされた。それでもフガフガ騒いでいたが……
「ほんとにいいのか?かなり割りのいい依頼なのに……?」
「ええ、その代わり俺らを街に連れて行ってもらえませんか?」
「俺らもこれから街に帰るから、そりゃ構わないけど……」
こうして二人は冒険者の人達に街まで案内してもらうことになった。
道中お互い自己紹介をした。
「俺はルッツ。この冒険者チームのリーダーをしてる」
金髪に緑色の瞳をしていてかなり整った容姿で性格も明るく、いい意味で嫌でも目立つ雰囲気をしていた。
ハルトと同じような革の鎧を着ていて、職業はシーフだそうだ。
「私はエレンです。得意なのは回復魔法です」
エレンは白いローブを見に纏った金髪の碧眼の綺麗な女性だ。
回復魔法……この世界には魔法も存在するのか。
「俺はこのチームの盾。戦士のローガンだ!よろしくな。ガハハ」
がっしりしたガタイに金属鎧を見に纏い大盾と直剣を持っている。
ローガンはよくあるゲームに出てくる戦士そのものだった。
「僕はフィルといいます。風魔法を少しだけ使えます。よろしくおねがいします」
フィルの職業は属性魔導士というそうだ。先天属性のうちどれか1つ以上の適正があり魔法を行使できる人のことをそう呼ぶらしい。
ハルトとルナも挨拶をした。どこから来たのかとかは当然聞かれたが有耶無耶にして濁した。
「それにしても、あのキラーラビットを一撃とは流石キャトランだな」
「きゃとらん?」
二人は声を揃えて聞き返した。
「は?なんで知らないんだよ…ってかなんでキャトランのルナさんまで聞き返してくるんだよ!獣人の中でもキャトランっていったら最強種の一角じゃないか」
ルナの見た目で始め驚いていたのは獣人が珍しいからじゃなくて、そのキャトランって種族だと思われたからか……。
「他にも獣人はよくいるんですか?」
ハルトの質問に5人は固まった。
ミリルが非常識だと罵倒をし騒ぎはじめそうになったところを今度はローガンが口を押え黙らせた。
「辺境から出てきたとは聞いたけどよ……。ほんとにあんたらどれだけ世情に疎いんだ……?噂に聞く賢者みたいに山籠もりでもしてたのか?」
「あははは……。まぁ……そんなところです」
「まぁいい、この国では獣人はそれほど珍しくないぞ?そりゃキャトランはかなり珍しいがな。一番多いのはウルフェンっていう狼みたいな獣人だな。あとは――」
こうして色々聞いてみると
獣人は狼種のウルフェン、虎種のティガー、兎種のヴァニア、鼠種のローデン、猿種のエイパル、狐種のフォクシル、猫種のキャトランがいるらしい。
中でもフォクシルとキャトランはかなり希少で、更にキャトランは竜種と並び最強種と言われているそうだ。
どうやらここはハルトが転生した何もない世界とは大違いですごくファンタジーな世界のようだ。
先ほど自己紹介でも出ていた魔法についても軽く聞いてみた。
魔法は誰にでも適正があるわけではなく、生またときに加護を得ていれば使えるらしい。
詠唱などは無く、魔力を練って作り出すらしい。
更にスキルの存在も教わった。
先ほどルナがキラーラビットを攻撃したのもスキルだろうと言われた。
「ルナ。なんかスキル使ったの?」
「………さぁ?」
聞いた俺がバカだった。俺も知らないのにルナも知っているはずがない。
ルッツが言うには武技スキルはそういうスキルを持っていると自分が認識できれば使えるらしい。
説明ついでに見本を見せてくれるという。
「たとえば……。はぁっ!」
ルッツが両手に持った二本のショートソードを同時にふるうと十字の斬撃が数m先の大岩まで飛んでいった。
「これはクロスリーパーっていう短剣や短刀の二刀流スキルで、斬撃を対象に向けて放つスキルだ。ルナさんのは爪牙系のスキルじゃないかな?あとは魔法についてだが、自分の先天属性やスキルについて知りたかったらギルドに行くといい。登録する際に調べてもらえるぜ」
「ギルドか…。でも冒険者の仕事をするつもりはあまりないからなぁ」
「別に冒険者ギルドじゃなくても商業ギルドでもいいんじゃねぇか?あとは…あまりお勧めはしないが農業ギルドや狩猟ギルドもあるな」
なるほど、この世界では生活に関する仕事はギルドが統括しているらしい。
戦いにそれほど興味はないし、冒険者になるつもりはなかった。
農業や狩猟ギルドはお勧めできないっていうけどあっちでも役立てそうだし気になるな~。
「そういえば、二人はギルドに登録してないのなら身分証は?」
「……持ってないですね」
「うーん。そうなったら街の入り口で検査と試験を受けて、実力を示して別の都市で活動している冒険者ってことにして入れてもらうしかないかもしれないな」
「えぇ……」
実力って…戦いなんて全くの素人なんですけど……。
こうして不安が残ったまま街の入り口向かった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます