第7話 リーザスの街 ドワーフ族のロンド
ようやく街へ入ることができたハルト達であったがもう既に問題があった。
お金がない。
「リーザスの街へようこそ!お二人さん!見ない顔だね!ランドボア肉の串焼きを1本どうだい!?この街の名物だよ!!」
ハルトは肉の匂いで涎が止まらないが、金がないので泣く泣く断った。
街には念願の肉や魚が至る所に売っている。
歩いていると度々先ほどの様に声をかけられるが金がない。
二人は待ち焦がれていたそれらを見て涎を垂らしていた。
「ご主人様……!お肉ぅ~……」
ルナが辛そうな顔をしつつハルトの袖を引っ張る。
だがしかし、何度も言うがお金がないので何も買えないのである。
ルナを説得し二人は泣く泣く街中を歩いていた。
ルッツ達に会えたらご飯をおごってもらえる……。
そこまでは我慢……と自分に言い聞かせ、二人は凶悪な匂いに必死で耐えていた。
そこに1人の男が声をかけてきた。
「兄ちゃん……!その武器ちょっと見せてくれねぇか!?」
声のする方を振り向いたが誰もいない。と思ったら目線を下げるとそこに声の主が居た。
子供くらいの背丈で逞しいひげを蓄えたガタイのいい男がハルトの刀を眺めて興奮していた。
「別にいいですけど……あなたは?」
「俺は鍛冶師のロンドってんだ。見ての通りドワーフさ。そこの角を曲がったところに俺の店があるんだがそこへ行ってその武器をじっくり見せてくれねぇか!?」
へぇ。この世界にはドワーフもいるのか。
特に行く当てもなく、お金もないので二人はドワーフについていくことにした。
店に入るとそこには様々な武器や防具が置いてあった。
ロンドは武具職人のようだ。刀は珍しいので食いついたらしい。
日本刀を見せるとロンドは興奮しながら見ていた。
「この刃はなんだ!?こんなに綺麗に砥がれた刃物は見たことねぇ……。それにこの片刃の刀身は受ける側は柔らかく……切る側は鋭く硬くなっているのか……こんな見事な武器は見たことがねぇ……!鞘もただの刀身を納める筒じゃなく、反った刀身をしっかり保護する形状、そして見事な装飾!!もはやこれは1つの芸術品!!!どうやって作ればこんなものが出来るんだ!?」
ははは……。
ハルトはロンドが早口で興奮する姿を見て、ロボットアニメ好きの友人を思い出した……。
日本刀なんて珍しいだろうからなぁ。
でも俺に作り方を聞かないでくれ。俺も日本刀の作り方なんて何となくしかわからん!
「なぁ……こいつを俺に譲ってくれねぇか?金は払う!……って無理だよなぁ……」
これは思っても見ないところでお金を得るチャンスが!!
二人は顔を見合わせて頷いた。そして心の中でこう思った。
『肉が食える!!!』
「どうぞ!どうぞ!こんなもんで良ければ!」
予想外の返事にロンドは逆に驚いていた。
「え……ほんとにいいのか?」
「ああ!」
ハルトとルナはニコニコしていた。
「しかし……譲ってほしいとは言ったが……この剣にいくらの値を付けたらいいのか俺にははかり知れねぇ……」
ハルトは冒険者登録の代金と肉が食えるお金さえあればよかったので即答した。
「じゃあ、銀貨16枚と二人分の飯代でどうだ?」
「……へ……いやいやいや!安すぎるだろう!」
逆に安すぎてそんな金額じゃ買い取れないと言われたので、事情を説明した。
金がなければ何もできないので、自分に利のある安価な取引を断ったロンドの気の良さを信用して転生したことや加護の力のことなどを説明した。
「……別の世界からって……。にわかには信じられねぇが……こんな武器や製法、それにあんたらの身なりも見たことがねぇ。すべてが嘘ってわけではなさそうだが……」
「だから今は肉を食えるだけの金とギルドに登録する金さえ手に入れば俺らはそれでいい!」
「お肉っ♪お肉っ♪」
ルナはもう肉が食えると思ってテンションが上がっていた。
「……なぁ。旦那」
「ん?」
「その加護ってのはなんでも作り出せるのか?」
「んー肉とか魚とかは作り出せなかったな。でも木とか作物は大丈夫だし意思を持つ生物以外なら大丈夫なんじゃないかな?」
「ちょっとここで待っててくれ!」
そういうとロンドは奥へ走って行ってしまった。
すぐ戻ってくると手には何か石を持っていた。
「こいつはミスリル鉱とアダマン鉱ってんだが、それなりに貴重で高価な鉱石なんだ。試しに旦那の力で増やして見てくれねぇか?」
「出来なくはないと思うけどそれって何に使うんだ?」
見たことも無い鉱石なのでしっかり失敗せずに想像するために、どういった鉱石なのか少しでも情報を把握しておこうと思い用途を尋ねた。
「あの棚に飾ってある剣とか槍がそれらを使って作った品だな。鉱石自体が魔力を帯びてるから物理攻撃が聞きにくいエレメント系の魔物やスライムなんかにも攻撃できるぜ」
ロンドが指さした棚にある武器を手に取ってハルトは眺めた。
魔力ってのはまだよくわからないけど、たしかに不思議な力を感じるな。
知らない金属や鉱石を想像できるか怪しいけど一つためしてみるか……。
ハルトは目を閉じて両手を前に出して想像した。
『魔性鉱石と魔法武器生成。 成功しました』
「なっ!なんじゃこりゃああああ!!」
ハルトが目を開けて確認する前にロンドの叫び声が店の中に響き渡った。
見てみるとそこには先ほど見た鉱石の山と、なぜか先ほど見たロンドが作った剣が複数生成されていた。
「鉱石だけじゃなく……。俺が打った武器まで……。しかも完璧に俺の武器と酷似してやがる……」
「ご主人様さすがー♪」
ルナはハルトの腕に抱き着いた。
ハルトは故意ではなかったとはいえ、盗作したみたいで凄い罪悪感を感じていた。
「それで。日本刀は買い取ってくれるのかな?」
とにかくハルトはさっさと肉を食いに行きたかった。
ロンドは神妙な顔をして少し考え込んで口を開いた。
「……そりゃもちろん譲ってくれるなら願ってもないが。なぁ……ものは相談なんだが……俺を雇っちゃくれねぇか?」
唐突な話にハルトは驚いた。
「は?いやいや、だから俺お金ないんだってば!人を雇う金なんて――」
ハルトがそう言い切る前にロンドが話を続けた。
「金は要らねぇ。その代わり加護の力?ってのでたまに鉱石を出しちゃくれねぇか!報酬はそれで十分だ」
「それくらいなら別に構わないけど……そんなんでほんとにいいのか?」
「かまわねぇ。これだけ希少な鉱石が湯水の様に使えるならどんな大金よりも魅力的でさぁ」
「でも、雇うって言っても俺はこの世界の住人じゃないぞ?」
「俺も旦那の世界に住ませてほしい。もしこっちと気軽に行き来が出来るならここで旦那からもらった鉱石から作った武具を売って金にするさ」
「俺とルナの2人しかいない世界だぞ……?俺らは人が増えるのは大歓迎だけど……本当にいいのか?肉もないぞ……??」
「肉……?別に肉はどうでもいいが……歓迎してくれるってならよろしく頼むぜお二人さん!」
こうして日本刀から繋がってなぜかドワーフのエルドがハルトの世界に来ることになった。
ついでに先ほどの鉱石と日本刀を譲ることである程度の金額を受け取った。
これで念願の肉を食える!!と、二人は嬉々として商店街に駆け出した。
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