第13話 食糧泥棒と魔王誕生

加護の力で3日かけてセバスたちの家を1つずつ作っていこうとしたが、セバスからこういう案が出た。

「我々の住居はひとまず1つにまとめてくれませんか?」


なぜこんな申し出が出たのかと思ったら、セバスも含めユキたちはまだ人の姿での生活になれていないのでセバスがみんなを見ながら生活指導も兼ねたいのだという。


セバス!なんて有能なんだ君は……!

ハルトが感動していた。


ついでにルナもそこで指導してほしいと思ったが、絶対駄々をこねそうなのでセバスの心労も考えやめておいた。


こうしてセバスたちの為に一つの大きな屋敷を作ることになった。

屋敷には住んだこともないのでアニメで見た屋敷をイメージして作ったらそれなりの物が出来た。

部屋数は20以上もあるかなり大きな屋敷になってしまった。


流石にここまで大きなのは……とセバスは困っていたが、ホールは全員で集まれるほど広く、食堂もあるので皆で使える集会場も兼ねようという話になった。


こうして全員の生活の基盤も出来たところでセバスたちにも畑仕事仕事を教えた。

ルナの時と同じく道具を使うことが初めは苦手だったが、そう日もかからずに全員が農作業をこなせるようになっていった。


元猫たちの農作業は午前だけにして、午後はセバスに指導を任せ、人としての常識等を教えてもらった。

ハルトが一度説明するとセバスはすんなり理解し教えてくれるのでとても助かっている。

元々猫として人の街で長く暮らしていたのである程度人の生活を見知っていたそうだ。


セバスは教師などをさせるとかなり向いていそうだ。



こうして全員が新たな生活に慣れたころ事件が起きた。

ある日、倉庫に蓄えていた作物が減っていたのに気が付いた。

はじめはだれかがつまみ食いしたのかと思いあまり気に留めていなかったが、食料泥棒が数日続いたので流石に看過できないと思い皆を集めて話をすることにした。

セバスが自分の管理不届きだといい謝罪しようとしていたが、まだ誰が犯人なのか分からない状況なのでハルトはセバスの謝罪をやめさせた。

全員に話を聞いて状況を整理するとこの数日作物が減っているのを確認したのは夜に食事の支度をするときだ。

つまり日中に盗みに入っているということになる。

セバスはユキたちの指導に当たっているし、ハルトとエルドとルナは一緒に畑で作業をしているので皆アリバイがある。

この状況で食料が不自然に減っていくのはおかしい。


この街に何者かが入り込んでいるのかも?という話になり、皆で交代に保存庫の見張りをすることとなった。

すると翌日、ルナが見張りについているときにすぐに犯人が見つかった。


「ご主人様!!犯人が見つかりました!」

そういって畑に居たハルトとエルドの元にルナが駆けてきた。


二人は慌てて保存庫へと向かった。

中を見てハルトは驚いた。

そこには以前見たことがある柔らかな球体上の物体が居た。

「これって……スライム?」

「食料を漁るとき以外はどこかに隠れていたみたいです」

「でもどこからスライムが――」

そう言いかけたところで、以前ロンドから異世界の扉を置きっぱなしだと何者かが入る混むかもしれないからと、注意されたのを思い出した。

あー……。ドアを出したままにしてたから入り込んでいたのか……。

「どうする?とりあえず討伐するか?」

「でも、スライムなら妙だな。俺らや嬢ちゃん達もここに出入りしてるってのに一度たりとも姿を見せることがなかった。ってことは人が出入りする時間を把握して隠れていたってことになるが……スライムにそれほどの知能があるとは思えねぇ」


「知性……か。今も後ずさりして何だか怯えているような雰囲気だし、襲ってくる気配もないな。話しかけてみるか?」

「話って旦那。相手はスライムだぞ……?」

ロンドは呆れた顔をしていた。


まぁ物は試しだとハルトはスライムに語り掛けてみることにした。

「お前はあのドアを通ってきたのか?言葉は分かるか?」

スライムはただ部屋の隅に寄って震えているだけだった。

やっぱ無理か。


「ほら、言ったじゃねぇか。スライムと会話なんて――」

「害を与えるつもりはないから助けてって言ってる」

ロンドの言葉をさえぎってルナがそう呟いた。


「え?ルナ。スライムと話せるのか?」

「すべてが分かるわけじゃないけど、何故だかなんとなく何を言いたいのかがわかるみたい」

もしかして言語理解のスキルのおかげなのか……?それなら。

ハルトはスライムの方向に向かって手をかざし目を閉じた。


『対象に言語理解スキル付与。成功しました』


「よし」

「旦那?スライムにいったい何をしたんだ?」

「言語理解のスキルを与えてみたんだ。これで何を思ってるか俺やロンドも理解できるはず」


「たすけてください。私はあなた達に敵意はありません」

3人の頭の中にスライムの声が聞こえてきた。


「こりゃたまげた……頭の中に声が……」

「これがスライムの声か?お前俺達に敵意は無いといったな?他のスライムとは違うのか?人を襲わないと約束できるか?」

「勿論です。私は人を襲ったことなどありません。今までも森でずっと静かに生きてきました」

「なるほど。なんであの扉を抜けてこの世界に?」

「森の中で冒険者に追われて逃げていたところであの扉を見つけて。私が扉をくぐった直後扉が消えたのでなんとか逃げ切ることが出来ました」

扉はやはり出したままにしておくと時間で消えるのか?それとも一定数が通過したら?いや、それはないなそれだと猫達を連れて俺らが通れたのはおかしいか。


「わかった。お前を信用する。俺たちもお前には手を出さないと約束しよう」

「あ、ありがとうございます!それにこうして会話が出来るようになるなんて!」

「お前名前はあるのか?」

「いえ?私はただのスライムです」


ここで一緒に暮らすなら名前が無いと不便だよな……。スライム……か。

「因みにお前は性別とかあるのか?」

「我々スライムに性別はありませんよ。我々は分裂で仲間を増やしていくので」

なるほど。性別はないのか。んじゃ見た目のイメージから名前を付けるとするか。

この真っ青なボディ、原色の青みたいだな。シアンか……。


「よし、お前の名前はルシアだ。俺はハルト、こっちはロンドとルナだ。これからよろしくな」

「はい!よろしくおねがいします」

ルシアは柔らかい体から手の様に細長く体の一部を伸ばすと、ハルトと握手を交わした。


ルナがルシアを抱きかかえ4人は保存庫を出た。

スライムの体は柔らかく抱きかかえているルナは気持ちよさそうだ。

「ひんやりしてて気持ちよさそうだな、あとで俺にも抱かせてくれ」


「寝るときにルシアを抱いて寝ると、とっても気持ちよさそうです♪」

ルナはスライムの感触がとても気に入ったらしい。


「へー、いいな。今度寝るとき俺もルシアを抱いて寝るとするか」

「私なんかでよければいつでもお二人の御側に!」


ロンドはルナが抱えたルシアをつつきながら初めて触れるスライムの感触を確認していた。

「へぇ~スライムの生きた体はこんなに弾力があるのか、ルナ嬢がいうとおりほんとにひんやりしてて触り心地は最高だな」


「なぁ、ルシア?お前みたいな魔物ってどうやって生まれてくるんだ?」

「うーん。私も詳しくはわかりませんが、私は分裂で産れた個体ではなく、魔力の泉から生まれました」

「魔力の泉?」

「はい。あちらの世界で強い魔力が溜まっている場所です」

「ロンドしってるか?」

「いや、俺は魔力の泉なんて聞いたことねぇなぁ」


ルッツ達なら何かしってるかな?今度あの町に行くことがあれば聞いてみよう。

「ルシア、ここに住むことは許可するけど、これからは一緒に生活する仲間として色々仕事は手伝ってもらうぞ?」

「はい、私にできることならばなんなりと」

そういうルシアを眺めながらハルトは悩んでいた。

手伝ってもらうとはいったものの、この姿じゃ移動も遅いし、あまりやれることはなさそうだな。

「何か特技とかはないのか?」

「なんでも溶かす溶解液をだしたり、取り込んだものの力を吸収できるくらいですね」

うーん。スライムって感じの特技だ。


「ねぇご主人様?」

「なんだルナ?」

「この子も進化したら私達みたいになれるんじゃないかな?」

確かに進化って手もあるにがあるが、スライムが進化しても巨大化したりメタル化したりする気しかしないんだよなぁ。下手すると毒化したりも……。


まぁ試してみるか。運よく進化でメタル化したりすると素早くなるかもしれないしな。

ハルトはルナに抱かれたルシアに手をかざし進化を促した。

一応人の姿になれるようにイメージをしてみた。


『対象の進化 成功しました』

『対象の超越進化による魔王化 成功しました』


え?魔王……!?

ハルトが加護の声の中に嫌な単語が聞こえたと思った瞬間。

ルシアの体が光に包まれ、更にとてつもない力が凝縮し始めた。

ルナも驚いてルシアをその場に下すとハルトの側に駆け寄った。


空間がゆがむほどの可視化された力がルシアの体に凝縮されていくのが分かる。

なんかヤバソウ……。


その凄まじい光と力が収まるとゆっくり目を開き、ルシアの方を見た。

するとそこには青い髪、青い瞳に青い高貴なコートを身にまとった少女のような姿があった。


ハルトは恐る恐る声をかけてみた。

「お前……ルシア……なのか?」


「はい!ハルト様のおかげでエンペラースライムに進化することができたようです」

ルシアは自分の胸に手をあてながら進化を喜び微笑んだ。

どう見ても性別が無いように思えないほどの可愛さがそこにはあった。


エンペラー?皇帝?さっきまでふわふわの愛くるしい姿だったスライムが魔王になっちゃったの?


「あのさ、加護の声で魔王化って聞こえたんだけど……」


ロンドが驚いた。

「なっ!魔王!??魔王って言ったら世界にたった六人しかいない最強格の魔族のことだぞ!?」

「はい。その魔王に進化できたみたいです」

ハルトのせいで予期せず7人目の魔王が誕生したようだ。


ハルトとロンドは言葉を失ってルシアを呆然と見つめた。


ルナはルシアを見て、その進化を喜ぶ愛くるしい見た目にたまらず飛びついた。

「わーい♪ルシアちゃんかわい~♪あっ!進化してもひんやりしてて気持ちいい~♪」

「ちょっと……ルナ様!くすぐったいです……!」

ルシアはすり寄るルナに戸惑っていた。


「まぁこの姿なら人としての暮らしも出来るしいっか」

「そんな軽く……。旦那?魔王ですよ?」

「魔王って言ってもルシアはもう家族みたいなもんだし大丈夫だろう」

「まぁ口外しなけりゃ大丈夫……なのか?」

ロンドは困惑していたが、本人も進化を喜んでいるし問題ないだろう。

抱き着いて離れないルナに困惑しているルシアをハルトは微笑ましく眺めていた。


「ちょっと!ハルト様!ロンド様!助けてください~!」



他の皆にも食料泥棒事件のこととルシアの紹介をするために皆がいる屋敷に向かった。

道中で何故進化した直後に服まであったのか確認すると。服は体の一部を変化して作ったものらしい。自然と元からそうあるかのように進化するときに変化できたそうだ。

スライムほんとに何でもありで素晴らしい。性別は無いといってもこの容姿で裸だと困るところだった。

元のスライムの姿にも戻ることができるそうだ。

他にも進化によって様々なスキルや魔法を獲得したそうだが、聞いてもよくわからないのでそのうち聞くことにした。


皆に紹介すると始めは驚いていたが、ルシアの容姿が年の近い少女のような姿なので皆はすぐに打ち解けていた。

ここでも皆にすり寄られてルシアはハルト達に助けを求めていた。

猫達はひんやりとしたスライムボディを気に入ったらしい。


こうして街に新たにスライム(魔王)が仲間に加

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