第十三話 少年は平和を享受する
「幸せだあ」
最近、僕は何もかもが上手くいっている気がする。
朝一でこんな呆けたことを言っているのだからどれほどのものかわかるだろう。
『フィルくんが幸せそうでよかったよ』
半目で見てくる悪魔にも今の僕なら明るく対応することが出来る。
(悪魔もすごいじゃないか、かなり言語を覚えてきてるし。まあ10年もいたのにこれまで覚えられなかった方が変だと思うけどね!)
『やめてくれ!それはクリティカルヒットしてしまう』
僕が仕事を始めてから早1か月、あっという間に過ぎていった。
毎日決まったルーティンをこなす。
まず朝は日の出とともに始まる。
洗濯をし、馬の世話をしに厩舎へ行く。その後、午前のうちに道の清掃をしつつ、たまにそこらで放置されている死体の処理をし、昼ごはんを食べる。ちなみに昼ごはんは自炊である。
午後は水門の確認をした後、見回りをすれば基本的な仕事は終わりだ。
たまに他の仕事、糞尿回収人の手伝いなどをやらされたりもする。
これに関しては...まあ軽めに言って地獄である。
時間が余ったら、ゴードンから体の動かし方を、悪魔から刀の使い方を学ぶ。
そうして夕飯を食べた後、ひっそりと彼女に会いに行くのである。
そう、シドニアである。
正直言おう、この1か月で僕らの距離はこぶし1個分くらい縮んだと思う。
ああ、あともちろんゴードンともかなり仲良くなれた。
雑談もよくするようになったんだ。
「そういえば、ゴードンって聖書持っているのか?」
彼女と話すときのためにきちんとした聖書の内容を知りたいと常々思っていたのだ。
「完全版は持ってないぞ。何個かの話だけ収録したやつはある」
そう言ってゴードンはそこらに置いてあった本を持ってくる。
「これ、死ぬほど高かったからな、丁寧に扱えよ」
渡されたのでペラペラとめくってみたものの全くわからない。僕はさっさとゴードンに返した。
「文字が読めないんだ」
「ああ、まあそうか」
「...」
「じゃあ、教えてやるよ。文字くらい」
「いいのか?」
「これを読めないのはかわいそうだからな」
そう言って、この本について熱く語り始めた。
「これには勇者の物語とオートルの物語が収録されてるんだがな、やっぱり面白いのはオートルの物語の方だな。知ってるか?ここらは数百年前に一度帝国に侵略されて、帝国領に組み込まれたんだが、圧政をしかれて民は皆苦しんでいたんだよ。そんな中でオートルという男がその剣技と頭脳を持って、帝国からここを奪還するんだ。まじでかっこいいぞ!勇者の物語は神からの力で基本戦っていくからな、ちょっと現実感がなくて共感できないんだよな」
...ゴードンと僕の趣味が合わないことは分かった。
まあ、しかし、不満なのはそれくらいで、あとは大体満足してる。
まさに平穏。
まさに平和。
これがずっと続くといいなあ。
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