第十一話 少年は修道女のことを知りたい
「何というか、勢い余った気がする...」
僕は道の端で汚物を除去しつつ、腰につけた弧剣――悪魔曰く刀を見つめる。
(おい悪魔、これ本当に使い物になるのか?)
『切ることに関しては世界でもかなりの性能というのは聞いたことがあるぞ!』
(でもこれ片刃だから、普通のものみたいには扱えないよな...)
『安心したまえ。刀専用の術がある!』
(でも、それここじゃ学べないんだろ?)
『ふっふっふ、これでも俺は親に体力をつけろという名目で剣道を習わされていたのだ』
(でも、それ実戦で役に立つレベルなのか?)
『ギクッ、いやまあそれなりにやってたし、たぶん...』
悪魔はそう言って剣を振り下ろすふりをする。
『あれ?なんか軽い。いやそもそも俺、質量ないか』
僕はそれを横目で見る。なかなかにちゃんとしているように見えるのだから驚きだ。
『いける!いけるぞ!幽霊ってほんと思った通りに体が動くな』
楽しそうに動き回っている悪魔を見るに、それほど妄言でもないのかと思う。
少し希望が出てきて、清掃のスピードが上がる。
汗を拭こうと顔を上げるとある建物が目に入った。
飾られている大きな円のシンボル、教会である。
「一休みしてもいいよな...」
ここまでぶっ続けでやってるのだ。
僕は開け放たれた扉から教会の中を覗く。素早く見渡すが...いない。
彼女がいない。
僕はかなり大胆な行動に出たと思う。
今いる牧師さんが10代くらいのかなり若い人だったとはいえ牧師さんに自分から話しかけたのだから。
「あの、すみません」
「は、はい。何か御用でしょうか?」
「あの、ここにいる修道女さんって今いないんですか?」
「修道女ですか?...ああ、先生のお客のかたですね。彼女は教会には来ませんよ。中央から来られた方で、宗派が異なりますから」
「でも、夜に...」
「夜?えっとご存じだと思うんですが夜は教会に立ち入ることが禁止されています」
「修道女さんも?夜、教会の中にいるのはだめなんですか?」
「?はい」
「そ、そうですか。ありがとうございます」
僕はそうとだけ言うと足早に教会を後にした。
彼女は教会の掟を破って、あそこにいたのか。何のために?
わからない。彼女の思考を知りたい。
彼女のことをもっと知りたい。
「どこほっつき歩いてんだ」
急に後ろからどつかれる。振り返ると案の定ゴードンである。
「いや、ちょっと教会に行ってて」
「なんか、意外だな。まあいい、見回る所行くぞ」
「はい!」
これから毎日見回る所、ということで距離があるといやだなと思っていたのだが、意外とその場所は近くにあった。
「うい、ここだ。昔は貴族の別荘だったんだが、今は使われていない。周りに花畑があるから花屋敷って言われている」
「ここですか」
『花屋敷か、なんか聞いたことあるな』
まあまあ大きな屋敷だと思う。ツタが生い茂った石造りの古い屋敷の周りに花が咲き誇っている様子はなかなか絵になる。
「かなり豪勢な屋敷だったんだがな。屋敷の主人がここで殺害されて、不吉だってことで誰も住まず放置されてたんだ。でも最近ここで変な人影を見たり、この屋敷から光が漏れていたのを見たという情報があってな。見回ることになったというわけだ」
「わかりました」
『あれ、これって俺らにめっちゃ向いてる仕事では?』
(なんでだよ?)
『だって、古びた屋敷、事故物件、不思議な現象だぞ?そんなの...幽霊の仕業に決まっているだろう!』
(...)
『いやあ、やっとお仲間に会えるかもしれないのか。感慨深いな。でも怨霊系だったら怖いかあ』
(はあ、お前の仲間だったら安心だな)
『なんで?みんな俺みたいにきれいな心を持ってる幽霊ばかりじゃないと思うよ?』
僕は世迷い事を言う悪魔の方を向き、笑顔を浮かべる。
(だって、みんなお前みたいに実体のない頭しか持ってないんだろ?)
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