第十話 少年はロマンを感じる
「あのすみません!」
僕は美しい花畑を歩いている銀髪の少女を呼び止める。
教会で見たときも思ったが彼女の振り返り方はまるで芸術だ。
僕は勇気を振り絞って言葉を紡ぐ。
「初めて教会で見たときから僕はずっと、あなたのことが...」
彼女は言葉を振り絞る僕をその紅い目で穏やかに見つめ、口を開く。
「私、好きな人がいるんです」
その瞬間頭を殴られたような衝撃に襲われる。頭が鈍い痛みを感じ取り思わず、頭に手を当てる。
『おい、大丈夫か?』
大丈夫なわけないだろう。たかだか言葉だというのにこんなにも痛いなんて...いや、これはショックとかそういう類いのものではないな。
ゴトンッ
また頭に衝撃がはしる。反射的に目を開けた。たくさんのがらくたが積み重なっている――ゴードンの家の中である。
「夢か、よかったあ」
こちらの方が現実であることを認識してほっと息を吐く。
『おい、上、落ちるぞ!』
悪魔の叫びを聞いて、咄嗟にがらくたの山から降ってくる物を避け右手でキャッチする。
(っあぶないな。この家、危険過ぎるだろ...)
『でも、屋外で野宿することに比べたら雲泥の差なんだろ?』
(それはそうだ)
昨日欲張って、ここで泊まらせてくれるよう直接頼み込んだのは得策だった。少しずうずうしかったかもしれないが、心底そう思う。
「あ、起きてんじゃねーか。仕事の説明するからこっち来な」
ゴードンから呼ばれたため、なんとか足の踏み場を見いだして部屋を横断し、昨日座った木箱にまた座る。
『翻訳してくれてもいいんだよチラッチラッ』
(わかったって、だからその擬音やめてくれ)
「とりあえず、今日は道の清掃、馬の世話、浮浪者の死体処理、水門の作動確認、見回りくらいはやれ。日給は...宿代とかを天引きして銅貨50枚ってところだな。いいか?」
「はい。ゴードンさんの仕事って戦闘とかバチバチするようなのじゃないんですね」
少し拍子抜けする。
「まあ何でも屋だからな、何でもやるさ。ただ、お前がやる見回りに関してはちょっとめんどいことになるかもしれん」
「ただ町を見回るだけじゃないんですか?」
「いや、お前は町の外にある建物を見回ってもらう。それがまあいわく付きでな。一応武装して行った方がいいだろな」
「武装って言っても武器持ってないんですが」
「それならそこらへんに武器があるから適当なのを選べ」
ゴードンは武器が無造作に置かれているゾーンを指さす。
僕はそこに近づき、見回す。
「何でもいいんですか?」
「大体はな」
ふむ、やはりこういうときは剣を選ぶべきだろうか。
槍とかも興味はあるが、さすがに大きすぎてかさばるからなあ。
『おい、フィル!ちょっと来いよ』
悪魔が興奮して、手招きをしてくる。僕は息を吐きつつ、そこへと向かった。
『これ、見ろよ!』
悪魔が指さしているのは剣のようだった。ただ、普通のものとは違い、剣が反っている。
試しに手に取り、鞘から抜いて見ると刀身が異常に薄く、片方にしか刃がない。あきらかに実戦では使い物にならなそうな代物だ。
『そう、全小中学生男子の憧れ...カ・タ・ナですよ!』
悪魔が目をキラキラさせて話す。
「弧剣はやめた方がいいと思うぞ」
(ほらゴードンもやめろって言ってるじゃないか)
「勇者の武器に憧れるのはわかるが、弧剣はなあ」
「...勇者?」
「あれ、知らなかったのか?弧剣といったら、かの勇者が愛用した武器だぞ。今や儀式とか舞台ぐらいでしか使われないがな。それも前、劇団で助っ人として勇者役をやった縁でもらったやつだ」
「...そうなると、すごい価値のあるものなのでは?」
「一応、聖都の専門の職人が作ったものらしいが、そもそも弧剣は教会によって売買が制限されてるからな。金にはなんねーんだよ」
「じゃあ、これにします」
「は?へ?なんで?」
「だって、勇者の武器とかロマンじゃないですか!」
『あのなあ、刀は全人類のロマンなんだよ!』
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