第七話 幽霊は少年の名を知る


『...んー、暇だなあ』


 これ見よがしにつぶやいて見るものの少年は安定のスルーをして、隣家のおじいさんと話している。


 あれから、もう1週間経った。


 盗賊たちはボスっぽい人がゴードンというおっさんに捕まり、他の盗賊もおっさんが捕まえた。まあほとんどが酔っ払っていたのであとは簡単だった。


 妹ちゃんは無事生存!少年はあの後2日寝込み、起きるとすぐに少年に狩りを教えていた男と死んでしまった盗賊を火葬し、男は墓に、盗賊は森にそれぞれ灰をまいてあげた。


 俺はそんな忙しい中、やることもなくいつも通りの観察生活に戻っていた。


 お、そんなことを思っているうちに話しは終わったようだ。少年も大変だなあ。


(おい、ちょっとついてこい)


 少年がこちらに向き直り俺と3日ぶりに目を合わす。


『っはいはい』


 少年は外套をさっと羽織り、外へと踏み出す。


 ...正直少し驚いた。なんとなく日常に戻った以上少年とはもうほとんど話すことはないんだろうと思っていた。


 少年は村の高台へと足を進める。


 俺もそこに何があるかは知っていた。


 少年は小さな墓に手を置き、何かをつぶやくと、墓の横に静かに座り込んだ。俺もさっと墓に手を合わせてから少年の隣に座った。


(...今回のことはありがとう)


『おう、改めて言われると照れますなあ』


(僕一人だけじゃ多分妹を助けられなかったと思う)


 そう語っている少年の頬を涙が伝った。


『お、おい、大丈夫か?』


(大丈夫なわけないだろっ!僕らは親がいないから村に育ててもらってたんだ。でも、今回の襲撃で色々なものが壊された)


『...』


(だから、僕らはここからでないといけない。でも、よかったんだ、妹といられるなら。それなのに......それなのにリナは僕とは別れて、修道院に行くんだと!)


『お、おう』


(いい加減、妹離れしなさいって言われて...。で、でも、これまで父さんや母さんが言っていた通り妹をっ幸せにするのが使命だと思って、来たのに、どうすればいいんだよっ!)


『えっと、その...ドンマイ』


(これから、どう生きていけばいいんだよお)


 号泣する少年を前に正直ドン引きしていた俺もさすがになんとかしなければと慰め始めた。


『いや、うん、まあ、なんとかなるよ』


(なんとかならないんだよおおお)


『生きてたらなんとかなる、らしいぞ?』


(らしいってなんだよ、てかお前何歳だよ?)


『死んだのが14歳のときだけど、ここに来てからも含めると20は超えるな』


(...え、もっと下の年齢かと思ってた)


 さっきまで少年は号泣していたのに、すっと涙が引っ込んでいた。


『いや、少年のほうが年下な。てか、少年はどうするつもりなの?もうここでは暮らせないんでしょ?』


(うん、まあどうにかなる、のかなあ?)


『いや、やばくね?』


(...やばいかも)


『それならもう、とりあえずは生きることを目標として頑張っていけばいいんじゃね?』


(...うん、そうだね、うん)


『俺も手伝うからさ?』


(いや、もう手伝わなくても大丈夫だよ)


『え、別に迷惑とかでもないよ?』


(今回、助けてもらったし、後は自分で頑張るよ)


『いや待て』


 少年が不思議そうにこちらを見る。


『...あのさあ、もう常時無視生活とかいやなの!こっちは暇すぎて仕方ない!だから、俺自身のためにも手伝わせて...ほしい』


 そう言うとこちらを見つめていた少年の口の端が上がり、堰を切ったように笑い始めた。


(そっか、うん、もちろん、いいよ。よろしくね、悪魔)


『だから、悪魔じゃなくて幽霊だってば』


 そう言いつつも自分の口角も上がっていることに気づいた。


(そろそろ、行きますか)


『了解、少年』


 少年は立ち上がり、歩みを進めた。俺もついていく。


(てか、なぜに少年?名前は...わからないのか。)


 いや、違うよ。さすがに言語能力が全然なくても名前くらいはわかってる。




「僕の名前は、フィル」





 ただ、このとき発せられた名前みたいには自分に飛び込んで来なかっただけ。




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