第六話 少年は後始末に追われる


 頭の中で響く声が起床を勧める。


 僕はうるさいなあ、と思いつつも目を開けた。


『good morning!今朝もまた晴れ晴れとしたいい朝だね!』


(雨降ってるけど?)


 僕は戯れ言に言葉を返しつつ起き上がる。


 それと同じくして扉が開けられる。僕はいち早くリナの姿を見ようと扉を見る。


「リナだいじょ......ゴードンか」


 期待に反して入ってきた目つきの悪い男は苦笑いで話しかけてくる。


「戦闘の後、急に倒れて数日寝込んでるから心配だったが、元気そうでよかった。というか、いつから呼び捨てになったんだ?」


「ほっとして気が抜けただけなので大丈夫ですよ...ゴードンさん」


「いや、もう戦友みたいなもんだしな。呼び捨てでいいぜ」


 ゴードンは笑ってそう言うとベッドの横の椅子に座る。


「リナは無事なんですか?」


「ああ、あいつら人身売買をする気だったみたいでな、心配してるようなことは全くなかった。普通に元気にしてるよ」


 そういえば、依頼人が10歳ぐらいの子供を所望しているとかなんとか言っていたな。吐き気がするようなことだが、リナが無傷ならばいいだろう。


「盗賊はどうなったんですか?」


「少し取り逃がしたが、ほとんど捕まえたぞ。町まで移送されて、そこで処刑されるんじゃねーかな」


「あの、僕が刺した人って」


「ああ、死んだよ。遺体はとりあえず放置してる」


「なら、僕が葬ります」


「わかった」


 そう言い、ゴードンは立ち上がった。


「元気なら、妹さんが朝食を作ってたから行ってあげな」


「はい、もちろん!」


「あと、あのナイフは屋敷に返しておいたぞ。まあ盗賊が来る少し前から不在らしいし、ナイフが持ち主のところに帰るかはわからないけどな」


「...その、騙したのは本当にすみませんでした」


「いいよ、そもそも騙されてねーし」


「え?」


「仮にも領主の傍系を名乗るなら服くらいはちゃんとしたものを着るんだな」


「...なら、なんで来てくれたんですか?」


「結構な大罪である詐称をするっていうことは何にしろただ事じゃないだろ?」


 そうとだけ言うとゴードンは立ち去ろうとする。


 僕はベッドから出て、ゴードンに向かって心からの言葉を放つ。


「ありがとうございました」


「ん、また困ったことがあったら、どうぞ何でも屋のゴードンをご贔屓に」


 そう言い、ゴードンは立ち去った。


 僕はそれを見送り、食卓へと足を向ける。


『まじで言語覚えよう...』


 意気消沈している悪魔を超えて、食事をするところに足を踏み入れる。


 すると、黒髪の美少女―リナと目が合った。


「お兄ちゃん!」


「リナ!」


 久しぶりにリナのことを思いっきり抱きしめる。


「よかった。起きたんだね!ご飯作ったの、食べて」


 リナに促されて食卓へとつく。


『うわあ、おいしそう!妹ちゃんまじすげええええ、俺も食べたいー』


(とりあえず、リナと話す間は黙ろうか)


『兄妹の会話に茶々を入れるほど性格悪くないし、黙ってますよー』


「それでリナは本当に大丈夫なのか?」


「うん!リナは全然大丈夫だよ。でも、おじさんが」


「...おじさんはもう埋葬したのか?」


「...ううん」


「そうか、じゃあ今日中に俺がやっておくよ」


「うん...」


 リナは泣きそうになりながら答える。


「おじさんも村の人たちを守るために戦って死んだなら本望だっただろうよ。そういう人だろ?」


「うん、そうだね」


「だから、僕らはおじさんを誇りに思って送ろう?」


 リナは黙ってうなずく。


 そして、少しの沈黙の後話し始める。


「お兄ちゃん、傷は大丈夫?」


 リナは僕の頬の傷跡に手を触れる。


「うん、でもたいした傷も無かったし心配するようなことじゃないよ。」


「でも、すごく危険だったって聞いたよ?」


「そんなことないよ。お兄ちゃん、敵の攻撃を全部避けたんだから......まあそれはある人のおかげなんだけどね」


「...お兄ちゃんはリナのために戦ってくれたんだよね」


「ん?うん」


「そっか、あのね、話したいことがあるの」


「リナ、修道院に入ろうと思う」


「...へ?な、なんで?」


「今回のことで村のものがかなり壊されたり、荒らされたりしたよね。だから、みんな大変なの。おじさんも死んじゃったし、これまでみたいに村の人たちに助けてもらい続けるわけにはいかないと思う」


「だからって!」


「村によく来る牧師さんに前から誘われてたの。平民で修道院に入れるなんてなかなかない機会だし、入りたい」


 リナがこちらを見つめる。


「リナはやりたいことをやる。だからお兄ちゃんももうリナのことを考えずに自由に生きたらいいよ」


「待ってくれ、お願いだ。考え直してくれ」


「ううん、これはもう決めたことだから」


「そこでリナに何かあったら誰が助けるんだ!」


「自分のことは自分でなんとかするよ。だから......お兄ちゃんもこれからは私のこと気にしないで」



 リナはくしゃっとした笑顔を見せた。




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